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新たな依頼 1

 森の家に帰ると、システィナはしょぼくれてしまった。

 気分が落ち、どんよりとして、自分がしでかしてしまったことに、どうしようもない後悔が体中を走り抜けたような感覚。

 ディグはあっけらかんとしていて、「まずは原因を突き止めるのが先か」なんて軽く言っている。


「ディグ様は、本当にわたしのせいじゃないと思ってるんですか?」

「当たり前だ。俺の作った瓶詰を付けているのに、あんなことが起きるわけない。そもそも村全体っていうのもおかしな話だ。マナ喰いはそんな広範囲に作用しない」


 だから、お前は堂々としてればいいとディグは言う。

 普段は高圧的な態度をとることも多いディグだけれど、今の自信に満ち溢れたその言葉にはシスティナも救われた気持ちになる。

 それに、妖精のアンリエッタに教えてもらったときもそんな説明をしてくれた。自分の近くで人が倒れたら不安になるけれど、その原因が本当に自分なのかきちんと考えるべきだったのだ。


(わたし、もっと自分の呪い……ううん、体質のことをちゃんと知っておかなきゃ)

「さて、村には騎士……か」


 これからどう動くべきかと考えようとしたところで、ノックの音が響いた。突然のことに、システィナの肩がビクッと揺れた。


「俺が出る」

「は、はい……」


 村の住人はこの家の場所を知らないけれど、騎士たちは知っているはずだ。

 もしかしたら、システィナを捕らえに来たのかもしれない。そんなことを脳裏によぎったが、ディグがドアを開けた先にいたのはアンリエッタだった。さらにその横には、もう一人見慣れない妖精がいる。

 システィナは来客を見てほっと胸を撫でおろす。


「アンリエッタさん!」

「仲良くしてるって言ってた妖精か」


 ひとまずアンリエッタと連れの妖精を家の中に招いた。



 システィナとディグが椅子に腰かけると、アンリエッタはテーブルの上に立って自己紹介をしてくれた。


『私はアンリエッタ。こっちは友達のセルルよ』

『よろしくお願いします……』

「システィナです」

「ディグだ」


 自然と続くディグの自己紹介に、アンリエッタが驚いた。


『あなた、私が見えてるのね?』

「ああ」

『システィナといい、ここにいる人間は規格外ばかりなのかしら』



 森に住む妖精、セルル。

 くるりとした短めの巻髪に、紫色の瞳。レースとリボンがふんだんに使われたロリータボンネットには、生花で装飾がなされている。

 クラシックなドレスは上品で、まるで人形のような印象を受けた。



 アンリエッタはシスティナをじっと見つめて、『落ち込んでいるの?』と不思議そうな顔をした。


『どんよりした表情じゃない。そんな顔をしていたら、幸運も逃げてしまうわよ』


 どうやらアンリエッタはシスティナを励ましてくれているみたいだ。システィナはできるだけ笑顔を浮かべるようにしつつ、村のことを説明した。


「……わたしのせい、ではないみたいなんですけど……やっぱり心配ですし、騎士がどう判断するのかわからなくて」


 システィナの話を聞いて、アンリエッタは難しい顔をする。そしてセルルを見て、互いに頷きあった。


『もしかしたら、セルルの用事と関係あるかもしれないわ』


 アンリエッタの言葉にセルルが頷いて、先を促している。


『私が説明するの? 仕方ないわね……』


 どうやらセルルはあまり口数が多くないようだ。まるでいつものこととばかりに、アンリエッタが用件を説明してくれる。


『セルルは土の色が濃い妖精なの。普段はこの森の地下洞窟で過ごしているんだけど、少し前から魔物が住み着いたみたいなのよ』

「魔物が? それ、大変じゃないですか」

「まあ、魔物が住み着くのはよくあることだ」


 ディグがなんでもない風にいうので、システィナはそういうものなのか……と納得する。とはいえ、気付いたら魔物が住み着いていた、では住んでいる方は困ってしまう。


『ええ。だけど、私たちじゃ倒せないから、どうにかしてもらいたくてきたの。システィナなら、戦闘用の瓶詰だって作れるでしょう?』


 魔物を倒すために、攻撃できる瓶詰を依頼しに来てくれたようだ。

 けれど、この森にいる魔物ならば、システィナの使い魔のラズとベリーで問題なく倒すことができる。一緒に行った方が解決は早いだろうと、システィナは考えた。


「それなら、使い魔を連れて一緒に行きます」

『助かると言いたいところだけど、システィナの使い魔って……スライムと森ネコでしょう? さすがに無理じゃないかしら』


 最弱の魔物スライムと、比較的弱い部類に入る森ネコ。アンリエッタから見たら、この二匹では魔物に太刀打ちするのは難しいようだ。

 しかしシスティナはそれに否を唱える。二匹はシスティナと一緒に素材採取などで森に出て、使い魔にした頃より強くなった。今はレベルも上がって、気付けばレベル8だ。きっと、地下にいる魔物だって倒すことができるだろう。


