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新たな依頼 3

 容赦なく、無意識下でフレイムウルフの尻尾を切り落としたシスティナを見て――ディグは若干引いた。


「お前……普段はおどおどしてるくせに、瓶詰のことになると容赦なさすぎだろう」

「う、うう~……」


 瓶詰が絡むと無情になれるシスティナに、けれど「お前らしいか」と言ってディグが笑う。そんなディグを見たシスティナは(ディグ様って笑えたんだ)と少し温かい気持ちになった。



 ディグに教えてもらいながら、どうにかフレイムウルフとポイズンスネークの解体を終えた。

 素材を手に入れることができて、セルルの住処も安全になって、さらに村に流れていた水も綺麗になっていいことづくしだ。


『あとはここを浄化するだけね! ……そういえば、システィナは体調を崩していないのね』

「え、わたしですか?」

『そうよ。だって、森の水が汚染されていたのに、システィナの家の井戸だけ汚染されていないなんてありえないでしょう?』


 アンリエッタの言葉に、システィナは確かにと衝撃を受けた。

 自分の体調は特に問題がない。お腹が痛いことも、熱が出るということもない。ディグをチラリと見るが、こちらも健康そうだ。

 何か特別なことをしていただろうかとシスティナが考えて、「あっ!」と思い出す。


「わたし、井戸に流水の瓶詰を入れてます。もしかしたら、それが毒を綺麗にしてくれてるのかも」

『きっとそれだわ。ポイズンスネークの毒は、噛んだときは強いけど時間が経てば毒素が薄まるのよ。人体に多少の影響はあるけれど、瓶詰で浄化して影響がなくなったのね』

「なるほど~!」


 システィナが納得! というような顔をしたが、ディグから「ちょっと待て」とストップがかかった。


「流水の瓶詰に毒を消す効果はない」

「え?」

『そうなの?』


 ディグの言葉に、システィナとアンリエッタが驚いた。声に出してはいないが、セルルも驚いているようだ。


「流水の瓶詰は水をろ過して綺麗にするだけで、毒は別だ。お前、それは本当に流水の瓶詰か?」

「え、え、え……? 流水の瓶詰だと思いますけど……」

「……家に帰ったら確認するが、きっと込められてるマナが多いんだろうな。それが素材のどれかに影響して、毒を無効にしたと考えるのがだとうか? 流水の瓶詰に使った素材は、魔石、普通の石、水と風の魔石の欠片か?」

「そうです。あと、井戸の近くにあった苔も素材に使ってますけど……」

「苔で毒を消すのは何をしても無理だから違うな。可能性があるのは、水の魔石の欠片か。あれは上位の欠片になると、毒を打ち消す効果が付与されたはず……もしや、込めるマナが多すぎて魔石の欠片が進化を遂げた? そんな力業……マナ喰いならできるのか? 意味がわからなさすぎる。帰ったら実験する必要があるな。もし本当に力業でそんなことしてるなら、人為的な――」

『ちょっとちょっと、あなたもシスティナタイプだったの!? 独り言が止まらないじゃない!!』


 アンリエッタの声で、ディグがハッとした。


「……悪い。思考を整理してただけだ。とりあえず問題なさそうだ」

『まったく~。これだから瓶詰オタクは……』


 やれやれと、アンリエッタが肩をすくめた。

 とりあえずは、井戸の水が汚いから対策として置いていた流水の瓶詰が想定以上の仕事をしていてくれたようだ。


(流水の瓶詰は、今後も設置しておこう)


『システィナ、流水の瓶詰はまだ持ってるかしら? 水に溶け込んだ毒素が抜けるのにはもうしばらくかかるだろうから、森の中の水飲み場に設置したいの』

「もちろんです。家に帰ればいくつか保管してあるのでお渡しします。足りない分はまた作りますね」

『ありがとう!』


 妖精も水がなければ暮らしづらいし、森に住む動物たちも飲み水がなければ生死に関わるだろう。

 システィナはすぐ家に戻って、流水の瓶詰をアンリエッタとセルルに渡した。



***



 ――翌日。

 これにて一件落着! と言いたいところなのだが、あいにく村に滞在している騎士問題が残っていた。


 システィナは家の前の野菜畑で収穫をしつつ、どうしたらいいのだろうと考える。

 騎士たちは村にいたが、システィナの家には来ていない。あくまで村を守るという立場に徹しているのだろう。

 どうしようどうしようと頭の中をぐるぐるさせながら畑を見つめていると、ディグが出てきて「まだか?」と声をかけてきた。


「そうだった! サラダにする野菜を収穫してたんでした!!」

 考え事をしていたら、すっかり自分の役割を忘れてしまっていた。システィナが野菜を持っていかなければ、今日の朝食が始まらない。レタスを手に持ち、システィナは重い足を動かしてディグが呼ぶキッチンへ向かった。



