(第二章) 第六十一話 帝国皇帝も統治システムを持っていたので、戦争の準備を始めることにした
アルフォンス城。
深夜。
レアルは、目の前に浮かぶ青白い画面を見つめていた。
【世界統治システム】
《国家級統治者:二名》
《統治者間競争:開始》
《対象国家:アルフォンス王国・ヴァルディス帝国》
「……競争?」
レアルは眉をひそめた。
領地を立て直した。
王国の財政を改善した。
帝国軍十万を退けた。
ようやく平和になったと思った矢先に、これだ。
「……勘弁してくれ」
しかし、画面は消えなかった。
【国家比較機能:解放】
《アルフォンス王国》
人口:約四百二十万人
常備軍:約四万二千
戦時動員可能兵力:約八万
財政健全度:八十一
物流効率:八十七
《ヴァルディス帝国》
人口:約千三百万人
常備軍:約十二万
戦時動員可能兵力:約二十万
財政健全度:八十九
物流効率:九十二
レアルは、しばらく黙っていた。
「……全部負けているじゃないか」
特に問題なのは、物流効率だった。
帝国軍十万を撤退させた前回の戦争。
あのとき、レアルは敵の補給拠点を狙い、進軍を止めた。
しかし、帝国はすでに対策を進めている。
「……ガイゼルか」
その名前を口にした瞬間。
画面に新しい表示が現れた。
【帝国軍人事情報】
《ガイゼル・フォン・レインハルト》
《帝国軍総司令官に再任》
レアルは椅子に深く座り直した。
「……あいつが戻ってきたのか」
翌朝。
レアルは、ミディア、エリオ、ヴァルクを執務室に呼んだ。
「帝国が軍を再編している」
ミディアが帳簿を開いた。
「帝国との交易量は、先月も増加しています。戦争の兆候はありませんが……」
「商売と戦争準備は、同時にできる」
レアルは答えた。
エリオが地図を見た。
「……敵の指揮官は?」
「ガイゼルだ」
その名前を聞いた瞬間。
エリオの表情が変わった。
黒岩谷。
あの敗北。
二千人で出撃し、帰還したのは約千二百人。
八百人もの兵士が、戦場に取り残された。
エリオは拳を握った。
「……今度こそ」
ヴァルクが静かに言った。
「焦るな、エリオ」
「……はい」
「復讐を考える者から、先に死ぬ」
エリオは頷いた。
しかし、その目から闘志は消えなかった。
レアルは地図を広げた。
「今回は、前回と同じ方法では勝てない」
ミディアが尋ねた。
「では、どうするのですか?」
「敵より先に準備する」
レアルは三人を見た。
「ミディア。戦争になった場合の財政負担を計算してくれ」
「承知しました」
「エリオ。ガイゼルの過去の戦術を、すべて分析しろ」
「はい!」
「ヴァルク。王国軍の練度を確認してくれ」
「任せろ」
レアルは頷いた。
「今回は、俺一人の知恵では足りない」
同じ頃。
帝国の皇宮。
皇帝アウグスト・ヴァルディスは、目の前に浮かぶ青白い画面を眺めていた。
【世界統治システム】
《第二の国家級統治者を確認》
《対象:レアル・アルフォンス》
皇帝は笑った。
「……ようやく現れたか」
その前には、銀髪の将軍が立っていた。
ガイゼルだった。
「陛下。王国への再侵攻をご命令ですか?」
皇帝は頷いた。
「そうだ」
「前回、私はアルフォンスに敗れました」
「知っている」
「今度は、同じ失敗をいたしません」
皇帝は静かに笑った。
「期待している」
そして、続けた。
「レアル・アルフォンスを倒せ」
ガイゼルは深く頭を下げた。
「御意」
アルフォンス城。
その夜。
統治システムに、赤い文字が浮かび上がった。
【緊急警告】
《帝国軍動員開始》
《推定動員兵力:二十万》
《王国侵攻の可能性:極めて高い》
レアルは、しばらく画面を見つめていた。
そして、静かに呟いた。
「……二十万か」
前回の倍。
しかも、指揮官はガイゼル。
「……面白くなってきたな」
しかし、その声に笑みはなかった。
レアルは窓の外を見た。
町には灯りがともっている。
商人が働き、子供たちが眠り、農民が明日の仕事に備えている。
「……守らないとな」
その言葉だけは、静かだった。




