システィナの森の家 3
システィナはさっそく集めた土を持って、地下の工房へと降りた。
地下工房は奥の壁が一面棚になっていて、そこに素材や道具を置いておくことができる。量が多いものは、木箱に入れて床に積んであった。
これらは、システィナが来た際に一緒に運び込まれたものだ。木箱を覗いて、瓶詰作りの素材を確認してみる。
「……素材の質は、お城で使っていたのと同じか……それより少し低いくらいかな?」
作業工程で限界まで質を維持できるよう努力はするが、これでは質の低い瓶詰しか作ることができないかもしれない。
次にシスティナが見たものは、作業机と、奥にある瓶詰窯。作業机は広々していて、ペンや紙の束が準備されていた。
瓶詰窯は、素材などを入れて瓶詰を作るために使用するものだ。くるくるかき混ぜて瓶詰を作っていくのだけれど、自身のマナを使うため繊細なコントロールが必要になってくる。ここが瓶詰作りの腕の見せ所だ。
「難しいけど、できたら嬉しいんだよね」
瓶詰窯の前に立って、システィナは目を閉じた。集中して、自分の体の中にあるマナを感じ取るのだ。そして、そのマナを使って瓶詰窯に炎を灯す。
そうすることによって、瓶詰窯を使うことができるようになるのだ。
瓶詰窯に灯った炎は、自身のマナを炎にしているので熱くない。もし持ち主以外が使おうとした場合は、マナが反発して熱くなる。システィナが使っている瓶詰窯は量産品なのでそこまでの効力はないだろうが。けれど、ものによっては使用者以外が使うとそのマナが反射して相手を炎で焼き尽くすこともあると言われている。眉唾ではあるが。
「うん、瓶詰窯は問題なく動くね」
瓶詰窯が温まったところで、システィナは集めてきた土を投入した。
それを長い木の棒でぐるぐるとかき混ぜて、同時にゆっくり自身のマナを手のひらから瓶詰窯に注いでいく。
こうすることによって土を加工し、瓶詰の基礎となる『空き瓶』を作ることができる。
しばらくくるくるかき混ぜていると、土がキラキラと光を帯びてきた。
土の中にあった不純物が取り除かれ、マナによって昇華され、ガラスのような物質ができあがる。
その物質を、自身のマナを使って形を整え、自分だけのオリジナルの瓶を作るのだ。
システィナは出来上がった透明の物質をいったん器に入れて、作業机に移動する。机の上に鉄板を敷いて、その上で粘土遊びをするように瓶の形に整えていく。
「ん~~! この成形作業、好きだなぁ。土だったとは思えないこの感触に、ほんのり温かいのもたまらないし! ずっとあったかければいいのに、マナが抜けると冷たくなっちゃうし……」
マナが抜け冷えることにより、瓶としての形を保つのだから仕方がないけれど。
いつだか寒い冬の夜、形成前の物質を湯たんぽ代わりにできないかと四苦八苦したことがある。残念ながらできなかったけれど、システィナにとっては楽しい実験の思い出の一つだ。
「ずっと作っていたいのに、もうできあがっちゃう……」
システィナの手に収まる小さな丸みをおびた瓶を、五つ作ることができた。瓶には『システィナ印』として、小さな花の模様も入れてある。
「うん、完成~!」
【空き瓶】
すべての瓶詰を作る際に必要になる、大元の瓶詰。
職人の熟練度により瓶に印を入れたり、さまざまな形にすることができる。この空き瓶で、瓶詰職人の実力を図れるといっても過言ではない。
上手く瓶を作れて、システィナの顔がぱっと輝く。
「すごいすごい! いつもの土よりずっと扱いやすかった……! ここの森、きっとマナが豊富だから素材の質がいいんだ! もっと森の奥に行けば、すごい素材があるかもしれない!」
そんなことを考えるが、魔物が出てきたらシスティナには戦うすべがない。野望として森での素材集めを掲げはするけれど、すぐに行くことは難しいだろう。幼いシスティナにとって、現実は厳しい。
「でもでも、使い魔の瓶詰を育てれば……なんとかなるかも! 使い魔の瓶詰は作ったことないけど、きっと早めに用意した方がいいよね」
これからの生活を考えると、楽しいことがたくさんだ。時間が足りないかもしれない! なんて考えてしまうけれど、あいにく時間はありあまっているほど。
システィナはふんすと気合いを入れ、まずは作る瓶詰に意識を集中させることにする。せっかく空き瓶を作ったのだから、このまま作業を続行しようと考えたのだ。
「これはどんな瓶詰にしようかな? 部屋の明かりが心許なかったから、まずは生活用品がいいかな? 明かりを灯す瓶詰にしてみよう」
作る瓶詰を決めてしまえば、あとはあっという間だ。
システィナはスキップする勢いで素材の入った木箱を見て、必要なものを取り出していく。
「火の魔石の欠片と、水の魔石の欠片。それから、空の鉱石」
それらの素材を机の上に置き、鉄鑢を用意する。これで魔石の欠片と鉱石を整えることによって、均一な明かりを生み出すことができるようになるのだ。
システィナは丁寧に丁寧に、鑢がけをしていく。
「火の魔石で明るさを、水の魔石で明かりの停止。光を発する空の鉱石は、どんなかたちに加工しようかな? いつも作ってたのは普通の真ん丸だったけど、わたしの家の明かりだし……わたしの好きな星の形にしてみようかな。きっと、すっごく可愛い! 星の形は作ったことないけど、新しいことに挑戦できるのが嬉しすぎる! お城で作業してたときは、言われた通りのもの以外を作ると怒られたもんね……」
