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システィナのための瓶詰作り 2

「ティグさん、夜の森って楽しいですね」

「そうか?」


 どこか浮かれているシスティナの言葉に、しかしディグは興味がなさそうだ。


「そんな風に油断しながら歩いてると、魔物にパクっと食われるぞ」

「それはほら、スライムさんと森ネコさんがいるから大丈夫ですよ。わたしの使い魔二匹は、とっても強いんですからね! ネズズなんて一撃ですし、角うさぎにだって負けませんよ!」


 胸を張ってドヤ顔をするシスティナを見て、ディグはそういえばとずっと疑問に思っていたことを口にした。


「なんで種族名? せっかく使い魔の瓶詰で捕らえたのに。まあ、売るなら名前を付けなくてもいいだろうが……その割に売る気配もないだろう?」

「……名前? 売る?」


 きょとんとしたシスティナを見て、ディグは眉をしかめる。

 そしてシスティナが理解していなさそうなことに気付き、渋々ながらも続きを話す。


「本来、使い魔には名前をつけるものだ。でなければ意思疎通ができないし、不便だからだ。名前をつけない場合は、売るために捕らえたからか、よっぽど愛着がないかのどちらかだろう。お前は愛情を持って使い魔に接していたから、名前を付けないのが不思議だったんだ」

「名前を……」

「まあ、別に無理につけろとは言わないが」


 楽しそうに歩いていたシスティナは足を止めて、自分の横にいるスライムと森ネコを交互に見る。

 二匹とも、可愛くつぶらな瞳でシスティナのことを見てくれていた。そこに信頼があるというのはシスティナにもわかる。


「名前って、わたしが付けていいんですか?」

「お前以外に誰がつけるんだ」

「それは……そうですよね」


 システィナはその場にしゃがんで、スライムと森ネコに視線を合わせる。嬉しそうにすり寄ってくれる。


「そっか。わたしが二匹の名前を付けていいんだ」


 今まで名前をつけるなんて考えもしなかった。

 それはシスティナが愛情を与えられず、塔に監禁されて育てられたのが原因だろう。名前を付けるという行為がシスティナの考えに浮かばなかったのだ。


「ディグさん、名前を付けるとわたしたちの関係に何か変化はあるんですか? さっき、意思疎通ができない……って言いましたよね? 名前を付けたら、この子たちと話をすることができるんですか?」


 もしそうなら、すぐにでも名前を付けてあげたいとシスティナは思う。

 キラキラと目を輝かせるシスティナに、しかしディグは「そこまでじゃない」と名付けについての説明をしてくれる。


「意思疎通といっても、会話ができるわけじゃない。ただ、使い魔の種類によっては会話が成り立つこともあるらしい。例えば、言語を持つ上位種のドラゴンとかがそれに当たるが……まあ、そんな存在に出会えるわけでもないし、最悪絶滅していることだってある」

「ドラゴン!?」


 思いがけない存在に、システィナは目を見開く。古いお伽話に出てくるような強い魔物で、今はディグが言う通り見ることなんてできないのではないだろうか。


「でも、もしドラゴンの何かを素材にして瓶詰を作れたりしたら……」

「朝が来るからストップだ」

「ハイ」


 システィナは自分の口を手で押さえ、喋らない意思をディグに示す。


「話が逸れたか。つまり使い魔に名前を付けてできることは、その使い魔に名前という個別の名称を与えてやれることと、互いがどんなふうに思っているかをなんとなくわかるくらいの意思疎通だ」


 間違ってもすべてが通じるわけではないので、その点は気を付けるようにとディグが注意する。


「だが、戦闘させるのであれば、なんとなくでも意思疎通ができた方がいい。戦え、待機、撤退、それがわかるだけでもだいぶ違う」

「なるほど。つまり、出かけようとか、帰ろうとか、そういうのが伝わるようになるってことですよね?」

「ああ。今まで通り声に出して指示をしてもいいが、さらに伝わりやすくなる。あとは嬉しいとか、嫌だとか、感情面だな」


 ディグの説明を聞いて、システィナは「なるほど、なるほど~」と脳内でいろいろと考える。今でも仲良くしているつもりではいるが、もっとコミュニケーションを取れるようになれるのは純粋に嬉しい。


