第五十話 敵が強すぎるので、国中の商人を味方につけた
王国軍の本陣に、商人たちが集められた。
穀物商。
運送商。
鍛冶商。
馬商人。
そして、倉庫業者。
その数、五十人以上。
「……アルフォンス卿」
老商人が口を開いた。
「我々に、何を求めるのですか?」
「戦争に協力してもらう」
会議室がざわめいた。
「……戦争?」
「我々は商人ですぞ!」
「剣など握れません!」
レアルは頷いた。
「剣を握れとは言っていない」
「……では?」
「商売をしてもらう」
商人たちは顔を見合わせた。
レアルは地図を広げた。
「帝国軍は十万。王国軍は即応兵力が二万程度だ」
「……はい」
「兵力では負けている」
「それは……」
「だが、戦争は兵士だけではできない」
レアルは続けた。
「食料を運ぶ商人がいる。武器を作る鍛冶屋がいる。馬を育てる農民がいる。倉庫を管理する者がいる」
商人たちは黙って聞いていた。
「それらを一つにまとめれば、軍隊の力は何倍にもなる」
老商人が尋ねた。
「……具体的には?」
「王国全土の物流を統合する」
最初に作られたのは、補給管理所だった。
各地の倉庫に、食料と物資の数量を報告させる。
次に、輸送路を整理した。
荷車の通行予定。
護衛の配置。
橋の使用状況。
そして、前線への到着予定日。
ミディアが帳簿を確認する。
「……これまで、軍ごとに補給を管理していました」
「そうだな」
「同じ街道に荷車が集中したり、逆に空の荷車が戻ったりしています」
「無駄だな」
レアルは頷いた。
「帰りの荷車にも仕事をさせろ」
「……帰り?」
「負傷兵を運ぶ。壊れた装備を回収する。必要なら、別の倉庫へ物資を移す」
ミディアは目を見開いた。
「……輸送効率が上がりますね」
「そういうことだ」
一週間後。
王国軍の補給状況は、大きく改善した。
「……食料が予定通り届いています!」
兵士が報告した。
「武器の修理も早くなりました!」
「馬の飼料も不足していません!」
ヴァルクが驚いた。
「……兵士を増やしていないのに、軍が動きやすくなっています」
「当然だ」
レアルは答えた。
「兵士が食料を探す必要がなくなれば、その分だけ戦える」
エリオが頷いた。
「……補給も、戦力なのですね」
「そうだ」
しかし商人たちの中には、不満を持つ者もいた。
「……利益が少ない」
一人の商人が呟いた。
「戦争中なのだから、もっと高く売れるはずだ」
別の商人が頷く。
「そうだ。軍は食料を必要としている。値段を上げても買うだろう」
その話は、すぐにレアルの耳に入った。
翌日。
レアルは商人たちを集めた。
「……利益が少ないそうだな」
商人たちは黙った。
「ならば、契約を見直そう」
一人が顔を上げた。
「……値上げを認めていただけるのですか?」
「必要な輸送費や危険手当は払う」
「……では!」
「ただし、不当な値上げは認めない」
レアルは続けた。
「その代わり、長期契約を結ぶ」
「……長期?」
「戦争が終わった後も、王国の道路整備や物資輸送を任せる」
商人たちの目が変わった。
「……戦争後も?」
「そうだ」
レアルは静かに言った。
「戦争で一度だけ儲けるより、十年商売を続けた方がいいだろう」
老商人が笑った。
「……なるほど」
「戦争が終わった後の市場まで、考えておられるのですな」
その頃。
帝国軍本陣。
ガイゼルは、王国軍の補給状況を聞いていた。
「……王国軍の輸送量が増加しています」
副官が報告した。
「兵士の数は?」
「大きく変わっていません」
「……そうか」
ガイゼルは地図を見た。
「補給を改善したわけか」
「はい」
「……レアル・アルフォンス」
ガイゼルは小さく笑った。
「やはり、面白い男だ」
副官が尋ねる。
「どうされますか?」
「こちらも、補給を強化する」
「……さらに?」
「そうだ」
ガイゼルは続けた。
「相手が商人を使うなら、こちらも商人を使う」
数日後。
レアルのもとに、新たな報告が届いた。
『帝国軍、周辺地域の穀物を大量購入』
『王国側商人にも接触』
『食料価格、上昇傾向』
ミディアが顔をしかめた。
「……敵も商人を使い始めました」
「そうだな」
「このままでは、食料の買い付け競争になります」
レアルは少し考えた。
「……ならば、先に買う」
「……何を?」
「帝国軍が買おうとしている食料だ」
ミディアが驚いた。
「……買い占めですか?」
「必要な分だけだ。民間の食料を奪うつもりはない」
レアルは地図を広げた。
「ただし、敵の補給業者には先回りする」
【統治システム更新】
・王国軍補給効率:上昇
・商業協力体制:確立
・前線物資不足:改善
・王国経済動員率:上昇
【警告】
《帝国軍、経済戦への適応を開始》
《食料価格上昇の危険性》
レアルは画面を見つめた。
「……今度は、商人同士の戦争か」
ヴァルクが尋ねる。
「どうされますか?」
レアルは静かに笑った。
「金の戦争なら、負けるつもりはない」
しかしその言葉を聞いたミディアは、少し不安そうな顔をしていた。
「……レアル様」
「何だ?」
「敵の将軍も、同じことを考えているのでは?」
レアルは黙った。
そして、静かに答えた。
「……そうだな」
黒岩谷での敗北。
あの将軍は、こちらの考えを読む。
レアルは地図を見つめた。
「だから、今度は一つの作戦に頼らない」
その頃。
帝国軍本陣。
ガイゼルは、副官に命じていた。
「……王国の商人を調べろ」
「何をでしょう?」
「誰が、アルフォンスに協力しているのかだ」
副官は頭を下げた。
ガイゼルは静かに笑った。
「商人は金で動く」
そして、続けた。
「ならば、金で奪えばいい」




