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リールラルグ王国の騎士 2

「……頭、痛い」


 目が覚めたシスティナはのそのそ動くけれど、ベッドの中から出る気にはなれなかった。

 頭まですっぽり布団をかぶり、今日はこのまま寝て過ごそう。そう思っていたのだが、布団越しに「おい」という低い声が聞こえてハッとした。


「俺を置いて先に帰るとはいい度胸だな?」

「――!」


 システィナはすっかり忘れていたと、大きく目を見開いた。

 村へはディグも一緒に行っていたのだ。しかし、セリオから村の人たちが倒れたことを聞いて驚いて、システィナ自分のせいだと責めて一人で帰ってきてしまった。

 システィナがいなければ、ディグは妖精の洞窟を通ることができないのに。


「あ……ディグさん、どうやって帰ってきたんですか?」

「歩いて帰ってきたが?」


 どうやら妖精の洞窟を通らず、そのまま森の中を突っ切ってシスティナの家まで帰ってきたようだ。道中に高い崖があったはずだけれど、一体どうやって登ったのかと思ったが、今そんなことを聞いたら怒られることは間違いない。システィナは口を噤んだ。


「……ごめんなさい」

「別にいい。それより、何も食べてないだろ? スープでも食べとけ」

「……ありがとうございます」


 システィナはのそのそベッドから降りて、テーブルにつく。

 目の前には湯気が立った温かいスープがあり、少しだけ体の緊張が解けた。スープを一口飲むと、じわりと温かさが体の中に広がっていく。


「ディグさん、ごめんなさい。せっかく体質緩和の瓶詰めを作ってもらったのに、駄目だったみたいで」

「体調不良の村人のことを言ってるのか?」

「そうです」


 ディグの言葉に、システィナは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 そしてそれ以上に、村の人たちになんと詫びればいいのだろうか。自分がいなければ体調不良で倒れることなんてなかったのに……。


「あれはお前のせいじゃない」

「……?」


 思いがけないディグの言葉に、システィナはぱちくりと何度か瞬きをした。


「俺の用意したその瓶詰めがあるのに、あんなに村人が倒れるわけがない。特定はできてないが、原因はほかにあるはずだ」


 そう言いながら、ディグは指を折って可能性を示していく。


「流行り病か、食べ物か、それか水か? おそらく、そのへんに原因があるはずだ」

「で、でもっ! わたしのせいで倒れてしまった人と似てて――」

「偶然、似てるだけだろ。俺は天才なんだ。その俺の瓶詰めをつけていて、あそこまで酷いことになるはずがない」


 自信満々のディグの言葉に、システィナはぽかんとしてしまう。こんなにも堂々と、システィナのせいではないと告げられるとは思わなかった。


「それで、どうする?」

「え?」

「村に行って、原因を追究するか?」

「する!!」


 ディグの言葉に、システィナは食い気味で返事をした。



***



 システィナとディグが村に行ってみると、事態は変わっていた。


 普段であれば村の入口にセリオか、別の自警団の人間がいるのだけれど、今はなぜか数人の騎士が立っている。

 服装はシスティナを森の家に連れてきた騎士と同じもので、王城から派遣された騎士だということがすぐにわかった。ただ、システィナを森へ送った騎士ではない。


「――!」

「自警団の代わりに、騎士がいるな」


 きっとあの騎士はシスティナの存在を知っているだろう。顔を知っているかまではわからないけれど、特徴的なシスティナの長い銀色かかった薄水色の髪は、見れば王女であると気付けるもののはずだ。


 システィナは森の家から出るなとは言われなかった。


 村に行ってもいいだろうとは思うけれど、森の家から出ないということが暗黙の了解ということは十分にあり得る。

 だって、そもそもシスティナは塔に監禁されていたのだから。

 システィナが勝手にどこかに行くことを許すとは到底思えなかった。無意識のうちにシスティナの体が震える。


 そんなシスティナの様子を見て、ディグはどうするべきか思考を巡らせていく。

 ディグとともにシスティナを送った騎士たちの話ぶりを見る限り、システィナに味方している人間はほぼいないだろう。ゆえに、あの騎士が味方かもしれないという都合の良すぎる展開はあり得ないと考えるべきだ。

