2だって私達家族じゃありませんから
私とギルバート様の婚約が解消されたことはすぐに貴族の間に知れ渡った。
なにせギルバート様は第3王子の側近だ。王宮への報告義務もある。
私は感情的になって屋敷を出て行こうかとも思ったが、感情的になるよりこれからの生活の事のめどを立てるべきだと踏みとどまった。
何しろ前世の私はすでに28歳だった。一人暮らしで生活は大変で婚約者の男からも金をせびられていつも金欠だったのだ。そんな苦労をしていた私は感情的になって屋敷を飛び出すなどできない話だった。
まずは決まっていた仕事をこなすことが先決問題。幸いギルバート様が王宮務めと言う事で王宮内にある王立図書館の司書の仕事が決まっている。
このまま仕事をしながらこの先の事を考えた方がいいと言うものだ。もちろん寝る場所だって食事だって侯爵家を使えばいい。就職に伴う仕度金も出してもらおう。私が遠慮する必要はない。
そして思い出した。私は18歳になった。だから私が侯爵家の爵位を持てる事を。そう、侯爵位を持っていたのは母だった。父は代理侯爵権を持ってるだけだ。
だったら爵位権を父から奪ってしまえばいいじゃない。
ギルバート様との婚約が解消され新たにローザとギルバート様の婚約の準備に入っていた。王国法では婚約を解消後1カ月ほどは新たな婚約を結ぶ事が出来ない事になっている。
私は話をするため4人がまだいる客間に入った。
ローザはギルバート様の隣に座って甘えるように彼の腕に縋りついていた。
父と義理母は向かいに座ってその姿を嬉しそうに見ている。
「失礼。お父様、お話があります」
「なんだレイナ。話なら後で聞く」
「いいえ、今日でなければいけません。はっきり申し上げますけど私にはギルバート様との婚約に何の落ち度もありませんでした。それは皆さんご存知ですよね?」
「今、その話をしなくても‥」
父が気まずそうにギルバート様を見た。
「いえ、確かにレイナ嬢の言う通りです。彼女には何の責任もありません」
「ありがとうございます。ワイニング侯爵令息。と言う事は私にはこの婚約に慰謝料を請求できると言う事ですよね?」
「あっ、も、もちろんです」
ギルバート様が焦って言葉を詰まらせる。
「レイナ。ここで話をしなくても‥ローザもいるんだし」
「あら、ローザがいて何が悪いんですのこれはローザにも責任がある話ですわ。お、と、う、さ、ま!」
「お、おねえさま。それは‥私達は家族ですわ。そんな堅苦しい事」
「ええ、そうよ。レイナさん。あなたはローザの姉でしょう?そんな事言わなくても」
義理母のゾルデもそう言った。
いい加減にしてよと言いたい。
「いいえ、これはドレスや人形を譲れと言う話ではありません。婚約と言う家同士の契約を破ったと言う話です。私は私の名前に傷つけられたんです。この先、私は婚約破棄された令嬢と後ろ指をさされなくてはなりません。夜会、茶会、色々な場面で私は好奇の目にさらされるんです。それなのにただ黙って我慢しろと言うんですか?ほんと!勘弁してもらえません?私にだって心はあるんです。ローザがあれが欲しいこれが嫌だと言うたびに私があなた達にどれほど嫌な思いをさせられてきたか。それでも家族だからと私はこれまで何も言いませんでした。よね?お父様」
私は座ってなどいない。立ったまま見下ろすように父を睨んでやる。
「それは‥レイナの気持ちはわかる。だが、ギルバートもいる事だし、家族の事はまた改めて話をしよう。なぁ」
「何を仰ってるんです?ギルバート様もこれから我が家の家族になるんですよ?彼は私の義理の弟になるんです。だったら私の事も知っておいてもらって何が悪いんです。私は散々ローザのわがままに振り回され父やこの女から無視されて辛い思いをして来たんです。その挙句ローザは私の婚約者まで奪って‥いつだってローザは私から何もかも奪うんです。ねぇ、ギルバート様ローザはそう言う女なんですよ。意地悪で困ればすぐに泣きついて‥まあ、そんな女を選んだのはギルバート様。あなたですからいいんですけど。きっと苦労しますよ。まあ、私にはどうでもいいですけど‥」
もう我慢なんかしない!言い出したら止まらなかった。
唾毛を飛ばし大きな声でしゃべりまくる。でも、爵位の事はまだ教えてやらない。
ギルバート様が目を見開き私を凝視する。そして今度はローザを見つめている。
「ギル様。お姉様の話なんか信じないで‥お姉様ったらきっと婚約を破棄されてそれで腹いせに、それでこんな出鱈目を言ってるんですわ。お姉様落ち着いて下さい。私が悪かったんです。いつもお姉様が素敵でお姉様のものを欲しがるから‥でも、ギル様はそんな気持ちじゃないんです。本気で好きになってしまって‥私、ごめんなさいお姉様。許して‥」
ギルバート様が涙をこぼすような仕草をするローザの背中をさする。
「ローザ泣くな。こうなったのは俺のせいだ。なぁ、レイナ嬢、確かにあなたにひどい事をした。でも、これはやりすぎだ」
「まあ、泣く女が正しいなら私だって泣きましょうか?ふん。ローザは傷ついても私は傷つかないとでも仰りたいの?いいですわ。その代り慰謝料はきっちりいただきますから。ギルバート様。私に10万ギールのお金を払って下さい」
10万ギールは彼の一年分の給料にあたる金額だ。
「わかった。君の言い分はわかった。一度には無理だがきちんと払う」
「いえ、一括で。王子の側近何でしょう?それくらい前借りすればいいではありませんか」
