11.あの彼女
「あ、あの…」
いつの間にハラルト特務の研究室に令嬢が入室
したのだろう?
セシルとのやりで、全く気が付かなかった。
「ごめんなさい、私、エミリー·ヴァルシエと申します
ハラルト様は外出中かしら?」
エミリー。
それは所長の姪で、ハラルト特務のお見合い相手
だった。
こんなに美しい方だったなんて!
エミリーは打ち合わせソファーに軽く腰掛けて
興味深そうに何もない研究室を見渡している。
ロゼッタは、3日連続の落ち込みに、もはや
言葉もでなかった。
「あの…貴方は?」
キラキラした笑顔も、ステキだ。
ハラルト特務を、しっかりと支えてくれそうな
令嬢だ。
「あ、私は研究室の補助スタッフのロゼッタです。
ハラルト特務は…今、休憩に出られているはず
ですのでもうすぐ戻ると思います」
「あら…じゃあ、ここで待たせてもらおうかしら」
ドキリとした。
研究室で待ち合わせしていたのかもしれない。
婚約者なら当然ここで待っていても問題ない。
真っ白になりそうな頭にムチを打って、
最善の答えを探す。
「では、お茶でもお持ちしますね」
貼り付けの笑顔でロゼッタは部屋を出た。
給湯室でポットから注ぐ湯気が、ロゼッタの顔
にかかる。
今日のハーブティーは何を選んだのかもよく
わからない。香りを楽しむ余裕もなかった。
いつもハラルト特務のために淹れていたハーブティー
を、婚約者のためにいれる日が来るなんて!
「まぁ、とてもいい香りね!」
再び研究室に戻ると、やはりエミリーの姿があって
夢ではなかったのだと思った。
「ありがとうございます」
ハラルト様もロゼッタにそう言ってくれた
日のことをおぼえている。
その時、
ガチャリ。
ハラルト特務が休息から戻ってきた。
「……ん?君は…確か所長の…」
はっ!ここにいてはお邪魔だわ。
「では、私は失礼しますね」
一礼して、ロゼッタは部屋を出ようとした時。
「……ロゼッタ、後で話がある」
ん?
「は、はい。ハラルト様。後でまた伺います」
そして——研究室はハラルトとエミリーの
二人だけになったのだった。
「はぁ。やっぱり。きまったのかな」
自分の席に戻っても心は研究室の中にある。
エミリーを見て、断る要素が見つからなかった。
「なんの話?」
隣の席から、
セシルがニヤニヤとロゼッタを見ていた。
「ねぇ…前からちょっとだけ思ってたんだけど、
ロゼッタって……。
——ハラルト様のこと好きよね?」
「!!!なんで?!」
ロゼッタは飛び上がる程驚いた。
だってだって、誰にも気づかれないように、
いつも気をつけていたのに!
滝のような汗が流れたような気がした。
「今日一日、ハラルト特務の仕事を補助していて気づいたの。あんな面倒で難しい上に、愛想が無い人の補助なんて……。
好きじゃなければ出来ないわよ!」




