23.出会った頃よりも
フェルド伯爵邸は、無駄の無い美を追求した
洗練された豪華さだった。
シンメトリーの屋敷の中は調度品も対になって
飾られている。
思ったよりも奥の間に案内されようとしている。
長い廊下を歩く間に、心臓の爆破がカウントダウン
されているかのようだ。
ハラルト特務のお見舞いもまだなのに、先に
お母様に…お会いする事になるなんて!
ただの同僚という扱いでないことはもう
分かっている様だった。
意外だったのは、彼が家族にロゼッタの話を
していたという事。
人に相談事をするようなタイプにも見えないし…。
コンコン
「奥様、ロゼッタ嬢がお越しです」
「どうぞ…お待ちしてたわ」
中から優しい声がした。
重厚なドアを開くと、薄紅や、橙色の花が
あちこちに飾られ、明るい日差しが差し込む
素敵な空間に、ハラルト特務のお母様がいた。
「まぁ…あなたがロゼッタ嬢?可愛らしい方ね」
ソファーの隣のユリの香りが、お母様の雰囲気と
重なってより素敵に感じた。
「は、はじめまして。あの。ハラルト特務とお仕事を
させていただいております。ロゼッタ·ヘートヴィヒ
と申します」
ロゼッタ ドアから一歩入っただけの場所で
しっかり頭を下げで挨拶をした。
「あらあら、……お客様さまですのに…気が利かずにごめんなさいね。こちらへどうぞ……」
お母様の向かいのソファーを勧められて、
ロゼッタはそそ、と座った。
すると、
急に始まったお茶会かのように、侍女達が
お茶やお菓子でおもてなしを始めた。
「あの…今日はハラルト特務のお見舞いをと思いまし
て…」
と、言って持っていた見舞いの品を差し出す。
「ホントに。ハラルトが発熱したなんてびっくりした
わ。それも…知恵熱なんて…ふふ」
ん?知恵熱って…。
高価そうな紅茶の香りがこちらにも漂ってくる。
「きっと答えが出ない何かにぶつかったのね、恋の」
恋の!
その言葉に、ドキッとする。
もしかして…彼の発熱の原因であるとして
ここに呼ばれたのでは?
「も、申し訳ありません」
すぐさま頭を下げた。が、
「あら、どうして謝るの?」
ティーカップを持っていた手が止まった。
「——ハラルト特務が、私のせいで発熱されたと…」
「あらあら、そんな事で貴方を責めたりしないわ
むしろ感謝しているのに…」
再び、ティーカップを口に運び飲み終えた
口元は、ニコリと微笑んでいた。
それから、彼について話してくれた。
今まで、エミリーの見合いだけでなく、あらゆる見合
いを理由なく断り続けていた事。
仕事以外に興味がなかったこと。
しかし、先日の見会いを断った時に初めて理由を
話した。
ロゼッタという女性を見ると、胸が…苦しく
なるのだと。
あの時……。
「それで、最近は恋人になったと聞いて、私は
飛び上がる思いでいるのよ?わかるかしら?」
お母様は、本当に嬉しそうだ。
「は…はい」
良かった。悪い話で無くて……。
「それで、いつごろ…結婚式を?」
「え?」
「ロゼッタ嬢…あなたが良けれはすぐにでも
嫁いで来て欲しいの!」
突然、飛躍した話になってきた…。
「あ…の…。ハラルト特務からは私…何も言われて
おりませんし…お仕事に集中したいと以前仰って
ましたので…」
そういって、ロゼッタはだまってしまった。
「フフフ…そうかしら?」
お母様の不適の笑みに、背筋がゾクゾクとする。
お互い次をどうしようと思っていると…
「ロゼッタ!」
勢いよくドアが開いて、後ろからハラルト特務の
声がした。
「見舞いに来てくれたと聞いて…。ありがとう」
病と言ってもきちんとした身なりで、
とても元気そうな様子だ。
「お加減、いかがですか?ハラルト特務」
ウンウンと寝込んでいたらどうしようと
思っていただけに、ほっとした。
「君が来てくれたと聞いて、急に元気になった
よ。ロゼッタ……良ければ私の部屋を案内しよう」
「え、でも…」
お母様とお茶の途中だ…
「ロゼッタ嬢、気にせずゆっくりしていってちょうだ
い。そのほうがうまくいくわ」
にこやかな笑顔で送り出してくれた。




