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リールラルグ王国の騎士 1

 システィナが体質緩和の瓶詰を付け始めて、一〇日ほどが経った。


「ディグ様、今日も村に行きませんか? 新しい素材がほしくて!!」


 作業部屋で瓶詰を作っていたシスティナは、同じく瓶詰の研究をしているらしいディグに声をかけた。

 今、システィナが試しているのは癒しの瓶詰作りだ。しかしこれがまあ上手くいかなくて……絶賛行き詰っているのだ。なので、ほかの素材を試す必要があるのでは!? と、システィナは考えたのだ。


「……構わないが」

「やった~! ラズとベリーにも声をかけてきますね」


 ディグから了承の返事をもらったシスティナは、簡単に片づけをしてからリビングへ向かう。瓶詰に入ったままのんびりくつろぐ使い魔に声をかけると、すぐ嬉しそうに返事をしてくれる。


「前に買い取ってもらったお金があるから、今日は瓶詰は持って行かなくて大丈夫そうかな? あ、でも畑で収穫した野菜をおすそ分けしようかな?」


 なんてことを考える。

 システィナは村の人たちと交流することが増えていて、特にピピカとエルドにはいろいろお世話になっている。特にエルドはいつも奥さんの焼いたクッキーをくれるし、システィナが知らない雑貨や素材のことなども教えてくれる。

 ピピカの家には本が何冊かあって、それを借りて読んだりもした。システィナにとって難しい箇所は、意外にもディグが説明してくれて驚いた。


 ちょうどシスティナの準備が終わったところで、ディグが階段を上がってきた。


「俺は行けるが、準備はできたか?」

「はい!」

『キュ!』

『にゃう!』


 システィナに続いて、ラズとベリーも元気に返事をする。その可愛さにシスティナはクスクス笑いながら、村へ続く妖精の洞窟を目指した。



***



「……?」

「? どうかしましたか、ディグ様?」


 森を抜けてもう村に到着する、というところでふいにディグが足を止めた。普段であればしないディグの行動に、システィナは頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる。


「もう村も見えて……あれ?」


 村の入り口を見て、システィナもいつもと違う光景に目を瞬かせる。普段であれば自警団がペアを組んで見張りをしているのだが、今日はその姿がない。


「もしかして、村で何かあったんでしょうか?」


 その対応に追われていて、見張りをする余裕がなくなっている可能性がある。リコ村は小さな村なので、人手だって余裕があるわけではないのだ。


「とりあえず、行ってみましょう」

「そうだな」


 システィナが歩き出せば、ディグもすぐ後に続いてくれた。



 村に到着したが、外を歩いている人は誰もいなかった。いつもなら自警団の人が立っているし、村の中も数人が歩いていたり、井戸端会議している奥様立ちだって目に入る。


「少し様子を見てくるから、お前はいったんここで待っていろ」

「えっ!? わたしも一緒に行きます!!」


 ディグに待機を命じられたシスティナは、嫌ですと首を振る。しかし、ディグもそれを許容するつもりはないようで、「駄目だ」と言い切った。


「ど、どうしても……ですか?」

「どうしてもだ」

「でもでも、ピピカたちが心配で。もし何か困っていることがあるなら、瓶詰の手入れや新しく瓶詰を作って解決できるかもしれませんし……」


 システィナがいれば役に立つかもしれない! ということをアピールしてみるが、ディグはやっぱり首を横に振る。


「体質緩和の瓶詰を付けてはいるが、相手の免疫が著しく下がっていた場合は多少影響が強まる。今はここで待て」

「――!」


 ディグの言葉に、システィナは大きく目を見開いた。


(そうだ、体質緩和(この)瓶詰のおかげで人の近くにいても大丈夫だっただけで、わたしの元々の呪い……体質がなくなったわけじゃなかった)


 システィナは首から下げた体質緩和の瓶詰をぎゅっと握りしめる。


「わかりました。ここで待ってます」

「いい子だ。ラズ、ベリー、システィナを見てるんだぞ」

『キュイ!』

『にゃっ!』


 ディグが村の中へ行くのを、システィナは落ち着かない様子で見送った。



 ドクドクと、心臓が嫌な音を立てている。


「……大丈夫かな。みんなどうしちゃったんだろう」


 周囲は静かで、普段なら聞こえる雑談も耳には届かない。早く戻ってきて、「なんの問題もなかった」とディグに告げてほしい。


 村をぐるりと囲む外壁の柵に寄りかかって待っていたら、ふいにすぐ横にある自警団の詰所のドアが開いた。


「えっ! 人いたの!?」


 見張りに誰も立っていなかったので、自警団の詰所には誰もいないと思い込んでしまっていた。まず最初に確認するべきだったのにとシスティナは肩を落とす。


「あ、システィナ!」

 出てきたのは、なんだか顔が赤いセリオだった。


「誰も見張りに立ってないから驚いて……セリオ、村で何かあったの? なんだか、顔が赤い」

「あー、やっぱり? さっきまでは大丈夫だったんだけど、ちょっと熱が出てきたかなぁ。今、村のほぼ全員が病気っぽくてさ」

「え……」


 セリオの言葉に、システィナはギクリとする。


「俺は元気だったから見張りに立ってたんだけど、ちょっと気分が悪くなって……あー、駄目だな横になりたいや」


 熱い息を吐くセリオに、システィナは「大丈夫……?」と声をかけることしかできない。


「何日か前から、体調を崩す人が増えててさ。システィナは大丈夫か?」

「わたしは元気、だよ」

「ならよかった」


 無理に笑顔を見せるようなセリオだが、逆にシスティナの表情はどんどん歪んでいく。だってもしかしたら、その体調不良は――システィナのマナ喰いのせいかもしれないと考えたからだ。


(数日前から体調を崩してるなら、わたしが村に通い始めて少ししてから……だよね? 体質緩和の瓶詰を付けてたけど、やっぱり万能ではなくて……ちょっとずつみんなからマナを奪っていたのかもしれない……)


 どうしよう、どうすればいい? そんな気持ちがシスティナの中で膨らんでいく。


「本当なら、見舞いとかもしたいだろうけど……村には寄らずに帰った方がいい。ピピカがかなり熱が高いからさ」

「――ピピカが?」


 それは、システィナが一番触れていたのがピピカだったから? そう考え至ってしまうのに、システィナからすれば十分な理由だった。


(ディグさんがせっかく作ってくれたのに……やっぱり、わたしは誰かと交流を持つべきじゃなかったんだ……!)


 システィナは、自分に関わった人たちが倒れたときと同じ様子を見て……やはり関わっていけなかったのだと顔を青くした。


「わたし、帰るね……」

「あ、システィナ! 今日は一人で来たのか――って、聞こえちゃいねえ。まあ、ここにいて病気が移るよりはいいか」


 セリオはやれやれと言った風に苦笑しつつ、横になるため自警団の詰所へと戻った。



 システィナは無我夢中で走った。

 村を出て、森の中に入って、妖精の洞窟を一気に駆け抜けた。一刻も早く村から遠ざかって、誰とも関わり合いにならないようにしようと思ったのだ。


「わたしから離れたら、きっと回復するから……っ!」


 システィナが村にいなければ、誰も体調を崩したりはしないはずだ。

 家についたシスティナはベッドの中に丸まって声を押し殺すように泣いて、そのまま疲れ果てて眠りについた。

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