「わかった。何とかする」
ギルバートはそう言った。
泣いていたはずのローザがむくりと起き上がった。
「そんなの。これからの私達の生活はどうなるのよ!」
ローザが大声で反発する。よく見れば涙は出ていない。
「あら、あなた後2年は学園に通うんじゃない。結婚はそれからなんだから別に構わないはずでしょう」
「でも、デートとかギルバート様だって小遣いが必要じゃない。ドレスだっておねだりしたいし指輪だって!」
「それだけの事をしたんだもの。それくらい我慢すればいいじゃない。当然よ」
ローザが気に入らないとばかりに立ちあがった。
「黙って聞いてればいくら姉だからっていい気にならないでよ。あんたが魅力がないからギル様は私を好きになったんじゃない。それなのに人のせいにして。ギル様、お金なんか払うことはありませんわ。こんな人の言う事なんか!ほんとあなたって嫌な女!」
ローザの本性を見たギルバートの顔が変わった。
「ローザ、きみ‥でも、俺たちが悪い事は変わらない。少しは我慢をするべきだろう」
「我慢ですって?こんな女の為にどうして私が我慢しなきゃならないのよ!ギル様。そんな弱気でどうするんです?男なら私を守るべきじゃないんです?だって、あなたは私に夢中なんでしょう?私の言う事は何でも聞いてくれなきゃ‥私、そんなギル様だから好きになったんですよぉぉぉ!?」
ローザはいつものわがまま全開モードでギルバートに迫った。
「ローザ?君っていつもそうなのか?それが君の本性って事なのか?」
「えっ?いえ、これは‥つい興奮して我を忘れて‥違うの。いつもはこんなじゃないの。もぉ!お姉様がおかしなことを言い出すから!!お父様。お母様何とか言って下さいよぉ~」
「いや、ローザがこんな女性だとは思いもしなかった。ボードロフ侯爵。申しわけないが婚約の件は一度考え直したい。レイナ嬢にも失礼だしやはり姉妹を取り替えるなどよく考えれば常軌を逸している気もする。話は改めてとにかく婚約の話は一旦白紙に戻させてもらう」
「いや、それは困る。レイナとの婚約も正式に解消になったばかりでこちらもローザとの婚約があるから受け入れた事。それは困る!」
「そうよ。ギル様。そんなのいきなり酷いです」
「いや、ひどいのはローザ君だろう?姉の婚約者に色目を使って横取りして‥よく考えれば君は恐ろしい女だ。そんな女と婚約なんてお断りだ。失礼する」
「いや。ちょっと。待ってよ。ギル様。もう、お父様何とか言って下さいよぉぉぉ~」
ローザの言う事に目もくれずギルバート様はさっさと我が家を後にした。
ギルバート様、ローザが侯爵家の人間だという間でもなく見限ったのね。あなた助かったわね。
ローザは力なくソファに腰を下ろした。ゾルデはローザに寄り添っている。
父は力なくソファに座り込んでいた。
「お父様、私はこれまでずっとあなた達に虐げられてきました。だからこれまで私が受け取るべきだったお金、きっちり払って頂きます。いえ、これからは私がこの家のお金を管理しますわ。いいですねお父様!私はドレスに宝石、今までローザが買っていた物以上の品物を買う権利があります。それから食事も、あっ、それから私の部屋ローザと入れ替えます。もともとあの部屋は私の部屋でしたもの。ついでにベッドも新しくしてシーツは最上級のシルクにするわ。では、よろしくお父様。それから慰謝料の話はもう結構です」
「待て、レイナ。それは‥」
「それは?もう遅いですわ」
「なぁ、私達は家族だ。だから、そんな固い話は‥」
「まあ、もう遅いですわ」
「わかった。ドレスでも宝石でも好きに買っていい。だから」
父は力なく返事をした。
「何を仰ってるんです?あなたに何の権利があってそんな事を?さあ、すべての鍵を渡してもらいましょうか。この侯爵家の権利はすべて私にあるんですから」
私は汚い者でも見るように父を見る。
「お父様。いいんですか?いくらお姉様だからってこんな勝手な事。それに私も婚活があるんです。今度の夜会出来るドレスも必要だし‥」
ローザは私を睨みつけた。
「ローザ。お前は今まで好き放題ドレスも作って来ただろう。少しは我慢しなさい。そんなだからギルバートからも嫌われたんだろう?ゾルデお前の教育が悪い。お前たちは1年間何も買うな。いいな」
「「そんな。私達がどうしてレイナの為に我慢しなきゃならないのよ!」」
「いいかレイナは長子だ。今まで黙っていたが18歳になったレイナはこの侯爵家の後を取る権利を持った。だが、お前たちは私の子供。侯爵家の籍には入っていないんだ。私は婿養子だから爵位権は持っていない。今まではレイナの代行権限で侯爵と名乗っていただけで‥今、レイナの機嫌を損ねてみろ。お前たちを追い出す事だってレイナには出来るって事だ」
「「そんな事聞いてません!」」
「さあ、お父様出して下さい」
「いや、これは‥侯爵位を継いだら渡す」
「いいんですかそんな事を仰って。私はもう18歳です。手続きはまだでもすでにこの家の実権を持つ権利はあるんですよ。お父様でもそれくらいの事はご存知ですよね?」
王国法では爵位を持った人間が死んでいる場合後を継ぐ人間が18歳になった時点でその家の権利をすべて持てる事になっている。これは幾度となくあった過去の事例をもとに王家から保証された継承権の保証だ。
私は父からこの屋敷の全ての鍵をもぎ取った。