「わたし、名前を付けます。まさかわたしが誰かに名前をつけられるなんて、考えてもみませんでしたけど……わたしがつけてもいいんだ」


 システィナの頬が緩んで、自然と笑顔になっていく。


「ね、わたしが名前を付けてもいいかな?」

『にゃ!』

『キュ!』


 森ネコとスライムが返事をしてくれた。

 システィナは両手を前に出して、スライムと森ネコをしっかり見る。


「スライムさんの名前は、ラズ! 森ネコさんの名前は、ベリー! どうかな……?」


 気に入ってもらえるだろうかと、システィナはドキドキしながら二匹を見つめる。すると、二匹はシスティナの腕へ飛び込んだ。


『キュイ!』

『にゃあ!』


 言葉を直接交わすことはできないけれど、嬉しいという気持ちがシスティナの中に流れ込んでくる。

 ぽかぽか胸が温かくなるような感覚に、じわりと目頭が熱くなった気がした。


「これからもよろしくね、ラズ、ベリー!」



「さて……時間もくったし、さっさと花の蜜を採取するぞ」

「はーい!」


 スライムと森ネコに名前を付けたシスティナは、ご機嫌で元気もいっぱいだ。


「今なら何時間でも森の中を歩ける気がします!」

「無謀すぎだ。……戻ってきたな」


 システィナの体力をまったくあてにしていないらしいディグは、すっと人差し指を伸ばして手を上げた。すると人差し指に一匹の蜂が留まった。


「虫!? 大丈夫ですか、ディグ様」

「偵察の瓶詰を使った。この蜂が花の咲いているところに案内してくれる」

「――! いつの間に」


 システィナが気づかないうちに、ディグは偵察の使い魔を使って夜に花が咲いている場所を探させていたようだ。

 夜に咲く花があるとはいえ、確かに闇雲に森を探して見つかる可能性はあまり高くなかっただろう。システィナは素直に「ありがとうございます」とお礼を言って、ディグと一緒に偵察の蜂について行った。



 蜂が案内してくれたのは、システィナの家を越えてさらに西に二〇分ほど歩いた場所だった。


 森の木々が少し開けている場所で、花が多く咲いている。けれどほとんどが蕾なので、普段は日中に咲いているのだろう。

 その花畑の一角に、花を開かせているものが数本だけあった。もしもシスティナが目視で探していたら、気づかなかったかもしれない。


「偵察の蜂さん、すごいです!」


 システィナがそう言うと、蜂は役目を果たしたとばかりにその姿を消した。

 もう二度と会うことができないのは寂しいけれど、こうして花を探してくれたことは忘れないでいようとシスティナは思う。


「ほら、蜜を採取するぞ」

「はい!」


 見つかったのは白い花で、大きさはシスティナの手のひらくらいある。月明かりに照らされているため、暗くても見やすい。


「…………ディグさん、花の蜜ってどうやって取ればいいんですか?」


 一応、採取用に空き瓶は持ってきている。しかし花を見ても、蜜が採れる気配は残念ながら感じられない。


「|スライム〈使い魔〉……ラズに頼むんだ」

「ラズに?」


 思いがけない答えを聞いて、システィナはラズを見る。ぷるんと体が揺れて、やる気に満ちていることだけはわかった。


「ラズ、花の蜜を採れる……?」

『キュイ!』


 普段と似た返事だけれど、今はお任せ! と言っているのがなんとなくわかった。これが名前を付けた繋がりなのだろう。


 そして森ネコのベリーはといえば、ときおり出てくるネズズや角ウサギを倒してくれている。


 ラズは体をぷるぷるさせながら、白い花を飲み込んだ。いや、体の中に入れた……という表現の方があっているだろうか。

 そしてじゅわり……と、白い花から蜜だけがラズの体に溶け出した。


「え、え、え!? そうやって採取するんだ!」


 数本の花を取り込んだラズは、システィナの持っている空き瓶を欲しがるそぶりを見せた。


「あ、これがいるんだね」

『キュ!』


 システィナが地面に空き瓶を置くと、ラズがその瓶の中に採取した蜜を入れてくれた。その量は微々たるものだけれど、黄金色の美しい蜜が採れていた。


「本当に採取できてる! すごいね、ラズ! ありがと~!」

『キュイ~!』


 ラズはシスティナに褒められたのが嬉しかったようで、ぴょんと跳ねて抱きついてくる。それが可愛くて、システィナもぎゅっと抱きしめ返した。


「これで材料が揃ったから、瓶詰が作れますね! ね、ディグさん!!」

「そうだな」    


 システィナが目をキラキラさせてディグを見れば、やれやれという雰囲気を醸し出しつつも頷いてくれた。

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