1家族だと思っていたのに
私が13歳の時父が再婚して私には新しい母が出来る事になった。
1年前に母を亡くした私を父は可愛がってくれていた。
だから父から新しい母を迎えると聞いた時も受け入れようとした。
新しい母となるゾルデとの顔合わせでは、失礼のないように朝からドレスを何度も着替えて侍女のマーヤに叱られた。
そうやってと私は母親譲りの瞳の色に合わせた同じ濃い青色のドレスに決めて客間で新しい母の到着を待った。
父が出迎えに行っている間もわくわくしていた。
彼女は客間に入って来ると私は慣れないカーテシーをして挨拶をした。
「初めましてゾルデ様。私はレイナ・ボードルフを申します。これからよろしくお願いします」
「まあ、レイナさん。私はゾルデ・ハトソン。いえ、もう、ゾルデ・ボードルフになったわね。こちらこそよろしくね。ローザ。いえ、今日からあなたの妹になるローザもよろしくお願いね」
私はハッと顔を上げた。
遅れて父と私より少し背の低い女の子が一緒に入って来た。
「さあ、ローザ。今日からここがお前の家だよ。遠慮はいらない。自分の家なんだからな」
私は今まで新しい母が出来るとは聞いていたが妹が出来るとは聞いていなかった。
ローザ。ああ、新しい母の子供なのか、義理の妹になるけど、私の妹か弟が欲しかったから仲良くしたいな。そんな事を思った。
「エリック、今レイナさんと挨拶をしたんだけど」
「そうか。レイナ。彼女がお前の新しい母になるゾルデだ。こっちはローザ。お前の2つ下で11歳になった。お前とは母親が違うがローザも私の血を分けた子だ。仲良くしてやってくれ」
「お父様の血を分けた?それはお父様がお母様を裏切っていたと言う事ですか?」
私はその時初めて父が母を裏切っていた事を知った。
それから1年後
「お父様~、またお姉様がぁ~」
「なんだ。レイナ、何度言ったらわかるんだ?妹をいじめるなと。ローザ。恐かっただろう。パパが付いている。さあ、そのリボンをローザに渡しなさい」
「どうしていつも私ばかり。お父様はお父様譲りの髪色や目の色をしたローザが可愛いんだわ」
ゾルデとローザが来てすでに1年が経っていた。私だって最初はローザに親切にした。おもちゃや気に入っていたドレス。一番お気に入りのお人形やリボンだって譲った。でも、ローザはいつだって私のものを欲しがったから。
でも、このリボンは特別だった。
それなのに父は簡単に譲れと言った。
だから思った。父は栗色の髪に琥珀色の瞳をしていてローザは父の色と同じ。だからローザの方が可愛いんだと。
「何を言ってるんだ。レイナ、お前はお姉さんだろう?それくらいわかるだろう?」
私はローザが握りしめたリボンの端を離さなかった。
「レイナ、いい加減にしないか」
「いつだってローザ。ローザって!お父様はお母様を裏切ったくせに!どうせ私なんかよりローザの方が可愛いんでしょ!」
「ごめんなさい。お姉様。私が悪いの。お父様、リボンはもういらない。私がいけなかったの。私がそんなものを欲しがるから」
そう言いながらもローザはリボンを持った手を離さなかった。
「ああ、ローザ。可哀想に。レイナ、見ろ。ローザはこんなに聞き分けがいいのにそれでもお前はリボンを譲ってやれないのか?」
「でも、そのリボンはお母様が私の誕生日にと買って下さったリボンです。私に取ったらすごく大切な思い出なんです。だから」
「レイナ、そうやっていつまでも死んだ母親にしがみ付くのは止めろ!ゾルデに失礼だと思わないのか。彼女はお前の母親になろうと努力している。その気持ちがわからないのか?」
父の手でそのリボンが取り上げられる。
訝しい顔で睨みつけられ父の琥珀色の瞳の奥に憎しみの炎が宿ったように見える。
そんな顔をする父を見るのはもう何度目だろう。
「みんな大っ嫌い!」
その日を境に私は父やゾルデやローザから距離を置くようになった。そんな私を父が忌み嫌うようになりゾルデも私に構わなくなった。ローザは私のものを欲しがらなくなりその代り新しいドレスや欲しいものをねだるようになった。
次第に私は父への期待を失くしていった。
でも、私は母の言っていたことを思い出した、
「レイナ、立派な女性になるには知識を身に着けることが大切なの。それにあなたが何が好きかも大事よ。それには色々な事をやってみる事。刺繍や音楽。語学。本を読んだり学園に行けば友達の出来るでしょう。そこでも知った知識は役に立つわ」
そんな事を母が話していたことを思い出し教育だけは受ける権利があると父に交渉して教師をつけてもらった。
私は自分なりに教わった事以上に本を読んだり刺繍や語学を学び、礼儀を身に着けて自分を磨いた。