 料理はディグがメインにしてくれているが、システィナも野菜をちぎっただけのサラダを作っている。

 というのも……実は、システィナは瓶詰作り以外は思いのほかぽんこつだったのだ。ゆえに、料理に関してシスティナは野菜をちぎってサラダを作る係に就任した。



 食事を終えると、ディグの視線がシスティナに向けられる。その瞳は、何も言わなくても村にいる騎士をどうする? と語りかけていることがわかった。


「王女なんだから、騎士なんて命令して黙らせればいいんじゃないか? 名案すぎる」

「全然名案じゃありませんよね!?」


 あまりにも無謀なディグの提案に、システィナは絶句を通り越して叫んでしまった。なんてことを言うのだ、この男は……! と。


「わたしにそんな力はありません」

「でも、王女だろう? 取り繕って強気にいけば、案外なんとかなる」

「取り繕うって……」


 ディグは「あ、そうか」と困惑気味のシスティナを見た。

「そもそも取り繕えないのか」

「…………」


 王族としての教養や、立派なドレスをシスティナは持っていない。騎士と対峙したとして、なんと言えばいいのかわからない。

 システィナが知っていることといえば、塔で妖精のシェラードに教えてもらった|生きる知恵〈一般教養〉と多少丁寧な言葉遣いだけ。


「わたしは王族として必要なものを、何一つ持っていませんから」


 気が沈んでいるシスティナに、ディグはやれやれと肩をすくめる。システィナがここでうじうじ悩んでいるのは構わないけれど、あいにくディグは一人で妖精の洞窟を通れない。素直に森を通るとかなり距離があるし、緊急時以外はやりたくないと思っている。

 正直、ほかの村や街へ行くつもりはないけれど……どっちみち物資の調達にはいかなければならないのだ。


 システィナを連れ出すためにはなんと言うのが効果的かと考えて、やっぱり瓶詰のことしかないなとディグは結論を出す。


「村の井戸に流水の瓶詰を入れなくていいのか?」

「え……? あ、そうだ、わたしの家の井戸は流水の瓶詰が入ってるから大丈夫なんだった! でも、魔物を倒して湧き水は浄化しましたよ?」

「浄化したとしても、地下を通って村に行くんだぞ。村まで綺麗な水が届くには、ある程度の日数は必要になるはずだ」


 ディグの言葉を聞いて、システィナは「確かに!!」と頭を抱えた。


「そういう大切なことは、早く教えてください! ……だけど、持っていっても受け入れてもらえないんじゃないですか?」

「だが、このままじゃ素材が買えない」

「素材は、まあ……村に入らないと買えないですからね。というか、わたしの心配をしてくれていたわけじゃないんですか」


 てっきり心配してくれたのかと思ったシスティナだが、ディグはどこまでいってもディグなのだなと認識を改めさせられる。


「瓶詰もいくつか消費したし、素材は補充しておきたい」

「それはそうですね。わたしも戦闘用の瓶詰とか、もっと色々作っておきたいですし」

「そうだな」


 システィナは自分の首にかかった体質緩和の瓶詰をぎゅっと握りしめて、リコ村のことを考える。

 初めてできた友達のピピカとは、もっとたくさん話をしたかった。エルドの雑貨屋には、まだほしい素材があった。


(……ピピカたち、まだ苦しんでるかもしれないのに……わたし……)


 流水の瓶詰という根本の原因を解決できる方法を知っているのに、それを教えず苦しむのを遠くから見ているだけ――なんて、システィナにはできなかった。


「ディグさん、流水の瓶詰を持って村に行きましょう! もし通さないと言われても、井戸の中に投げたらこっちの勝ちです!」


 強気になったシスティナを見て、ディグは「楽しそうだなぁ」と頭にぽんと手を置いた。


「いいか、王女様? 前を向いて堂々と胸を張れ。眉を下げず微笑んでいろ。今は、それができれば十分だ」


 ディグの助言は、どうすればいいかわからなかったシスティナの立ち位置を明確にするための姿勢だった。

 気品なんてシスティナにはないけれど、今、ディグに言われたことであればできそうだ。


「――はい!」

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