第五十八話 王子たちが争っている間に、王都の民衆が俺を王にしようとした
王都の広場。
そこには、数百人の民衆が集まっていた。
「……アルフォンス卿を王に!」
「王国を救った英雄だ!」
「王子たちは争ってばかりではないか!」
人々の声が響いていた。
市場の商人。
職人。
兵士の家族。
そして、貧しい住民たち。
彼らは、レアルを支持していた。
しかし本人は、その報告を聞いて頭を抱えていた。
「……面倒なことになった」
ミディアが頷いた。
「……はい」
「誰が始めた?」
「王都の商人や職人の一部です」
「止められるか?」
「……難しいと思います」
レアルは深くため息をついた。
「……王様になりたいわけじゃないんだがな」
リシアが口を開いた。
「ですが、民衆はそう考えていません」
「……なぜだ?」
「あなたが、王国を動かしているからです」
レアルは黙った。
リシアは続けた。
「財政を改善し、帝国軍を退け、食料を確保した。民衆から見れば、王子たちよりあなたの方が頼りになるのでしょう」
「……それは困る」
ミディアが小さく笑った。
「珍しく、困っていますね」
「王冠なんぞ、重いだけだ」
その日の午後。
第一王子から、正式な使者が訪れた。
「……アルフォンス卿」
「何だ?」
「殿下は、王都の状況を憂慮されています」
「そうだろうな」
「あなたを国王に推す動きについて、説明を求めています」
レアルは即答した。
「俺は関与していない」
「……本当ですか?」
「本当だ」
「ですが、民衆が……」
「民衆が勝手に言っているだけだ」
使者は少し考えた。
「……では、正式に否定していただけますか?」
「構わん」
翌日。
王都の広場。
レアルは、多くの民衆の前に立った。
「……アルフォンス卿!」
「英雄だ!」
「王になってください!」
歓声が響いた。
レアルは、静かに手を上げた。
人々が黙る。
「……まず、言っておく」
レアルは口を開いた。
「俺は、国王になるつもりはない」
広場が静まり返った。
「……え?」
「どうして?」
「あなたなら、王国を救えるのに!」
レアルは続けた。
「王位は、王国法に従って決めるべきだ」
「だが、今の継承会議には問題がある。出席資格を持つ地方諸侯の一部が、王都への通行許可を止められている」
広場がざわついた。
「一方の王子に有利な人数だけ集めて決めた王では、国は二つに割れる」
「では、どうすれば?」
「全員が安全に参加できる期日を設け、議事録と票数を公開する。どちらの王子にも、先にその約束をさせる」
一人の男が叫んだ。
「ですが、王子たちは争っているだけです!」
「そうだな」
レアルは頷いた。
「だからこそ、法を守らせる」
「……法?」
「王が誰になるかを、力で決めてはならん」
レアルは続けた。
「力で王を決めれば、次の王も力で奪われる」
人々は黙って聞いていた。
「俺が望むのは、王が変わっても崩れない国だ」
沈黙が落ちた。
そして一人の老人が、静かに頭を下げた。
「……分かりました」
別の商人も頷いた。
「……王にならなくても、王国を支えてくださるのですね」
レアルは答えた。
「必要ならな」
その夜。
王宮の会議室。
第一王子と第二王子の側近たちが、レアルの演説について話し合っていた。
「……王位を否定したそうだ」
「本当に?」
「民衆の前で、正式に」
一人の貴族が言った。
「……ならば、反逆の疑いは薄れたのでは?」
しかし別の貴族が首を振った。
「いや、逆だ」
「……何?」
「王にならずとも、民衆が従う」
会議室が静かになった。
「……つまり?」
「王冠を持たずに、王国を動かせるということだ」
翌朝。
レアルのもとに、リシアが報告書を持ってきた。
「……王都の民衆は、あなたの王位辞退を受け入れ始めています」
「そうか」
「ですが、支持は減っていません」
レアルは眉をひそめた。
「……なぜだ?」
リシアは小さく笑った。
「王になりたがらないからこそ、信用されているようです」
レアルは黙った。
ミディアが笑った。
「……ますます王様みたいですね」
「やめろ」
その日の午後。
王国各地の商人から、新たな報告が届いた。
『王国の食料輸送、アルフォンス領の物流網への依存が拡大』
『交換証書の利用、王国全土へ拡大』
『王国軍の補給管理、アルフォンス領方式へ移行』
『地方領主から、税制改革の協力要請が増加』
レアルは報告書を見つめた。
「……なるほど」
ミディアが尋ねた。
「何が分かったのですか?」
「王国が、俺の仕組みに頼り始めている」
「……それは良いことでは?」
「良いことばかりではない」
レアルは静かに答えた。
「俺が倒れれば、王国も止まる」
リシアが頷いた。
「……その通りです」
レアルは立ち上がった。
「ならば、俺がいなくても動く仕組みを作る」
【統治システム更新】
・王位擁立運動:沈静化
・民衆支持率:高水準維持
・王国経済依存度:上昇
・国家運営への影響力:拡大
【新規イベント】
《国家制度改革》
《統治システム拡張条件:一部達成》
レアルは画面を見つめた。
「……拡張条件?」
これまで見たことのない表示だった。
「……何だ、これは」
しかし画面は、すぐに消えた。
レアルは眉をひそめた。
「……統治システムにも、まだ知らない機能があるらしいな」




