第七十三話 褒められた翌日に大敗したので、戦術家の自信が粉々になった
ガイゼルからの書状が届いた翌日。
エリオは、再び前線へ向かった。
「……敵の動きは?」
副官が報告する。
「帝国軍の先鋒が、中央街道を進軍しています」
「兵力は?」
「約四千」
エリオは地図を見た。
「……前回と同じ規模だな」
副官が頷いた。
「はい」
エリオは少し考えた。
「……今回も、側面から攻撃する」
王国軍は、丘陵地帯に布陣した。
前回と同じように、敵の先鋒を誘い込む。
しかし帝国軍は、簡単には動かなかった。
「……敵が止まりました」
副官が報告する。
エリオは頷いた。
「……警戒しているな」
「どうしますか?」
「別の道へ誘導する」
エリオは地図を指さした。
「南側の谷だ」
帝国軍本陣。
ガイゼルは、斥候の報告を聞いていた。
「……王国軍が南側へ移動しました」
「そうか」
「追撃しますか?」
ガイゼルは静かに笑った。
「追撃する」
副官が驚いた。
「……罠では?」
「罠だろうな」
「……では、なぜ?」
ガイゼルは答えた。
「罠の形が分かれば、利用できる」
南側の谷。
エリオは、敵軍が接近するのを確認した。
「……来た」
予定通りだった。
しかしその瞬間。
北側から、別の帝国軍が現れた。
「……敵の別働隊!」
副官が叫んだ。
エリオは顔色を変えた。
「……何?」
さらに西側からも、帝国軍が現れた。
「……包囲されます!」
エリオは地図を見つめた。
「……まさか」
ガイゼルは、最初からこちらの動きを読んでいた。
帝国軍本陣。
ガイゼルは、地図に駒を置いた。
「……エリオは、前回の成功に自信を持っている」
副官が頷いた。
「はい」
「だから、同じような作戦を使う」
「……なるほど」
「だが、今回は違う」
ガイゼルは続けた。
「私が、彼の作戦を利用する」
王国軍は、三方向から攻撃を受けた。
「……撤退!」
エリオが叫んだ。
しかし、敵の攻撃は激しかった。
矢が降り注ぐ。
歩兵が押し寄せる。
騎兵が側面を突く。
「……エリオ様!」
副官が叫んだ。
「中央が突破されます!」
エリオは剣を抜いた。
「……持ちこたえろ!」
しかし王国軍の陣形は、次第に崩れていった。
数時間後。
エリオは、残存兵を率いて撤退した。
今回の損害は、前回以上だった。
エリオは、報告書を握りしめていた。
「……また、負けた」
副官が言った。
「……エリオ様」
「……何だ?」
「今回の敗北は、敵が強すぎたのです」
エリオは首を振った。
「違う」
「……え?」
「俺が、同じ成功を繰り返そうとした」
エリオは続けた。
「ガイゼルは、それを読んでいた」
アルフォンス城。
レアルは、報告を受けていた。
「……エリオが敗北しました」
ミディアが静かに言った。
「損害は?」
「現在確認中ですが、かなり大きいようです」
レアルは黙った。
やがて、静かに呟いた。
「……ガイゼルか」
ヴァルクが頷いた。
「やはり、恐ろしい将軍です」
「そうだな」
レアルは地図を見つめた。
「……だが、エリオも学んでいる」
その夜。
エリオは、執務室で一人、地図を見つめていた。
机の上には、ガイゼルからの書状があった。
『次は、私も本気で相手をしよう』
エリオは、静かに笑った。
「……本気か」
そして、書状を閉じた。
「……まだ、届かない」
その声は、悔しさに震えていた。
しかしエリオは、地図を片付けなかった。
むしろ、新しい地図を広げた。
「……ならば」
その目には、強い決意が宿っていた。
「届くまで、考えるしかない」




