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システィナの森の家 1

 ヒヒンッという馬の鳴き声とともに、馬車が停まる。

 システィナが乗ったまましばらく待っていると、馬車のドアが開かれ、「到着いたしました」という男の声が耳に届く。同時に、システィナの視界を塞いでいた布がしゅるりと外された。


「ん、まぶしい……」


 眼前に広がったのは、深く、けれど鮮やかな森の緑。そして秋の始まりを感じさせるような橙がところどころに入り混じっている。


 馬車から降りた足元には柔らかな草に、小さな花。奥の方へ視線をやると、太い幹のどっしりした木、背の高い木、美味しそうな果実を実らせている木と……様々な木々がすさんでいたシスティナの胸をわずかに弾ませる。

 一面に広がる美しい自然に、思わずシスティナの頬が緩んだ。

 その少し奥に、小さな木造の家。


「あれが、わたしの家……?」


 玄関の横には、今はもう使われていないらしい古びた井戸。壁には所々ツタがはっていて、まるで絵本で読んだ魔女の家のようだとシスティナは思う。

 今は、三人の騎士たちが持ってきた荷物を家の中へ運んでいる。もともと少ない荷物だったこともあるが、騎士の手際がいいので荷運びはあっという間に終わってしまいそうだ。


 システィナが家をまじまじと見ていると、自分をここまで連れてきた騎士の内の一人が同じように家や周辺を見てからこちらへやってきた。


「今、家の中へ荷物を運び入れているが……別途、何か手伝うことはありますか?」

「え……?」


 騎士の言葉に、システィナはぽかんと口を開けて目を瞬かせる。

 だって今までは上役にそうするよう命令されたであろう「馬車に乗ってください」だとか、「昼食です」「到着いたしました」などの義務的なやり取りだけで、自分を意志ある人間のように扱うことがなかったからだ。

 さらに言うならば、「呪い殺される」と必要以上にシスティナに近づくことなんてない。


「手伝いは、特に必要ないです。それに、わたしにあまり近づかない方がいい、です」

「別に近づくくらい、問題はない」


 騎士の言葉に、システィナはどうしたらと困ってしまう。自分は本当に呪われているのだということを、この騎士は知らないのだろうか……と。

 すると、タイミングよく――といったらよくないが、すぐ横の茂みからウサギが一匹飛び出してきた。そのウサギがシスティナの足にぶつかると、ふらふらして気絶してしまう。


「――!」


 その光景を見た騎士は、目を見開いて驚いた。


「人や動物、それぞれ差はありますが……こうなってしまうんです」


 システィナは「ウサギさんに申し訳ないことをしてしまいました」と眉を下げながら、自分の側がいかに危険か騎士に説明をした。


「……わたしが離れて少し経つと回復するようなんですが、詳しくはわたしにもわからないんです。ですから、あまり近づかないでくださいね」


 そう告げたものの、システィナの表情は寂しそうなものだ。


「大丈夫ですが、気にされるのなら程々にします」

 まったく大丈夫ではないのだが、騎士の気持ち自体は嬉しかったので、システィナはひとまず頷いておいた。



「では、我々はここで帰らせていただきます。システィナ様は、どうぞこの家で健やかにお過ごしください。……一〇日に一度、食料や瓶詰の素材などの物資をお運びします。それ以外に何か入り用なものがあれば、その時お伝えください。次回お持ちいたします」

「わかりました。騎士様、ここまでお送りいただきありがとうございます」

「…………いえ」


 システィナが静かに礼をすると、騎士たちは再び来た道を戻っていった。幼い彼女を――六歳のシスティナを一人、森の中に残して。



***



 ギイィ……と音の鳴る玄関のドアを開け家に入ると、最初に靴を脱ぐスペースがある。これは、家を汚したくないシスティナがリクエストして用意してもらった。自分の要望を聞き入れてもらえていたことにほっと胸を撫で下ろしながら、靴を脱いで家へあがる。


 玄関のすぐ正面にキッチン、そしてその横に暖炉。右手側にはダイニング用の丸テーブルと椅子があり、さらにその奥はカーテンで仕切られたヌックベッドが備え付けられている。部屋の一番奥にはトイレと、そのドアを隠すように小物用の棚。その手前には階段があって、地下の作業場と食料などを備蓄していく倉庫がある。


 よく言えばこぢんまりとしていて良い家だけれど、王女が暮らす場所と考えるとみすぼらしいとも言えるだろう。

 しかしシスティナはそうは考えなかったし、騎士たちがいなくなったこともあって、次第に口数が増えていく。


「わたし一人で生活するのには、もったいないくらい素敵! わたし、本当にここで暮らしていいの? どうしよう、こんなにわくわくするの……シェラちゃんに会ったとき以来かもしれない」


 システィナは、新しい自分の家に目を輝かせた。



 この幼い六歳の少女は、名をシスティナ・リールラルグという。リールラルグ王国の第二王女として生を受けた。

 銀色がかった薄水色の髪は肩ほどの長さで、後ろで軽くまとめている。パッチリした瞳は愛らしい桃色で、好奇心旺盛。クリーム色を基調としたエプロンドレスを身にまとっていて、身長は一一〇センチメートルと少し小柄で痩せている。


 システィナは今まで、王城の敷地内にある塔で監禁される生活をしていた。


 監禁されていた理由は、システィナが呪われた王女だからだ。人が近づくと生気を吸われたように体調が悪くなったり、気絶してしまったりするのだ。最悪、死も。そのため、物心ついたころには人がほとんど寄り付くことのない、王城の敷地内でも外れの方に建てられていた塔で暮らしていた――というわけだ。

 塔での生活では、最低限の食事などを運ぶメイドはいたけれど、自分のことは自分で今までもやってきた。場所が変わるだけで、これからの生活も今までとは何ら変わらないだろう。


 そして今になって塔を追放されこの森へ追いやられたのは、ひどく簡単な理由。

 システィナを出産した直後にシスティナの呪いで死んだ王妃――その後妻が新たな王子を出産した。王子が呪われることになったら大変だと、システィナを追放したのだ。

 まったくもってあっけない追放だった。

瓶詰いっぱい作りたい勢システィナをよろしくお願いします!

(でもまずはご飯とかの確保をしてほしいところ……ままならない)

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― 新着の感想 ―
>瓶詰め職人の仕事は、瓶を作るところから始まる >一番簡単な瓶の材料は、そこら辺にある土だ。質のいい瓶を作ろうと思えば土にこだわらなければいけないけれど、単純な日用品として使う瓶であれば、その辺にある…
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