使い魔の瓶詰 2
カーテンの隙間から差し込んできた光で目を覚ましたシスティナは、ベッドから体を起こそうとして、自分の横にある温かさに気づいた。一緒にベッドで寝ている、システィナの使い魔になったスライムと森ネコだ。
「おはよう、スライムさん、森ネコさん」
『キュイ』
『にゃー』
二匹とも元気いっぱいのようだ。
「朝ご飯を食べたら、スライムさんと森ネコさんのレベルを上げに行こうね!」
そしてレベルが上がったら、もっと森の奥へ行って瓶詰作りのための素材を採取するのだ。
今はまだ弱い三人組だけれど、これからどんどん強くなることができるのは、やっぱりワクワクしてしまうものがある。
「よし! わたし、頑張るからね。スライムさんと森ネコさんもよろしくね」
『キュ!』
『にゃ!』
スライムと森ネコと共に、システィナは家の外にある森へ足を踏み入れた。本日のミッションは、使い魔のレベルアップだ。
瓶詰の使い魔には、レベルという概念がある。
残念ながらそれがどういう仕組みかは解明されていないが、瓶の一部分に数字が表示されるようになる。
今はスライム、森ネコの瓶詰共に『1』と記載されているが、魔物を倒すことによって何かを得ているのか、その表記が2、3、4、5……と上がっていく。それをレベルと呼んでいる。
個体差こそあるが、レベルが上がった使い魔は強い。ゆえに、このレベルは使い魔の強さを表すのにちょうどいいし、売買される際に最も参考にされる数値だ。
森の中に入ってすぐ、システィナの前にスライムが現れた。
「スライム……! どうしよう、スライムさんにスライムと戦ってもらうのはいいのかな?」
システィナの使い魔になってもらったとはいえ、スライム同士……仲間という認識があるかもしれない。
「無理に戦わせない方がいいかな? あっ、森ネコさんにお願いしたらいいかな……?」
システィナが困惑するもスライムは特に気にしないようで、目の前に現れたスライムに攻撃を始めた。それを見て森ネコもスライムと一緒になって攻撃を開始するが、鋭い爪で攻撃したら一瞬で倒してしまった。
「ふぁっ!?」
倒されたスライムは、キラキラと……まるで粒子のようになってその体は空へ昇るように消えていく。その場に残ったのは小さな魔石が一つ。
「えええ! すごい!! スライムさんも、森ネコさんも、強い! 魔石も手に入ったし、これなら瓶詰の素材がたくさん集まること間違いなしだよ~!!」
ただ残念ながら、使い魔のレベルは上がらなかったようだ。さすがに最弱のスライム一匹程度では無理なのだろう。
だが、まだレベル上げは始まったばかりなのでこれからだ。
システィナの期待がどんどん高まっていったところで、不意に一〇メートルほど先にシロロ花が咲いていることに気付いた。
「シロロ花! 図鑑で見たことはあるけど、本物は初めて! 瓶詰の装飾に使うことができるんだよね? 使ってみたかったんだ……!」
瓶詰の素材で、例えば使い魔の瓶詰に加えると、瓶の中が良い香りになるのだという。中で過ごす使い魔が落ち着くと言われている花だ。
「これで二人のお家をパワーアップさせてあげるね」
『キュイ!』
『にゃあ!』
どうやらスライムと森ネコに喜んでもらえているようだ。
システィナがしゃがんでシロロ花を摘んでいると、すぐ近くの茂みでガサガサガサという音がした。見ると、でっぷり太ったネズズがこちらを睨みつけている。
「わわっ!」
システィナが一歩下がると、それと入れ替わるように森ネコが地面を足で蹴ってネズズへ跳びかかった。そのまま体当たりをしてネズズをシスティナから引き離し、『にゃっ!』と叫び鳴いて爪で連撃を食らわせる。が、先ほどのスライムと違い一撃で倒すことはできない。
「森ネコさん!」
『にゃうぅ……!』
すると、システィナの横にいたスライムがぐわっと体を伸ばしてその一部を投げつけた。遠距離攻撃だ。
「え!? スライムさん、自分の体を投げて攻撃しちゃうの!?」
システィナは驚いたけれど、スライムには何食わぬ顔で攻撃を仕掛けていく。しかし攻撃の勢いは弱く、ネズズにもあまり効いてはいない。
