生活を整えましょう
システィナはハッとした。出来上がった灯りの瓶詰を持って一階に戻ってきたら、もうどっぷり暗くなってしまっていたからだ。
「夜の森って、真っ暗なんだ……。月明かりはあるけど、一人で外に出るのはちょっと怖そう。でも、夜にしか採取できない素材もあるって本で読んだから、いつか外に出てはみたいかも……」
そしてきゅるるる……と、システィナのお腹が鳴る。
ここへ来るまでろくなものを食べていなかったし、ここへ来てからも何も手を付けず瓶詰作りに夢中になっていた。
「えーと、とりあえず何か食べようかな? ……っとと!」
暗い家の中を歩こうとしたら、床に置いた灯りの瓶詰に躓いて転びそうになってしまう。システィナはひとまず出来上がった灯りの瓶詰に火を灯すことにした。
「塔では瓶詰を使うと怒られてたから、なんだか緊張するかも」
システィナの両手で持てるぐらいの瓶詰は、灯りをつけるとふわりと優しい光で周囲を照らした。
「わああ、明るい! でも、一つじゃちょっと足りない……かも?」
瓶詰自体がそんなに大きなものではないので、一つの灯りは小さい。けれど灯りの瓶詰は一三個作ったので複数個設置すれば家の中も十分明るくなるだろう。
ベッドの本棚、テーブル、キッチン、玄関、トイレ、倉庫、作業場には二つ。合計八個の灯りの瓶詰を設置し、必要な時に使えるようにした。使わなかった四個は予備として保管した
「これでよし……っと!」
明るくなった家の中を見て、システィナの頬が緩む。自分で作った灯りの瓶詰ではあるけれど、こんなに贅沢に使ったのは初めてだ。
「いいのかな、こんなに使って。怒られたりしないかな? ……でも、ここには誰もいないから、怒られることなんてないんだよね。明日は、もっともっと瓶詰をいっぱい作っちゃおうかな」
システィナは楽しみで、寝る時間も勿体ないと思ってしまう。しかし再びお腹がきゅるる……と音を立てて、生命の危機を主張した。
「そうだった! 食べ物、食べ物……とりあえずお腹が膨れればいいですよね? それと、夜は暖炉の火を入れた方がいいのかな……?」
まずはキッチンの横にある暖炉を見たシスティナだが、こてりと首を傾げる。
「でも、火ってどうやってつければいいのかしら……? 塔の暖炉はいつも付けてもらってたから、よくわからないですね」
システィナの眉がへにょりと下がる。
「……だけど、ふわふわのお布団があります」
夜の森は冷えるけれど、幸いここには布団が用意されているし倉庫には毛布もある。かぶって寝れば問題ないだろうと思い、システィナは暖炉に火を灯すのを諦めた。
階段を降りて倉庫の箱の中を確認すると、野菜と一緒にいくつかの硬い黒パンが入っていたので、それを食べて夜ご飯にすることにした。
「今日はもうこのまま寝ちゃおう……。」
服を着替えて、システナはベッドに潜り込んでぎゅっと目を閉じた。
***
「…………この井戸を綺麗にすれば、好きなだけお水を確保することができる!」
システィナは腕まくりをして、蔦のはびこる井戸をふんすと睨みつけた。
家の前にある井戸は、日常生活で使うための水を汲むところだ。
しかし、手入れがほとんどされていなかったようで、蔦が生え放題。とてもではないがすぐ使える状況ではない。だがこれを使えるようにしなければ、システィナの生活飲料水を確保することができないという状況だ。物資の中に多少の水はあったけれど、もって数日程度だろう。
「うーん、井戸の底は見えませんね。ちゃんと水があるといいんですけど」
ロープにくくられた木桶を井戸の中へ落としてみると、ばしゃっ! という水音が聞こえてきた。その音に、システィナはほっと胸を撫でおろす。井戸が枯れていることはないようだ。
「瓶詰め作りにも水は大切ですからね。今日中に使えるようにして、たくさん瓶詰めを作りましょう。……それから、早く使い魔の瓶詰めが作ってみたいです」
昨日、システィナはベッドに入ってもなかなか寝付くことができなかった。
今まで暮らしていた塔に比べれば、ふかふかの布団もあるし、暖炉の火はついていないけれど室内だって暖かい。人の目がなくてゆっくり眠れるはずだったのに、どこか一人ぼっちで不安という寂しい気持ちがこみ上げてきてしまったのだ。
「塔はシェラちゃんが一緒にいてくれましたからね」
システィナの言う『シェラちゃん』というのは、塔に住んでいた妖精のことだ。
その妖精は俺様で、システィナのことをいつもお前なんて呼んでいたけれど、一緒にいてくれたし、文字やシスティナがわからない常識なども教えてくれていた。
追放されたことにより離れ離れになってしまったので寂しいけれど、またいつか会えるのではとシスティナは思っている。
それから三時間ほど格闘し、システィナは井戸の蔦を全て取ることに成功した。
「これでお水を飲み放題、使い放題です!」
しかし水を汲んでみて――システィナの眉がへにょりと下がった。
「なんだか水が濁ってますね……」
手入れのされていなかった井戸は、水に汚れがたまっていたらしい。何度か使ううちに綺麗になるだろうけれど、それでは生活に不便が出てしまう。
「……あ! 水を綺麗にする瓶詰を作ればいいのでは!? 瓶詰作りもできるし、水も綺麗になるし、いいことしかありません!」
システィナは名案だとばかりにはしゃいで、いそいそと生活を整えるための瓶詰作りに取り掛かった。