今までは作業が好きだけれど、好きなものを自由に作れているわけではなかった。けれど今は、自分の好きなものを作ることができるのだ。
「作業してるだけでも楽しかったのに、自分の好きなものを作っていいなんて……わたし、どうなっちゃうんだろう。嬉しくて、なんだか顔が熱いかも」
システィナは、はわわわわと焦りながらも「集中しないと!」と気を引き締める。
鉄鑢で形を整えたら、次は鉱石を星の形にしていく作業だ。
形を整えた鉱石は、マナを吸収しやすくなる。システィナは鉱石に少しだけ自分のマナをなじませて、形を変えていく。
「むむむ、いつもの丸より形を作るのが難しい……」
すうっと息を吸い込んで、作業をしながら呼吸の仕方をゆっくりにしていく。こうすることで、システィナは集中力が増すのだ。
手の中の鉱石がとげのような形になってきた。最初は難しいかもしれないと思ったけれど、一ヶ所できればあとは同じことを繰り返すだけ。
「こういう作業の繰り返し、大好き」
繰り返すことによって、自分の中の技術が上達していくことがわかる。明日は、もっと上手く作れるようになるかもしれない。もっと早く作れるようになるかもしれない。そんなわくわくが、システィナの中で溢れていく。
「……ん、いい感じ!」
システィナの手のなかに、立体的な星になった鉱石ができあがった。
「これを瓶の中に入れて、魔法で蓋をして……完成!」
【灯りの瓶詰】
灯りをつけるための生活用瓶詰。
瓶詰職人によって灯りの作りが異なり、高級品から汎用品まで揃っている。
あとはこれを部屋の天井につけたり、棚などに置いたりすれば、明かりとして使うことができる。システィナは自分好みの家にできることが、嬉しくて仕方がない。もちろん、好きなだけ瓶詰を作れることも。
「さっそくつけてみよう! ……っと、その前に残り四つの瓶も灯りにしちゃおう。ほかの部屋にも使いたいし、予備もあると安心だよね?」
残った空き瓶で灯りの瓶詰をせっせと作った結果、システィナは楽しくなりすぎて、さらに追加で一〇個の灯りの瓶詰を作ってしまったのはご愛敬だろうか。
システィナはハッとした。出来上がった灯りの瓶詰を持って一階に戻ってきたら、もうどっぷり暗くなってしまっていたからだ。
「夜の森って、真っ暗なんだ……。月明かりはあるけど、一人で外に出るのはちょっと怖そう。でも、夜にしか採取できない素材もあるって本で読んだから、いつか外には出なきゃだよね……」
そしてきゅるるる……と、システィナのお腹が鳴る。
ここへ来るまで碌なものを与えられなかったし、ここへ来てからも何も手を付けず瓶詰作りに夢中になっていた。
「えーと、とりあえず何か食べようかな? ……っとと!」
暗い家の中を歩こうとしたら、床に置いた灯りの瓶詰に躓いて転びそうになってしまう。システィナはひとまずできあがった灯りの瓶詰に火を灯すことにした。
「塔では自分で瓶詰を使うと怒られてたから、なんだか緊張するかも」
システィナの両手で持てるぐらいの瓶詰は、灯りをつけるとふわりと優しい光で周囲を照らしだした。
「わああ、明るい! でも、一つじゃちょっと足りない……かも?」
瓶詰自体がそんなに大きなものではないので、一つの灯りは小さい。けれど灯りの瓶詰は一三個作ったので複数個設置すれば家の中も十分明るくなるだろう。
ベッドの本棚、テーブル、キッチン、玄関、トイレ、倉庫、作業場には二つ。合計八個の灯りの瓶詰を設置し、必要な時に使えるようにした。使わなかった四個は予備として保管することにした。
「これでよし……っと!」
明るくなった家の中を見て、システィナの頬が緩む。自分で作った灯りの瓶詰ではあるけれど、こんなに贅沢に使ったのは初めてだ。
「いいのかな、こんなに使って。怒られたりしないかな? ……でも、ここには誰もいないから、怒られることなんてないんだよね。明日は、もっともっと瓶詰をいっぱい作っちゃおうかな」
システィナは楽しみで、寝る時間も勿体ないと思ってしまう。しかし再びお腹がきゅるる……と音を立てて、生命の危機を主張した。
「そうだった! 食べ物、食べ物……とりあえずお腹が膨れればいいよね? それと、夜は暖炉の火を入れた方がいいのかな……?」
まずはキッチンの横にある暖炉を見たシスティナだが、こてりと首を傾げる。
「でも、火ってどうやってつければいいのかな……?」
塔の暖炉はいつもメイドが点けていたため、システィナが自分で火を熾すことは難しい。システィナの眉がへにょりと下がる。
「……だけど、ふわふわのお布団があるし! きっと大丈夫!」
夜の森は冷えるけれど、季節はまだ秋が始まったばかり。幸いここには布団が用意されているし、倉庫には毛布だってある。寒くても頭からかぶって寝れば問題ないだろうと思い、システィナは暖炉に火をつけるのを諦めた。
階段を降りて倉庫の箱の中を確認すると、野菜と一緒にいくつかの硬い黒パンが入っていたので、それを食べて夜ご飯にすることにした。
「今日はもうこのまま寝ちゃおう……ふあぁ……」
服を着替えて、システィナはベッドに潜り込んでぎゅっと目を閉じた。




