16.難解な公式
「ハ、ハラルト特務っ。あのっ…」
嫌では無い。と聞こえた。
本当に?
でも。
ロゼッタから抱きつく事が出来ない理由は?
気づいているのだろうか。
『恋人ごっこ』では……
ロゼッタから抱きしめたり、
キスする事はことはできないのだ。
そして——その理論はハラルトにとってとても難解
だろう。
「……やや難解な部分に入ったようだな」
まるで初級者向けから専門的分野に入ったかの
ような感想。
「そ、そうなんです。ここからは『ごっこ』では
難しい部分が…」
嬉しい気持ちの反面、実際これ以上のごっこは無理だ
と感じていた。
どれくらい通じたか不安で俯きモジモジして
しまう。
すると今度は
「君からみて、私に変化は見えないか?」
それは研究者のして冷静な質問だった。
ハラルト特務の変化。
ここ数日、ハラルト様をみて思っことや気づいたこと
を順番に思い出してみる。
……出会った頃に比べれば仕事以外に、
恋について考えようとした事?
それに、
ロゼッタを不快とは思わなかったことと、
恋の理論を考察する相手として、エミリーで
はなく、ロゼッタを彼自身が選んだという事。
しかし…
それだけではまだ、恋の入り口にも立っていないだろ
う。ロゼッタが気づいたことは恋に関する変化とは
思えなかった。
「ハラルト様はご自身で何か思うことはありません
か?」
ふと、ハラルトの頭の中ではなく心の変化が
気になった。
両腕を組んで背中を丸め、俯き加減になり、
しばらく黙ったかと思うと、
「それは…」
と、
驚くべきことを口にしたのだった。
「——君にもっと触れたいと思うようになった」
——。
ロゼッタは目を見開いたままハラルトを
凝視した。
シンとした時間が流れる間に、
先程のハラルトの言葉が何度も頭の中を反芻して
ロゼッタの脈は早くなり、耳も頬も熱を帯びていく。
そんなロゼッタをみてハラルトはさらに続けた。
「ときどき、その赤くなる顔をみると…
もっと見ていたくなる。それに…」
攻めるように続く彼の言葉。
ハラルト様?
「それに、君がそばに来ると少し……胸が苦しくなる。
しかし…医者に見せたが病気ではなかった…」
そこまで言うと、ハラルト様は恥ずかしがることもな
く、まっすぐにロゼッタを見つめた。
すると、まだ言い残したことを見つけたようで
少し落ち着かない様子で話し始めた。
「最後に、一つ理解できない現象がある。」
「現象……ですか?」
「君の頬ではなく……。」
「君の唇に触れたいと思った事がある」
射抜く様に、ブルーの瞳がロゼッタの瞳を捉えたの
だ。
あっ……。
小さな悲鳴を上げ、
ロゼッタは、その瞬間。意識を飛ばして、
倒れてしまった。




