4新しい家族
「何をしている!?」
いきなり男の人が現れた。
ウィリアム・リラエリア第3王子だった。彼は本が好きでしょっちゅう図書館に来ていた。そう言えば今日も午後遅くに調べものがあると言ってやって来ていた。
そう言うが早いかウィリアム殿下はギルバートの腕を掴んで私から離した。
「ウィリアム殿下!どうしてここに?」
あなた側近なのに彼がどこにいるのかも知らないの?
「ギルバート!お前何をしてるのかわかってるのか?こんな所で、いや、場所は問題じゃない。女性に手を上げるなんて何をしている?」
「殿下。これはただの内輪もめでして、彼女は元婚約者で、話をしようとしていただけなんです。何でもありません。なぁレイナ」
「いえ、殿下。私は話はないとお断りしました。ですが彼が無理やり連れて行こうとしたんです。おまけに私を無理やり奪うなどと言われて‥!」
殿下の顔がひくついた。
「ギルバート!お前いい加減にしないか。護衛兵、とにかくこいつを連れて行け!」
殿下の後ろに控えていた護衛がギルバートを拘束して連れて行った。
「殿下!そうじゃないんです。こいつが嘘を言ってるんです。クッソ!レイナこんな事をしてただで済むと思うなよ!」
私は恐怖でぷるりと身体を震わせた。助かった。殿下が来てくれなかったらどうなっていたか‥
「レイナ嬢、大丈夫か?怪我はないか」
「はい、殿下。助けて頂いて本当にありがとうございました。殿下がいらっしゃらなかったらどうなっていたか‥彼があんな事をするなんて思ってもいなくて‥私の責任です。もう少し気を付けるべきでした」
「ああ、そうだな。だが、ギルバートは私の側近でもある。申しわけない。二度とこんな事はさせないから」
「とんでもありません。この事は私の責任です。こんな所で話をするなんて迂闊でした。でも、まさか彼が暴力を奮うなんて思っていなかったので」
ショックだった。一応婚約までしていた人からあんな事をされるなんて。今まで彼とは真摯に向き合って来た。裏切られてどうしてここまでされなきゃいけないの?
「大丈夫か?どこか痛むのか?」
「も、申し訳ありません。大丈夫ですどこも怪我はしていません。殿下危ない所をありがとうございました」
「いいんだ。君はいつも一生懸命仕事をしていると思っていた。ギルバートから婚約を取り消したと聞いていたが実のところ辛かっただろう?彼が心変わりしたとか。まあ、それもうまくはいかなかったらしいが。だからと言ってまた君とよりを戻そうなどとそんな虫のいい話。あいつもどうかしている。彼の身の振り方はこちらで考えるから心配するな」
「身の振り方ですか?」
「ああ、こんな事を起こすようでは私の側近などさせるわけには行かないからな。彼には王都以外の部署に移ってもらうつもりだ」
「でも、そんな事になったらまた私を?」
「心配するな。レイナ嬢君にはしばらく護衛をつける。私の側近の仕出かした不始末だ。これくらいの事はさせてくれ」
「殿下、それはいけません。私のようなものにそこまでして頂くわけには参りません」
だが、殿下はどうしてもと譲らなかった。
その日の帰りから王宮の護衛兵が私の周りに付く事になった。
こんなのやり過ぎだと思うけど、殿下に逆らうわけには行かないから…はぁ、困った。
それから半年が過ぎた。
ウィリアム殿下はあの時の約束通り私に護衛を付けてくれた。
何度かギルバートが私の屋敷にやって来たが護衛に守られた私にもう一度やり直したい。考え直してほしいとだけ言うと帰って行った。
私はもちろん考え直す気はないとはっきり言った。
その日ギルバートが屋敷にやって来た時には彼の隣にローザがいた。
彼はすでに殿下の側近を首になり今では商会で働いていると聞いた。着ているものは平民としてはましな佇まいと言ったところだった。
ローザは美しいワンピースに身を包みうっとりをギルバートの腕に寄りかかっている。
やっぱりこの人は‥別れてよかった。
私はそんな事を思っていた。
「それで今日はどのようなお話でしょうか?」
私は貴族令嬢とは思えないほど迷惑そうな顔をしてみせる。
「レイナ、やっぱりお前なんか捨ててよかったよ。見ろ!俺にはローザがいる。なぁローザ。お前ほど可愛い女はいない」
「もう、ギルったら、だから言ったじゃないお、ね、え、さまは冷たい女だってぇ~。ふふ」
ローザがどう?羨ましいでしょう?みたいな目線を送って来る。
「良かったじゃないですか。これでお二人の思いが叶ったというものです。ここまでされたのです。これ以上私につきまとうのはやめて下さいますよね?」
「いや、実は俺たち二人結婚するつもりなんだが、支度には金が必要だろう?悪いが君に支払った慰謝料返してもらえないか?」
「どうしてそんな事をしなくてはいけないんです?」
「だって、君は爵位権を受けるなんて俺は聞いてなかった。もし、それを知っていたらローザになんか手を出さなかった。君はわざとローザに俺を誘惑させて婚約を破断に持ち込んだんだ。それにこうやって君の妹を面倒見てやろうと言ってるんだ。だからあの金は返してもらう!」
