第七十話 敵の天才将軍に勝てないので、天才の考え方を真似することにした
アルフォンス城。
軍議室。
エリオは、レアルとヴァルクの前に立っていた。
「……本日の軍議では、私がガイゼル役を務めます」
レアルが眉をひそめた。
「……ガイゼル役?」
「はい」
「どういうことだ?」
エリオは地図を広げた。
「これまで、私は王国軍の立場から作戦を考えていました」
「そうだな」
「ですが、それではガイゼルの考えを読み切れません」
ヴァルクが頷いた。
「……なるほど」
エリオは続けた。
「そこで、敵軍の立場から作戦を考えます」
模擬軍議が始まった。
レアルが王国軍。
エリオが帝国軍。
ヴァルクが審判役だった。
「……王国軍は、東部街道に防衛線を築く」
レアルが駒を置いた。
エリオは即答した。
「ならば、帝国軍は正面攻撃を避けます」
「……なぜ?」
「損害が大きいからです」
「では?」
「北側の街道を使います」
レアルは別の駒を置いた。
「北側には、王国軍の予備隊がいる」
エリオは少し考えた。
「……ならば、進軍を止めます」
レアルが笑った。
「……慎重だな」
「ガイゼルなら、そうすると思います」
模擬軍議は、何度も繰り返された。
王国軍が橋を封鎖する。
帝国軍は別の道を使う。
王国軍が補給路を狙う。
帝国軍は護衛を増やす。
王国軍が奇襲する。
帝国軍は予備隊で対応する。
そして「……また、引き分けか」
レアルが呟いた。
エリオは頷いた。
「はい」
ヴァルクが笑った。
「ガイゼルらしいな」
三日後。
エリオは、模擬軍議の結果をまとめていた。
そのときミディアが訪れた。
「……エリオ様」
「何でしょう?」
「帝国軍の補給資料が集まりました」
「……ありがとうございます」
ミディアは大量の帳簿を机に置いた。
「帝国軍は、補給路を三本に分けています」
「はい」
「ですが、すべての道が同じように使われているわけではありません」
エリオが顔を上げた。
「……どういうことですか?」
ミディアは帳簿を開いた。
「北側の街道は、主に食料輸送」
「……はい」
「中央は兵員と武器」
「……なるほど」
「南側は、馬の飼料と予備物資です」
エリオは地図を見た。
「……つまり、三本の道には役割がある」
「そうです」
ミディアは続けた。
「そして、輸送量には規則性があります」
エリオは、ゆっくりと笑った。
「……規則性?」
「はい」
ミディアは数字を指さした。
「帝国軍の補給は、五日ごとに大きく増えています」
エリオは黙った。
「……五日ごと」
その言葉を繰り返した。
そして「……ミディア様」
「何でしょう?」
「その五日目に、何が起きているか分かりますか?」
ミディアは少し考えた。
「……大型輸送隊の到着です」
エリオは地図を見つめた。
「……なるほど」
彼は、ゆっくりと立ち上がった。
「……ガイゼルは、補給が整った直後に進軍する」
ミディアが頷いた。
「その可能性が高いです」
エリオは笑った。
「……ならば」
その目には、確信が宿っていた。
「敵が動く日を、予測できるかもしれません」
その夜。
レアルは、エリオの報告を聞いていた。
「……五日周期か」
「はい」
「確実なのか?」
「まだ分かりません」
エリオは答えた。
「ですが、次の輸送隊が到着した後、敵軍が動くか確認したいと思います」
レアルは頷いた。
「……いい判断だ」
エリオは少し驚いた。
「……そうでしょうか?」
「ああ」
レアルは笑った。
「以前のお前なら、すぐに攻撃を提案していただろう」
エリオは黙った。
「今は、確かめようとしている」
「……はい」
レアルは続けた。
「それが成長だ」
エリオは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
翌日。
帝国軍本陣。
ガイゼルは、補給隊の到着報告を受けていた。
「……予定通り、物資が到着しました」
「そうか」
「次の進軍は、いつにしますか?」
ガイゼルは地図を見つめた。
「……明後日だ」
副官が頷いた。
「承知しました」
その頃。
アルフォンス城。
エリオは、同じ日付を地図に書き込んでいた。
「……明後日」
ミディアが尋ねた。
「……本当に動くと思いますか?」
エリオは静かに答えた。
「分かりません」
そして、続けた。
「だから、確かめます」
若き戦術家は、少しずつ変わり始めていた。