『キュイキュイ!』
『しゃーっ!!』
それから五分ほど奮闘した結果、スライムと森ネコは無事にネズズを倒すことができた。
ネズズの体からキラキラしたものが空へ昇っていきはしたが、スライムのように体が全てなくなることはなく、ネズズはそのまま死体が残った。
そして次の瞬間、スライムと森ネコも体がキラキラと光った。しかしそれはわずか五秒ほどで、すぐ止まる。
「光った? あ、もしかして……」
システィナはすぐに二匹の家になっている使い魔の瓶詰を取り出した。見ると、瓶に『2』という数字が入っている。
「レベルが上がってる! 強敵だったもんね! おめでとう、二人とも!」
『キュ!』
『にゃ~♪』
どうやら強くなったということは、自分たちでも実感しているようだ。会話はできないけれど、喜んでいることはすぐにわかった。
そしてすぐ、ネズズの死体が残っていることを思い出す。
「えーっと……死んじゃってる、んだよね? え……っと、魔物の死体からは確か……素材が取れるって前に読んだ本に書いてあった。もし本当なら新しい瓶詰が作れちゃう、よね? でも、どうやって素材を取ればいいんだろう?」
ネズズの死体を前に、システィナは首を傾げる。
「そういえば……」
システィナは家に本棚があることを思い出す。それに、運ばれた荷物の中にも本が何冊か入っていたはずだ。もしかしたら、その本の中に魔物の解体について書かれているかもしれない。
そうとわかれば、善は急げだ。
「あった、これだ!」
急いで家に戻ったシスティナは、地下倉庫の木箱の中の一つから本が入っているものを見つけ出した。
「本棚には後で並べよう」
瓶詰作りに夢中になったこともあり、家の中の整理整頓には全くと言っていいほど手を付けていなかった。そんなことを考えつつ、システィナは目当ての魔物についての解体の本を手に取る。周囲が森ということもあり、魔物の本も用意してくれていたようだ。
ネズズのことも書いてあって、『肉は食べることができるが硬くてあまり美味しくない』とある。ネズズ特有の瓶詰素材はないようだが、小さな魔石が稀に取れると記載されていた。
「……なるほど、瓶詰の素材にはならないのね。でも、魔石は使うからやっぱり解体してみたらいいよね?」
そして瓶詰以外に、システィナが気になっていることが一つ。
「ネズズはお肉が食べられる……!? お肉って、すごく美味しいやつだよね? でも、まずいって……どういうこと? まずいお肉なんてある?」
システィナはずっと塔で残飯のような食生活を送ってきたため、いまいち食に対する想像ができないでいた。
「とりあえず、解体してみて――あっ!」
本で解体手順を読み進めていると、解体ナイフというものを使うことに気付く。が、システィナはナイフなんてもっていない。というか、この家には武器になるような刃物の類は一切置いていない。キッチンはあるけれど、包丁は用意されていないので、何かを切るという行為をするのは難しいだろう。
「……うん、とりあえず今日は諦めるしかないかも」
システィナは肩をしょんぼり下げつつ、先ほどの場所に戻ることにした。
「………………あれっ?」
しかし戻るとネズズの死体は消えていて、小さな魔石だけが落ちていた。
『キュイ!』
「え、もしかしてスライムさんがネズズ食べちゃったの?」
『キュイキュイ!』
まさかそんなと思ったけれど、スライムの反応を見るにどうやら本当らしい。その証拠だとばかりに、スライムはさらに隣に転がっていたネズズの死体を体の中に取り込んで溶かしてみせた。
「すごい! でも、魔石はないみたいだね」
二匹目のネズズの死体からは魔石は取れなかった。本にも稀に手に入ると書いてあったので、全ての個体から魔石が出るわけではないようだ。
というか。
「わたしが家に戻ってる間に、さらにネズズを倒してたの? スライムさんも、森ネコさんも強いね! ありがとう!」
システィナは使い魔の二匹をいっぱい褒めて、たくさん撫でる。
『キュイ~』
『にゃあ!』
それから少し森の中を探索しながら使い魔二匹のレベルを3まで上げて、システィナたちは家へ戻った。