はっ?どこまでも自分勝手なご都合主義な頭について行けない。
聞いてもらえないなら次は暴力でと思っているのだろうか?それより隣にいるローザの顔が引き攣っている。ピキピキと音が聞こえそうだ。
「ギル様!今の話どういう事なの?私がいつあなたを誘惑したのよ。あなたが私に言い寄って来たんじゃない。私だって最初はお姉様の婚約者だから戸惑ったのよ。それなのにどうして私が悪者になってるの?それに私の面倒を見てやるからって!!」
「だって本当の事だろう?俺の所にやって来て身体を差し出して来たのはお前じゃないか!行くところがないからって俺の部屋に居ついて‥ったく。いいんだぞ出て行ってくれて。俺は女なんかいくらでも出来るんだ。お前を好きでもないんだしな」
「ひどい!あなたが好きだって言うからわたし‥」
「おい、痴話げんかなら他でやれ!」
「殿下!」
ウィリアム殿下が玄関の前にやって来た。
「ギルバートまだレイナに纏わりつくつもりか?聞こえたぞ。金まで出せとは聞き捨てならんが」
ウィリアムの声に怒気が含まれる。
「いえ、これは‥その、違うんです。こいつと結婚する事になって、ローザはエリック殿の娘ですし彼女の妹でもあるわけですし‥だから、その、お祝いに少し用立ててもらえないかと‥」
揉み手をしながらギルバートがウィリアムに説明をする。
「見え透いた事を‥いいかギルバート。確かにローザはエリックの血を引いているのだろう。だったら父親に頼むべきじゃないのか?レイナを捨てたお前が、それに半分でも血の繋がった妹のくせに姉の婚約者を奪った奴が!そんな図々しい事を言うとは考えれん。だろう?」
ギルバートの顔から血の気が引く。
ローザはあたふたと頭を下げる。
「ギルが義理姉様に頼めば何とかなるって言うから」
「そんな事。まさか殿下がいるなんて‥」
「女だからってバカにしてるんですか?何度も言いましたよね。私に関わるなと。あなたとの事はもう終わった事だと。それを何度もすがって来たのはあなたでしょう?ねぇ、ギ、ル、さ、ま!」
「言っておくがレイナは正式に私の婚約者になった。これ以上彼女に関わるなら不敬罪でお前たちを処刑も出来るんだが」
「ひっ!しょ、処刑?!そんな、二度と彼女には近づきません。どうか許して下さい」
ギルバートは一人で逃げ出した。
「ギル様、あっ、待って。私を置いて行かないで‥」
ローザは一人取り残され慌ててギルバートを追いかける。
「やれやれ、これでやっと懲りただろう。レイナ、お前は優し過ぎる。あんな奴ら王都から追放にしてもいいのにそっと手を回して助けてやるなんて」
「もう、殿下ったら、だってあの人たちが野垂れ死んだりしたらやっぱり‥」
私はギルバートを王都追放にすると言う殿下にそこまでしなくていいと言った。平民となった父の仕事をこっそり斡旋したり給料の上乗せのして生活費の面倒を見ていた。やっぱり見捨てらないと思ったからだ。
「ああ、口では冷たい事を言っておきながら見捨てられない。そう言う女だお前は。俺はそんなレイナだから好きになったんだ」
「それよりさっき殿下が言われた事、私いつ殿下の婚約者になったんです?」
「ああ、今から申し込むつもりだ‥改めて言う。レイナ・ボードロフ。俺の婚約者になって欲しい。この先の人生を一緒に生きて行って欲しいのは君だけだ。どうか俺と結婚してもらえないだろうか?」
玄関までいきなり跪かれこの国の王子から求婚される。
実は私は王立図書館勤務から今はウィリアム王子の執務室書記官になっていた。
彼は私が心配だからと声をかけてくれた。決して無理強いではなかった。
彼は私をそばに置くと護衛を付け仕事が終われば屋敷に送らせて週末には朝から訪ねて来てこうやって屋敷に滞在する生活を繰り返していた。
あまりに過剰すぎる態度に私は戸惑っていたがウィリアム殿下は決して私の気持ちに無理に入ってくることはなかった。
いつでも距離を置き私の気持ちを優先してくれ少し離れたところから見守ってくれた。
誠意ある態度、慎重すぎるほど節度ある対応、そして私の気持ちに寄り添ってくれる彼の優しさ。
この数か月でそれが本物だと私には伝わっていた。
私にはもう迷いはなかった。
「レイナ?‥」
心配そうな瞳が私を見上げる。
もう、一国の王子なのに、その顔はただの心もとない一人の青年で私の心はぎゅっと締め付けられる。
「殿下‥お話お受けします。あなたのそばにいたい。私もあなたと一緒に人生を築いていきたいです」
うっ、言ってしまった。
突然弾かれたように立ちあがったウィリアム殿下。
私はその場で抱きしめられルと唇を奪われた。
何度も彼の熱を受け取り彼の熱意を身体中で感じ取った。
「レイナ。ありがとう」
「でんか‥」
「ウィリアムと呼んで」
「ウィリアム様‥」
「ああ、俺と一緒に家族になろう」
「はい、私と家族になって下さい」
「もちろんだ」
ウィリアム殿下が私をぎゅっと抱きしめ直した。その腕の温もりはかつて私が持っていた温もりと同じだった。
安心出来るその腕の中で私は新しい家族の絆を感じた。




