第四十一話 暗殺者を捕まえたら、黒幕が王族だった
王都の酒場。
エルナは、ゆっくりと周囲を見渡した。
入口には三人。
奥の通路に二人。
窓の外にも、人影がある。
「……六人以上」
短剣を握る手に力が入った。
情報屋が笑った。
「抵抗しない方がいい」
「そう」
エルナは静かに答えた。
「でも、一つだけ聞いていい?」
「何だ?」
「……私を生きたまま捕まえるように言われているの?」
男の笑みが消えた。
その一瞬。
エルナは机を蹴り上げた。
酒瓶が割れる。
椅子が倒れる。
男たちが怯んだ。
「捕まえろ!」
怒号が響く。
エルナは窓へ走った。
しかし、外には弓を構えた男がいた。
「……っ!」
矢が飛ぶ。
エルナは身を捻った。
肩に鋭い痛みが走った。
「……くっ!」
壁に背中を打ちつける。
男たちが迫った。
「終わりだ」
そのとき酒場の裏口が、激しい音を立てて開いた。
「動くな!」
ヴァルクの声だった。
武装した護衛兵が突入する。
「武器を捨てろ!」
暗殺者たちは慌てた。
一人が逃げようとする。
しかし、裏路地にも兵士が配置されていた。
数分後。
酒場は制圧された。
アルフォンス城の王都仮執務室。
エルナは椅子に座り、肩の傷の手当てを受けていた。
「……申し訳ありません」
レアルは黙っていた。
「私が、罠を見抜けなかったせいで……」
「命令を覚えているか?」
「……はい」
「単独行動は認めないと言ったな」
「……はい」
「なぜ守らなかった?」
エルナは俯いた。
「……早く情報を手に入れたかったからです」
レアルは深く息を吐いた。
「次はないぞ」
「……承知しました」
「お前を失えば、情報網に穴が開く」
エルナは顔を上げた。
レアルは続けた。
「それだけじゃない」
「……え?」
「お前が死ねば、困る人間がいる」
エルナは黙った。
「だから、生きて戻れ」
しばらくしてエルナは小さく頭を下げた。
「……はい」
捕らえた暗殺者たちの取り調べが始まった。
最初は、誰も口を開かなかった。
しかし、レアルは拷問を命じなかった。
代わりに、報酬の支払記録を調べさせた。
「……金貨三百枚」
ミディアが報告する。
「複数の商会を経由して支払われています」
「最終的な出資者は?」
「調査中です」
レアルは頷いた。
「ならば、商会の帳簿を追え」
三日後。
一つの名前が浮かび上がった。
王都の有力貴族。
その貴族の資金を管理していた商会。
さらに、その商会の主要取引先。
そして「……第二王子?」
ミディアの声が震えた。
レアルは報告書を見つめた。
「正確には、第二王子の私的資金を管理する組織だ」
リシアが言った。
「……王族に関わる問題です」
「そうだな」
「証拠は十分ですか?」
「暗殺者への支払いと、王子の直接命令を結びつける証拠はまだない」
レアルは冷静に答えた。
「だが、王子の側近が関わっていることは確認できた」
リシアは唇を噛んだ。
「……王国の内乱につながりかねません」
「分かっている」
レアルは資料を閉じた。
「だから、今は公表しない」
その夜。
王宮の一室。
第二王子は、報告を聞いていた。
「……失敗しただと?」
「はい」
側近が頭を下げる。
「暗殺者は全員捕らえられました」
「馬鹿な」
「さらに、資金の流れを調べられています」
第二王子の表情が険しくなった。
「……どこまで?」
「殿下の側近が管理する商会まで」
沈黙が落ちた。
やがて、王子は笑った。
「……ならば、もう隠す必要はない」
「殿下?」
「王都守備隊を動かす」
側近が顔を上げた。
「……軍を?」
「そうだ」
第二王子は立ち上がった。
「アルフォンス卿は、王国の財政を混乱させ、貴族を脅迫し、王都に私兵を持ち込んだ」
「……はい」
「反逆の疑いで逮捕する」
側近は震える声で尋ねた。
「国王陛下の許可は?」
第二王子は冷たく笑った。
「父上は、もう長くない」
翌朝。
王宮の執務室。
レアルの前に、統治システムが表示された。
【緊急警告】
《王都守備隊の一部が第二王子派へ移行》
《レアル・アルフォンス逮捕計画を確認》
《王都における軍事衝突の危険性:高》
ミディアが青ざめた。
「……軍隊が来るんですか?」
「そうらしい」
ヴァルクが剣に手を置いた。
「迎撃準備をします」
「待て」
レアルは静かに言った。
「王都で戦えば、民間人が巻き込まれる」
「ですが、相手は軍です!」
「分かっている」
レアルは窓の外を見た。
王都の街道。
倉庫。
市場。
そして、兵士たちが食料を購入する商店。
「……軍隊も、飯を食わなければ動けん」
ミディアが顔を上げた。
「……まさか」
レアルは笑った。
「剣を抜く必要はない」
「では?」
「金と食料で止める」
【新規イベント】
《王都守備隊との対立》
《軍事衝突回避条件:補給網の掌握》
レアルは椅子から立ち上がった。
「第二王子に教えてやろう」
その声は、静かだった。
「軍隊を動かすのは、命令だけではないということを」




