21.すれ違い
スタッフの声がざわめく中、ハラルト特務に
手を引かれて研究室に入った。
「あ、あの…。
どうしたんですか?急に…」
今までこんな事などなかった。
いつも私を見つけて、優しく微笑んでくれたのに…。
今は…以前のような少し暗い……無表情。
思い詰めているのだろうか…
お気に入りのスタッフが出来たことを、私に
言えずに……。
「も、もしかして…好きな人が?」
間違いであってほしいけど。勇気を出して
聞いてみる。
しかし、ハラルト特務の答えは……
「流石だロゼッタ。よく分かっている」
そんな!
「——ほ、ホントですか?もう?そんな。ううっ」
一瞬で溢れる涙。
ようやく実った恋だったのに、やっぱりあの時は
私しかいなかっただけだったのか。
好きだと言ってくれたのは、つい先日のこと
なのに…。
ロゼッタの心は海の底の様に暗く沈んだ。
※※
研究室に入って、一言交わしただけなのに、
またしても私を見て、溢れんばかりの涙を
流している。
このごろすぐにわかるようになった。
この涙が『うれし涙』ではないこと。
「ロゼッタ、どうしてだ?」
悲しませたくない。私の前で流す涙は
うれし涙であってほしい。
どうしたらその涙が止まるのかがわからず、
思わずロゼッタを強く抱きしめた。
抱え込むようにぎゅっと。
そして、もしかしたら私の『恋心』とやらが
通常でないかもしれないことが、今回の原因かも
しれないので、ロゼッタに話しておこうと
思った。
「……好きな人の笑顔は私だけのものだと思っていたのに
君は悲しい顔ばかり私に見せて、コンラートに
は笑顔を見せている…。
君の笑顔は私のものだと思っていたのに…!」
私は間違っているのか?教えてほしい。ロゼッタ!
※※
え?
私の笑顔が見たかった?
苦しほどに抱きしめられて、つつみ込まれる。
考えていた事と、状況がちがう…。
「あの…ハラルト様は好きな人ができたのでは
ないのですか?」
もう、涙が止まっていた。
すると、驚いたように両手でロゼッタの頬を挟み、
ぐいっとハラルト様の方へと向けられた。
「なに?もう忘れてしまったのか?私が好きなのは
ロゼッタ。君だ。
そんなにすぐに忘れてしまうなら、これからは
3日に一度言わなければ!」
目を大きく見開いて、のぞき込むように私を見つめ
て来る。
…ハラルト特務は頭を押さえてたまま青ざめて
いると思ったその後…
ふいに彼から出た言葉。
「……ロゼッタが……全然研究室に来ないから、
私は……私はおかしくなりそうだっ!」
——なんと…上級研究員とは思えないほど。
……論理的ではない叫びだった。
とてつもない難問にぶつかったその表情。
「恋愛とは、こんなにも難しい研究だったのか。」
その夜。
ハラルト特務は発熱した。