 システィナの様子を見ても、それは明らかだった。おそらく顔を合わせることはしない方がいいだろうと、ディグは判断する。


「俺が村を見てくるから、システィナはここで待っていろ。今は自警団が機能しているかわからないから、村の近くでも魔物が出る可能性もある。使い魔は――」

「わたしも行きます」


 ディグが待機の指示を出そうとしたが、システィナは首を振った。


「騎士様がいるということは、もしかしたら村のみんなの状態は昨日よりもっと深刻なのかもしれません。わたしがいて何かできるかはわからないけど、もし手伝えることがあるなら、みんなの力になりたいから……」

「……わかった」


 ディグは思いのほかすんなりシスティナの願いを聞き入れてくれた。

 システィナを否定せずに、言葉を告げるのも、意見を言うのも待ってくれて、こうして意思を尊重してくれる。ディグのことはわからないことばかりだけれど、そういう優しさは今日までで多く知ることができた。

「行くか」

「はい!」


 ディグが先頭で村の入り口まで行くと、「止まれ!」と騎士から声がかかった。これは、村人ではない部外者なので、想定の範囲内だ。

「自分たちはこの村の近くに住んでいる者で、定期的に訪れているんですが……何かあったのですか?」

「近隣の住人、ということか」

 騎士は自分たちに必要な情報は得るが、ディグの質問に答えるつもりはないらしい。その失礼な様子に、システィナは怒りを感じる。

(ディグ様は丁寧に質問してるのに)

 とはいえシスティナが口をはさんでややこしい事態になっては大変なので、今はできるだけ気配を消して立っている。

「そこの子供は――……」

 が、あっさり騎士に見つかってしまった。

「おい、例の……」

「指示のあった外見と一緒か」

 騎士はシスティナを見ながら、何やらひそひそ話している。しかしその顔を見る限り、いい話題でないことはすぐにわかった。

「呪いの子、お前のせいで村人たちは倒れ、苦しんでいる」

「――っ!」

 自分を知っているかもしれないという予想はあったけれど、こんなに早くシスティナの正体を断定されるとは思ってもみなかった。

 システィナの顔色は悪くなり、呼吸が早くなる。同時に、やっぱり自分のせいで村の人たちが倒れてしまったのだという気持ちが増していく。

 ディグが一歩前に出るも、騎士は声を荒らげる。

「お前のせいで、今まで何人もの犠牲者が出たことを覚えていないのか? この村では、いったい何人がその呪いで死ぬのだろうな?」

 騎士たちの声が大きいせいで、入り口に村の住人たちが集まってきた。中には、エルドや、システィナと交流のある人もいる。

 体調が悪そうな人もいるが、見た限りでは回復に向かっている者もいるようだ。そのせいで、騎士たちの声に気付いて集まってきてしまったのはシスティナにとってあまりよくはないが。

「……! わたし、呪いとかそういうのじゃ……」

「どうして村に近づいた? お前が近づかなければ、この村は平和だっただろう」

 騎士の言葉で、住民たちの間にざわめきが広がっていく。「どういうことだ?」「呪いって?」「騎士様が嘘を吐くはずがない」という言葉がシスティナの耳に届く。

 突然、ふらりと村に来るようになった身元不明の少女と身分の保証されている王城の騎士。どちらを信じるべきか? と問われたら、答えなんて一つに決まっている。


「挨拶もできる、いい子だと思っていたのに……」

「もしかして、あの瓶詰が体調不良の大元だったんじゃないか?」

「呪いの子……!!」


 次第に、住民たちの口調が荒くなっていく。


「ちが、わたしはそんなことしてな……」


 ない――と言おうとしたが、ピピカが体調不良になってしまった原因はシスティナにあったし、エルドが「最近、疲れが取れづらくてなぁ」と言っていたのを思い出してしまった。

 今回の件とは違うが、それはまぎれもなくシスティナのせいで。それがあって、システィナはきっぱり否定の言葉を口にできなかった。


「騎士様の言った通り、システィナの呪いのせいだったんだ!」

「ふざけるな!」

「村に来るんじゃない!!」

「……っ!」


 住民たちの態度に、システィナはぐっと拳を握りしめる。元々悪いのは自分なのだから、傷ついてはいけないと。

 そんななか、ディグはいたって冷静だった。


「これでは話をすることもままならないな。いったん出直そう」


 そう言うと、ディグはシスティナを抱き上げて肩に担いた。その方が、早く帰れると判断したのだろう。

 システィナは予想外で驚きはしたものの、ディグに任せて大人しくすることを選んだ。ぎゅっとディグに掴まれば、ぽんぽんと撫でられる。


「…………ありがとう」

「ああ」


 ディグは騎士の制止になんて聞く耳も持たず、森の家へと帰った。

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