20.心配なこと
「ねぇ、ロゼッタ気づいてる?この頃ハラルト特務
の研究室に行く子が増えてるけど?」
セシルも気づいていたみたい。
この3年間誰も近づかなかったし、興味もなかった
ハラルト特務研究室が、この頃賑わっている。
今朝だって、すこし遅れて朝の資料を取りに言った
ら、ハラルト特務すら気が付いていなかったけど、
誰かが引き受けた後だったし。
さらに、ロゼッタの作った資料を代わりに届けて
くれるスタッフまで現れた。
休憩室で彼の事をロゼッタに質問してくる子まで!
「……もともと、専属制ではないから…ね。でも
どうしてかなぁ?」
「そりゃ、ハラルト特務がロゼッタに向ける、
あのステキな笑顔をみたら…ねぇ?」
「そ、そんなに?」
セシルはニヤニヤしている。
「良かったわね!」
それを皆に見られていたかと思うだけで、
顔面から火が出そうだ。
※※
この頃、ロゼッタ以外のスタッフが私の研究室を
出入りする事が増えた。
ロゼッタが来たと思って顔をあげると、見慣れない
スタッフがウキウキした様子で話しかけてくので
面倒だ。
「ハラルト特務、これから時々お手伝いに参りますの
で、よろしくお願いいたします。」
ロゼッタで間に合っていると思うが、スタッフの
都合もあるのかと思い、何も言わない事にしている。
仕事に集中している間に、誰かが資料を持って行くた
め、ロゼッタに余裕ができたのか、彼女はこの頃
他の研究室も出入りしている事が分かった。
「ハラルト、お前がロゼッタ嬢に仕事を頼んでいた
理由が分かったよ…彼女すごく仕事が丁寧で早い」
以前、コンラートがロゼッタの優秀さに気付き、
その評判を聞いていた他の研究員が最近、
ロゼッタに話しかけて、それからその研室へも
出入りして……。
そうして今、この状態になっている。
そう……、段々とロゼッタが
私の研究室に来る回数が減っている。
正確には以前の半分だ。
しかも、知らないスタッフが
手作りの差し入れや、刺繍のハンカチまで、
多様なものを勝手に置いていく。
特に興味のない補助スタッフから好意を寄せられると
いう現象がなぜ起こったのかもわからない。
ロゼッタ以外から、手作りのクッキーなどもらっても
特に感情は無いので、放置しているが、
だからといってそのままにしておくと…
「あら?ハラルト特務。これは?」
「ああ…昨日アリアナが置いていったようだ。
…忘れていた」
「——ハラルト特務、私の名前は1年経ってようやく
覚えてくださったのに…アリアナはすぐに覚えたの
ですか?
それに…贈り物まで受け取って……?」
そう言って眉毛が下ってしまう彼女。
ロゼッタが今持っているクッキーのリボンにある
名前が見えただけだが。
「ロゼッタ、食べるか?」
なだめるように笑顔で勧めてみた。しかし…
「——私は遠慮しておきます。それはハラルト特務への
贈り物ですから…」
さらに暗い表情になってしまったロゼッタ。
「この頃、ハラルト特務の研究室は…人気だそうですね。
コンラート様に聞きました。私より気の合うスタッフ
がいたら、遠慮なく言ってくださいね……」
しょんぼりしたロゼッタに、なんと声をかければよい
か、なぜロゼッタは、私に気が合うスタッフがいると
思ったのだろう…。最近ロゼッタは触れて欲しいとも
触れたいとも言わない。
もっと触れたいのは私だけなのか?
数日後。
休憩を取るために研究室を出る時は、ロゼッタの
席を確認してしまう。
今日ロゼッタに渡した資料は今作成中だろうか?
しかし、そこにロゼッタはいない。
スタッフルームを横切ろうとして、
きき馴染みのある声を拾った。
「——分かりました。ではなるべく早く作成して
お届けしますね。コンラート様」
ロゼッタと、コンラートが話しているのを見かけた。
その時のロゼッタの笑顔に…ショックをうける。
昨日、私に向けた表情と違うあの可愛らしい笑顔!
なぜだ!
なぜ、コンラートには可愛らしい笑顔をみせて、
私には悲しい顔をみせるんだ?
急いで文献を調べる。
想いが通じた後でも、永遠に幸せでいられる
カップルの割合は低いようで、
原因の多くは、すれ違いと第三者の介入。
……現在の状況と一致している。
焦った私は、席に戻ったのロゼッタの
手を引っ張って、研究室へと連れて行った。
スタッフルームからは、「きゃあー」という声と
ヒソヒソ話す声がしていたが、私には関係ない。