「うちのラズとベリーは強いですから! ね、ディグ様!」

 システィナは目を輝かせて、ディグに賛同を求める。二匹の戦いぶりを知っているのは、システィナとディグだけだからだ。


「………………まあ、なんとかなるだろう」

『本当なの? でも、そこまで言うならそれでいいわ。さっそく行きましょう』



***



 森を少し歩くと、システィナが初めて見る洞窟があった。

 どうやらここがセルルの暮らしている場所のようだ。洞窟の壁には光る鉱石がちらばっていて、薄暗いながらも問題なく歩くことはできる。

 奥に行くと地下へ降りる階段が続いていた。そこを降りた先で、セルルはいつも過ごしているのだという。


「こんな洞窟があったんですね」

『私もよく遊びに来ているのよ』

「楽しそうですね」


 システィナは興味深そうにキョロキョロと周囲を見ながら階段を降りていく。一定間隔で大きめの光る鉱石が壁に埋め込まれているため、足元も明るい。


「これ、妖精の洞窟にある光と少し違い……ますよね? どういう仕組みなんですか? 瓶詰の素材にしたら――」

「ストップだ。今は魔物が先だろう」

「ハッ! そうでした、ごめんなさい。わたしったら……」


 システィナはすぐさま反省し、キッと前だけ見ながら歩いていく。しかし、降りていく途中で鼻につくような嫌な匂いが漂ってきた。

 システィナが思わず手で鼻を抑えると、ディグが何の匂いだとセルルに目配せをする。


『魔物の死骸と、放置して膿んだ怪我の匂いです。複数の魔物がいるので、争いが起こっているんです』

「事態は思ったより良くないようだな」


 ディグはやれやれといった感じを出しているが、システィナはてっきりネズズや角ウサギが発生しているとばかり考えていたので、自分の想像していなかった魔物がいる可能性に心臓が嫌な音を立てている。


 恐る恐るゆっくり階段を降り切って地下の空間を覗いてみると、凶暴な顔をした狼の魔物が数匹と、蛇のような魔物もいた。


「――っ!」


 システィナが思わず叫びそうになったところで、ディグが手でその口を塞いだ。


「声を出したら気付かれる。大丈夫だから、ゆっくり呼吸しろ」


 ディグの声を聞いて、システィナはこくこく頷いた。静かに、ゆっくり呼吸を繰り返すと、次第に気持ちも落ち着いていく。


「もう、大丈夫です」


 システィナがそう告げると、ディグは頷いて手を離した。


『あそこにいる魔物は、フレイムウルフが三匹と、ポイズンスネークが五匹。あと、別にフレイムウルフの死骸が一体あるわ』

「悪臭がここまで酷いのは毒のせいか」

「えっ、毒!?」


 システィナは思わず口を塞ぐ。毒というものを実際にみたことはないけれど、摂取したら死に至ることが多い――と、本で読んだことがあるからだ。


「大丈夫なんですか?」

「強い魔物の毒じゃないから、よほどのことがない限り大丈夫だろう。空気感染……毒を直接体内に入れなければ、症状が出ることもない」

「ディグ様は詳しいんですね」


 説明に関心していると、ディグはやれやれといった顔でシスティナを見てきた。


「俺より、自分の心配をした方がいいんじゃないか? 今まで生きてきて、よく毒入りの食事が出なかったものだ」

「んえっ!?」


 そんなことを言われるとは思ってもいなかったので、システィナは驚いた。確かにカビたパンやらはよく出てきていたが、毒を盛られたことはない。


(もしかしてわたし、もっと気を付けないといけなかったのかな……)


 今更そんなことを考えても遅いのだが、追放されて一人になってしまったなか――騎士にも出会ってしまったし、もしかしたらもっと身の回りに注意しなければいけないのかもしれない。


(解毒する瓶詰とか、作ってみよう……)

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