そして侍女のマーヤだけがこの屋敷で唯一の味方だった。
そして15歳の時、ワイニング侯爵家の次男であるギルバートとの婚約が調った。
彼は18歳で学園の3年生、私が学園に入ると入れ替わりに王宮で第3王子の側近となる事が決まっている。
父と同じ栗色の髪だが瞳は紺碧色で私と同じだった。
最初の印象は口数が少なく知性を感じる雰囲気だった。
王都で月に一度互いの屋敷への訪問で私達の関係は良好に思えた。
でも、私が学園を卒業する卒業パーティーが終わると父からリビングルーム呼ばれた。
「レイナ。その‥」
いつもはものおじすることのない父が今日に限って言葉を詰まらせた。
父の隣にはローザもいる。どうしてと思いながらも「無事に卒業できたのも皆様のおかげです。ありがとうございました」
私はこれまで教師をつけてくれた事や学園に通わせてくれたことに対して礼を言った。
「いや、それは当然の事をしたまでだ。卒業おめでとう。それでだ」
「はい」
私は改めて姿勢を正した。何やら父は別の話があるらしい。
「もう、お父様ったら、はっきり言って下さらないと」
ローザがじれったいとばかりに言う。
そもそもどうしてここにローザがいるのか理解できない。
「ああ、実はレイナ。ギルバートとの婚約なんだが彼がローザと婚約したいと言い出してな。それでギルバートとの婚約は破棄。いや、破棄でなくレイナとローザが変わればいいと言う事でだな」
「はっ?そんな事聞いていませんけど。それはギルバート様のお気持ちがと言う事でしょうか?」
父は取り乱したように髪を撫ぜつける。
「もぉ、お姉様ったらぁ、そんなの当たり前じゃありませんか。ギルバート様って口数が少ないから、それにお姉様に言うのが悪いって!お姉様ほんと。ギルバート様に恐れられてるんじゃありません?だから私お父様にお願いしたんですぅ」
「待ちなさいよ。ローザ。人の婚約を横取りするって事?あなた分かってるの。これはドレスを譲れとかそういう問題ではないのよ。ギルバート様だってそんな事受け入れるはずがないじゃない!」
「ひどい!お姉様、嘘なんか言っていないわ!ギル様が私がいいって言ってくれたんだから」
「ギル様ですって!?あなたはいつだって私のものを欲しがるんだから!彼は物じゃないのよ。生きた人間なのよ。人の感情がそんな簡単に変わるもんですか!」
「嘘じゃないわ。彼が私がいいって言ってくれたんだから。ギル様を引き留められなかったのはお姉様のせいじゃない!まるで私がギルバート様を横取りした見たいに言うなんてお姉様ひどい!」
「ひどいのはどっちなのよ!お父様もお父様よ。こんな事受け入れられるわけないじゃない!」
私は屋敷を飛び出した。
王宮に向かう道を令嬢らしくもなく急ぎ足で歩きながら私の脳内に前世の記憶がなだれ込んだ。
前世の私は会社員で婚約していた。でも、同じ会社の後輩に婚約者を寝取られ婚約は解消。そして失意の中過労死したのだった。
そんな‥これじゃ前世と同じ運命じゃない。彼の気持ちをはっきり聞こう。婚約が解消になったとしても私は前世のように負けてたまるか。
男が何よ。前世を知っている私は一人でだって生きていける。結婚だけが全てじゃないんだから!!
幸いかどうかわからないが時間はすでに夕刻。ギルバート様の仕事もそろそろ終わる時間だった。私は王宮の前で彼が出てくるのを虎視眈々と待った。
「ギルバート様」
「レイナ嬢。どうしたんだこんな時間に。一人か?」
「ギルバート様。婚約の事でお話があります」
そう言うと彼の顔から血の気が引いた。困った顔で私の手を取り道の端に寄らせた。
「と、とにかくここでは‥近くにカフェがある。そこでゆっくり」
「いいえ、結構です。話は簡単です。あなたは私との婚約は解消したいんですよね?」
私は彼の顔を真っ直ぐに見て聞いた。
紺碧色の瞳が苦し気に歪んだ。
「すまない。こんなつもりではなかったんだ。彼女が‥いや、ローザ嬢に押し切られて‥いや、責任は俺にある。君との婚約がありながら君の妹に心を移すなんて‥‥すまない」
覚悟はしていたつもりだった。でも、いざとなると私の中でピーンと張っていた糸なものがプツンと切れた気がした。
「わかりました。これはお返しします」
薬指からギルバート様から貰った指輪を外す。紺碧色の宝石がついた美しい指輪だった。彼の手で指にはめてもらった時嬉しかった。この人を信じてこれから一緒に家族になろうと思った。
なのに。
「いや、ほんとに、申し訳ないと‥」
「いえ、あなたのような人と結婚しなくて良かったですから」
覚悟は決まった。
私にはもう家族と呼べる人はいない。




