第三十七話 俺を反逆者にしたいらしいので、証拠を全部公開することにした
王都からの出頭命令には、期限が記されていた。
七日以内。
それを過ぎれば、王命への不服従と見なす。
「……七日ですか」
ミディアが呟いた。
「王都までの移動時間を考えると、準備の余裕がありません」
「最初から準備させるつもりがないんだろう」
レアルは平然としていた。
「では、どうしますか?」
「出頭する」
ミディアが顔を上げた。
「危険です!」
「分かっている」
「王都に入った瞬間、拘束されるかもしれません!」
「その可能性は高いな」
「ならば!」
「だから、先に準備する」
レアルは机に大量の書類を並べた。
「王都の連中が隠したいものを、隠せなくする」
その日の午後。
城の会議室に、主要な商人たちが集められた。
「……我々に何を?」
一人の商人が尋ねた。
レアルは答えた。
「王国の金が、どこへ流れているのかを知ってもらう」
机に帳簿の写しが置かれた。
商人たちは顔を見合わせた。
「……国家財政の資料では?」
「そうだ」
「こんなものを見せてよろしいのですか?」
「不正の疑いがある部分だけだ。確認できた事実と、まだ疑惑の段階のものは分けてある」
レアルは一枚の書類を指さした。
「三年前、王国はアルフォンス領の道路整備に金貨二万枚を支出したことになっている」
「……はい」
「だが、金は届いていない。道路も建設されていない」
商人たちがざわめいた。
「では、その金は?」
「財務大臣の親族が所有する商会へ支払われた記録がある」
「……まさか」
「同じような支払いが、王国各地で行われている」
レアルは続けた。
「俺が欲しいのは、皆の証言だ」
「証言?」
「存在しない工事に金が払われた記録があるなら、現地の商人が知っているはずだ。輸送した商品、受け取った金、建設された施設。それを確認してほしい」
一人の老商人が口を開いた。
「……財務大臣を敵に回すことになりますぞ」
「すでに敵だ」
レアルは即答した。
「問題は、お前たちが王国の金を盗む連中に、これからも商売を支配させたいかどうかだ」
沈黙が落ちた。
やがて、老商人が立ち上がった。
「……分かりました」
そして、頭を下げた。
「調べましょう」
三日後。
王国各地の商人から報告が届き始めた。
『道路工事の実施記録なし』
『軍用倉庫は建設されていない』
『補助金受領の事実なし』
『支払先商会は実在するが、該当商品の取引記録なし』
不正の輪郭が、次第に明確になっていった。
ミディアは集まった報告を整理した。
「……確認できた不正支出だけでも、金貨三十万枚を超えています」
「まだ一部だな」
「はい」
レアルは頷いた。
「十分だ」
「……何をするのですか?」
「公開する」
翌朝。
アルフォンス領の市場に、大量の書類が掲示された。
『王国財政に関する調査報告』
『確認済みの不正支出一覧』
『架空工事の記録』
『関係商会への支払記録』
さらに、商人たちが写しを持って王国各地へ向かった。
数日後。
王都の商人ギルドにも、その資料が届いた。
「……これは本当なのか?」
「王国の金が、こんなに消えている?」
「しかも、財務大臣の親族の商会に……」
商人たちは動揺した。
ある大商人が言った。
「……この商会に、我々は融資しているぞ」
別の商人が顔を上げた。
「返済能力はあるのか?」
「王国からの支払いが止まれば……」
「ならば、新規融資を止めるべきだ」
その決定は、瞬く間に広がった。
王都財務院。
「……何だと!」
財務大臣が怒鳴った。
「商人たちが融資を停止しただと!」
「はい……」
「なぜだ!」
「アルフォンス卿が公開した資料によって、関連商会の信用が低下しています」
財務大臣は机を叩いた。
「反逆者め!」
「さらに、各地の商人が国庫支出の説明を求めています」
「無視しろ!」
「ですが……」
部下は震える声で続けた。
「王都の両替商まで、財務院への短期融資を見合わせると……」
財務大臣の顔から血の気が引いた。
「……何?」
「来月の軍への給与支払いが、危うくなります」
その夜。
アルフォンス城。
ミディアが新しい報告を持ってきた。
「レアル様。王都で騒ぎになっています」
「だろうな」
「財務大臣が、あなたの即時逮捕を要求しているそうです」
「そうか」
「ですが……」
ミディアは少しだけ笑った。
「商人たちが、財務大臣への融資を止めています」
レアルは頷いた。
「金を盗んだ人間が、金を借りられなくなったわけだ」
リシアが口を開いた。
「……あなたは王国の信用を揺るがしました」
「違う」
レアルは答えた。
「すでに壊れていた信用を、見えるようにしただけだ」
リシアは黙った。
そのとき王都から、王家の紋章が刻まれた書状が届いた。
財務院ではない。
国王直属の使者だった。
『レアル・アルフォンス卿』
『国王陛下は、貴殿との直接会談を望まれている』
『王宮への出頭を命ずる』
レアルは書状を読み終えた。
そして、静かに笑った。
「……ようやく、王様の出番か」
【統治システム更新】
・統治度:95 → 96
・王国商人支持率:上昇
・財務大臣の信用:急落
・王都財政:資金繰り悪化
【新規イベント】
《国王との直接会談》
レアルは窓の外を見た。
領地を救うために始めた改革は、いつの間にか王国そのものを揺るがしていた。
だが、まだ終わりではない。
本当の戦場は、これからだった。




