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転生したら最悪の領主で破滅寸前の領地を押し付けられたので内政チートで立て直します  作者: レモンティー


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第六十六話 若き戦術家が敗北したので、俺は責任を取ることにした

白霧峡谷の敗北から三日が過ぎた。

アルフォンス城の軍議室には、重苦しい空気が漂っていた。

机の上には、一枚の報告書が置かれている。

『白霧峡谷戦闘報告』

出撃兵力、三千。

帰還兵力、二千二百。

戦死、負傷による取り残し、行方不明を合わせて八百。

ただし、その八百人すべての死亡が確認されたわけではない。

帝国軍に収容された負傷兵もいる可能性があった。

「……捜索は?」

レアルが尋ねた。

ヴァルクが答える。

「帝国軍が峡谷を占領しています。こちらから近づくのは困難です」

「捕虜交換の申し入れは?」

「すでに送っています」

「そうか」

レアルは頷いた。

その隣では、エリオが黙って立っていた。

顔色は悪い。

この三日間、ほとんど眠っていないらしい。

「……レアル様」

エリオが口を開いた。

「今回の敗北は、すべて私の責任です」

「違う」

レアルは即答した。

エリオが顔を上げる。

「……ですが、作戦を立案したのは私です」

「採用したのは俺だ」

「……!」

「お前の作戦には危険があった。それを承知で指揮を任せた」

レアルは続けた。

「だから、責任は俺にもある」

一人の老将軍が立ち上がった。

「アルフォンス卿!」

「何だ?」

「それでは軍の規律が保てません!」

「どういう意味だ?」

「敗北した指揮官を処罰しなければ、兵士たちに示しがつきません!」

レアルは、その将軍を見た。

「……処罰すれば、死んだ兵士が戻るのか?」

「それは……」

「エリオを処刑すれば、次の戦争に勝てるのか?」

老将軍は黙った。

レアルは静かに続けた。

「責任を取ることと、誰かを罰することは同じではない」


その日の午後。

レアルは王都へ向かった。

王宮では、敗北の報告を受けた貴族たちが騒いでいた。

「……また八百人も失ったのか!」

「若造に軍を任せるからだ!」

「アルフォンス卿の判断は間違っていた!」

レアルは、そのすべてを黙って聞いた。

やがて、新国王が口を開いた。

「……レアル」

「はい」

「今回の敗北について、説明してもらいたい」

レアルは深く頭を下げた。

「作戦の承認者は私です」

会議室が静かになった。

「現地の指揮官はエリオですが、任命したのも私です」

「……つまり?」

「責任を負うべき立場にあるのは、私です」

貴族たちが顔を見合わせた。

レアルは続けた。

「今回の戦闘で失われた兵士の家族には、王国軍の規定に従って補償を行います。行方不明者については捜索と身元確認を続け、捕虜交換も進めます」

国王が尋ねた。

「……エリオはどうする?」

「指揮権を一時停止し、戦闘経過の調査を行います」

「更迭はしないのか?」

「調査結果次第です」

レアルは答えた。

「ただ、敗北したという理由だけで、才能ある人間を捨てるつもりはありません」

アルフォンス城。

夜。

エリオは、兵舎の前に立っていた。

そこには、白霧峡谷から帰還した兵士たちがいた。

一人の兵士が近づいてくる。

「……エリオ様」

「……何だ?」

「俺の弟が、まだ帰ってきていません」

エリオは言葉を失った。

「……そうか」

「弟は、あなたを信じて出撃しました」

エリオは頭を下げた。

「……申し訳ない」

兵士は拳を握った。

「謝ってほしいわけじゃありません」

「……では?」

「弟を探してください」

エリオは顔を上げた。

「……必ず」

兵士は静かに頷いた。

「お願いします」


その夜。

レアルは執務室で、ミディアと向かい合っていた。

「……補償費用は?」

ミディアが帳簿を開く。

「戦死者の遺族への給付、負傷兵の治療費、行方不明者の家族への生活支援を合わせると、かなりの額になります」

「軍事予算から出す」

「すでに余裕はありません」

「ならば、他の支出を削る」

ミディアは顔を上げた。

「……何を削りますか?」

レアルは少し考えた。

「新しい迎賓館の建設計画だ」

「……王都の?」

「ああ」

「貴族たちが反対します」

「だろうな」

レアルは答えた。

「だが、今必要なのは豪華な建物じゃない」

ミディアは静かに頷いた。

「……分かりました」

そして、少しだけ笑った。

「レアル様らしい判断です」

「そうか?」

「はい」

レアルは窓の外を見た。

「……兵士を失ってまで守る国なら、残された家族も守らなければな」


翌朝。

エリオのもとに、一通の書状が届いた。

差出人はレアルだった。

『白霧峡谷の戦闘経過を、敵軍の立場から分析せよ』

『自軍の失敗だけでなく、敵将ガイゼルが何を考え、何を恐れ、何を狙ったかを記せ』

『提出期限は設けない』

エリオは、何度も読み返した。

そして、静かに呟いた。

「……敵の立場から」

机の上には、戦死者と行方不明者の名簿があった。

エリオはそれを閉じ、地図を広げた。

「……もう一度、最初から考えよう」

その日から。

若き戦術家の、長い研究が始まった。

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