妖精の家作り
「わあ、すごい! あれが村っていうんだよね?」
塔からこの森の家に来るまではずっと馬車の中にいたし、夜も馬車の中で寝させられていた。塔にいた時はもちろん外へ出ることはできなかったから、村をはじめ街にだってシスティナは行ったことがない。
そのため、気になってはいるけれど……見えている村に行く勇気がなかなかシステナの中に生まれない。
そもそもの話、システィナの体力では森を抜けて村まで歩く体力はないだろう。
「……今は妖精さんのお家を作って、森で採れるものを食べて過ごせばいいもんね」
それに現状、村に行くより瓶詰を作って生活したい欲が勝っている。システィナはスライムと森ネコと一緒に自分たちの家へと急いだ。
家に帰って最初にやったことは、空き瓶作りだ。
最初に作ったときと同じで、家の前にある土を集めて作る。そして大事なのは、できあがった空き瓶のいくつかは保管しておくということ。
今までであれば全て瓶詰めにしてしまっていたけれど、今日森に行って採取する際に空き瓶がないと大変だということを知ったシスティナは、容器になる空き瓶の存在はすごく大事なものだと知ることができた。
本当は空き瓶があったらすべて瓶詰にしたい衝動に駆られてしまうけれど、我慢、我慢だ。
「空き瓶作りも楽しいですからね。わたしの印のお花のマークも、昔に比べたら上手に入れられるようになった気がします! 最初に作った瓶詰なんて、瓶のかたちをしていなかったのに……今では瓶の形もある程度は自由にできて、印まで入れられて……! 今まであまり考えてなかったけど……わたしの空き瓶、間違いなく進化してるよね? ということは、今よりもっとすごい空き瓶も作れるようになっちゃうんじゃない……? その場合は、どうすればいいんだろう? わたしが、マナの扱いをもっと上手になればいいかな? もしくは――あっ! もしかして、土を変えたらどうだろう?」
塔で作っていたときは、与えられていた質の悪い土だった。今は、質こそ上がっているが、家の前で掘った土を使っている。その土を、もう少し場所を選んで掘ったり何か一工夫したりすれば――そう考えて、システィナの目がキラキラ輝く。
「やっぱり瓶詰作りって楽しい、わくわくしちゃう! スライムさん、森ネコさん、瓶詰って、すごいね。わたしね、瓶詰作りに夢中になれてよかったって思うの」
んふふと笑い、システィナは「ようし!」と腕まくりをする。
「でもまずは! 妖精さんのお家だよね。空き瓶を作るだけでもこんなに楽しいのに、妖精さんのお家を作るなんてどれぐらい楽しいんだろう。妖精さんの家を作れるようになったら、もっと森の中で素材を集めて、治癒の瓶詰作りにも挑戦していこう」
治癒の瓶詰めを作ることはシスティナの目標で、大きな夢なのだ。
今はまだ難しいけれど、きっといつの日か作ってみせるとシスティナは意気込んでいる。
ということで、妖精の家づくりスタート。
「可愛い妖精さんだったから、お花のベッドに、床は白い石をタイルにして敷き詰めてみようかな?」
システィナは空き瓶を手に取って、自分のマナを浸透させていく。
こうすることで瓶の形を変えることができ、中を加工し、どういった瓶詰めにするかということを決めることができる。
「瓶は先に瓶詰窯に入れておいて、次は素材!」
森で採取してきた素材を加工していく作業だ。
摘んだピンク色の花は、ベッドに加工する。魔石を組み込んで花の部分をふわふわにして、掛布団には……システィナが持っていた衣服の一部をやぶって素材として使った。やはりベッドには掛布団が必要だ。
「お花のベッドの次は、葉っぱのサイドテーブル」
二色の葉を組み合わせて、システィナは二段になっているサイドテーブルの元を作る。それから、床には白とくすみピンクのタイルをランダムに並べているように素材を配置していく。天井付近には小さな花のランプをつけて、妖精がゆったり暮らせるような暖かい部屋を意識して。
ツインテールの可愛らしい妖精のためにシスティナが作った、瓶詰めの家。
花をモチーフにし、温かみのある部屋に仕上がった。
「よし、完成! でも、妖精さんの住んでる場所を知らないから、とりあえず取りに来るのを待ってればいいかな?」
家の瓶詰の完成目処がわからなかったので、妖精に引き取りについての相談はしていない。けれど、そのうちまた来てくれるだろうと、システィナは空いた時間で他の瓶詰作りを始めた。
きゅるるるというお腹の音で、システィナはハッとした。
生活用の瓶詰を作っていて、気付けば作業部屋が散らかり始めていた。
「いけない、片付けなきゃ」
そう思ったものの、今はお腹が空いているので何か食べた方がいいだろうと考える。塔にいたときも、妖精のシェラードに『飯は食わないといけないんだぞ』とうるさく言われていたことを思い出す。
「林檎があるからそれを食べよう」
そう思いながら階段を上がってリビングへ行くと、ちょうどトントントンとドアを叩く音がした。
小さくて軽やかな音は人間ではなく、小さい人、例えば妖精が叩いたような音だった。そのため、すぐに妖精が瓶詰めを引き取りに来てくれたのだろうとシスティナはわかった。
「いらっしゃい!」
システィナがドアを開けると、予想通り妖精がいた。
『どんなものができるか気になって、様子を見に来たのよ。さっき、森で素材を採取していたでしょ?』
「はい。お家ができたので見てもらえますか?」
『え? もうできたの? 早くても数日はかかると思ってたのに。あなた、優秀な瓶詰職人なのね」
「ありがとうございます!」
思いがけず褒めてもらえたシスティナは、嬉しくて頬が緩んだ。今まで人に褒めてもらうことなんてなかったので、なんだかくすぐったいような、そんな気持ちでいっぱいになる。
『それじゃあ、私の家を見せてちょうだい!』




