第四十三話 王都の兵士に給料が払えなくなったので、敵軍が俺に就職を希望してきた
王都守備隊の代表者たちが、レアルの執務室に集まっていた。
将校三人。
下士官五人。
そして、一般兵の代表二人。
全員が、険しい顔をしていた。
「……アルフォンス卿」
年配の将校が口を開いた。
「我々は、王国軍として職務を果たしてきました」
「そうだな」
「しかし、三か月も給与が支払われていません」
「承知している」
「家族を養えない兵士も出ています」
レアルは黙って聞いていた。
将校は続けた。
「……我々を、アルフォンス軍に迎えていただけないでしょうか」
ミディアが驚いた。
「……五千人を?」
「全員ではありません。ですが、希望する者は多いのです」
レアルは少し考えた。
「断る」
将校たちの顔色が変わった。
「……なぜですか!」
「俺の私兵を増やすために、王国軍を奪うつもりはない」
「ですが!」
「話は最後まで聞け」
レアルは続けた。
「お前たちの給与は、王国が支払うべきものだ」
「……はい」
「だから、王国に払わせる」
翌日。
レアルは国王へ、新たな提案書を提出した。
『王都守備隊給与未払い問題の解決案』
内容は三つ。
第一。
未払い給与を、王国の正式な債務として確定する。
第二。
国庫の不正支出から回収した資金を、給与支払いに優先配分する。
第三。
今後の給与支払いを、軍の指揮官ではなく独立した会計部署が管理する。
国王は提案書を読み、顔を上げた。
「……軍の給与を、将軍から取り上げるのか?」
「給与の支払い権限だけです」
レアルは答えた。
「軍の指揮権には触れません」
「……なぜ?」
「将軍が兵士の給料を握れば、兵士は将軍個人に従うようになります」
国王は黙った。
「ですが、国が直接払えば、兵士は王国に仕える」
レアルは続けた。
「軍を私物化させないためです」
国王はしばらく考えた。
そして、頷いた。
「……よかろう」
一週間後。
王都守備隊に、未払い給与の一部が支払われた。
「……本当に払われた」
兵士たちは金貨を見つめた。
「三か月ぶりだぞ……」
「これで、家に金を持って帰れる」
「妻に怒られずに済む……」
笑い声が広がった。
しかし、将校たちの表情は複雑だった。
「……アルフォンス卿は、我々を私兵にしなかった」
「それどころか、王国軍として残るように言った」
「……妙な男だ」
一人の兵士が呟いた。
「でも、王子殿下より信用できるな」
その夜。
第二王子の屋敷。
「……裏切り者どもが!」
第二王子は、机上の国境地図を握りしめた。
「俺が恐れていたのはこれだ。軍の給金を握る者が変われば、兵は明日から誰の命令を聞く?」
側近が答える。
「王国の命令です、殿下」
「その王国の財布をアルフォンスが握っている!」
王子は声を落とした。
「……俺は、父上のように、数字を信じて兵を飢えさせる王にはならん」
その言葉には、怒りだけでなく恐れが混じっていた。
王子は怒りに震えていた。
「守備隊が、私の命令を聞かなくなった!」
側近が頭を下げた。
「……給与問題が解決したことで、兵士たちは国王直属の命令系統へ戻っています」
「アルフォンスの仕業だ!」
「はい……」
王子は机を叩いた。
「……ならば、別の方法を使う」
「殿下?」
「父上に、あの男の危険性を訴える」
「ですが、国王陛下はアルフォンス卿を信用しています」
王子は冷たく笑った。
「……ならば、父上が命令できなくなればいい」
側近の顔色が変わった。
「……殿下?」
王子は窓の外を見た。
「王国には、次の王が必要だ」
三日後。
王宮で、緊急の鐘が鳴り響いた。
国王が倒れた。
執務中、突然意識を失ったという。
宮廷医師が駆けつける。
王宮は騒然となった。
その報告を受けたレアルは、静かに立ち上がった。
「……容体は?」
リシアが答えた。
「意識は戻っていません」
「原因は?」
「不明です」
レアルは眉をひそめた。
「……王子の動きは?」
「第二王子派が、王宮の警備強化を主張しています」
「そうか」
レアルは窓の外を見た。
「……始まったな」
【統治システム警告】
《国王:重篤》
《王位継承争い:発生予兆》
《第二王子派:活動活発化》
レアルは静かに言った。
「今度は、金だけでは済まないかもしれんな」




