システィナのための瓶詰作り 1
「ひとまず、体質を緩和するアイテムを作るか」
「え!? そんなことできるの!?」
「俺にかかれば余裕」
ディグは自信満々な様子で、必要な素材をあげていく。
「月光石、蝶々の鱗粉、夜に咲く花の蜜、梟の羽を使う。これでできるのは、体質緩和の瓶詰だ」
「そんな瓶詰が……!」
残念ながらシスティナが持っている素材は一つもない。
「そんなに珍しい素材じゃないから、森で取れるだろ」
「月光石っていうのはなんですか? 初めて聞きました。普通の石……ではないですよね?」
システィナの問いかけに、ディグは頷いて素材の説明をしてくれた。
「月光石っていうのは、その名前の通り月の光を吸収している石を指す。希少価値は、蓄えている月の光の量によって変わってくる。夜に……月の光に照らされているときに採取した石なら、質はあるがすべて月光石として扱って構わない」
ディグ曰く、家の前に落ちている石も月の光を吸収しているので月光石と分類してしまってもいいのだという。ただし、専門家は月光石と呼ばないほど質は酷いらしい。
「家の前の石でもいいんだ!」
それならすぐ素材を手に入れられる! とシスティナが目を輝かせていると、ディグから「駄目に決まってるだろう」と駄目出しが入った。
「素材の質は高い方がいい」
「月の光をたくさん浴びてる石、ですよね? ここは森の中だし……」
地面に落ちている石は、森の木々が空を遮り、そんなにたくさんは月の光を吸収していないだろうとシスティナは考える。
それならば、森を出て村に行く途中で落ちている石の方が光を遮るものがないので、月の光をたくさん吸収しているのではないかと考えた。
システィナがそう提案しようと思ったところで、ディグが「あそこがいいな」と口を開く。
「村に行くときに通ってる妖精の洞窟。どこか月の光が入る場所があるはずだ」
「え? でも、あの道って一本道ですよね?」
とてもではないが、月の光が入るような場所があるとは思えなかった。
「妖精は自然の光が好きだから、何かしらあるはずだが……」
「なるほど……?」
不思議な洞窟でもあるので、もしかしたらディグの言うように月の光が集まる場所もあるかもしれないとシスティナは考える。
妖精がいれば月の光のことを聞けるが、どこに住んでいるかまではシスティナも把握していない。
「というわけで、お前は寝てろ。出発は深夜だ」
ディグにそう言われると、システィナは有無を言わさずぽいっとベッドの中に放り込まれてしまった。
***
バサバサッと鳥が飛んでいく音と、元気いっぱいの使い魔の声が夜空に響く。
辺りは暗いが、月と星の明かりが森の中を照らしている。遠くの空はキラキラ光っているので、もしかしたら空の先にはもっと星があるのかもしれないとシスティナは思った。
「夜の森は初めてです。いつも家の中にいたから」
「夜は魔物が凶暴になるから出ない方が賢明だ。二匹の使い魔を自分の側から離れないようにしておくんだぞ」
「わかりました」
ディグの忠告を素直に受け入れ、システィナは頷く。
ただ、森ネコは夜の森に興奮しているみたいで、はしゃいでいるけれど。
『にゃにゃっ!』
「森ネコさん、夜の森は危ないみたいだから気を付けてね」
システィナが忠告したのと同時にネズズが飛び出してきたのを、森ネコが一瞬で倒してしまう。森ネコは強くなっていて、もう立派な戦闘要員だ。
「すごいねぇ」
誇らしげな森ネコを褒めながら撫でると、嬉しそうに『にゃっ!』と鳴いた。
妖精の洞窟へはすぐに到着した。
キラキラ光る洞窟の中を歩きながら、さてどうしようかと考える。ディグの予想では、この洞窟のどこかに月の光を取り入れる場所があるらしいけれど……。
「いつも通りの洞窟ですね」
「妖精がいたらよかったんだが、そう上手くはいかないか」
ディグはため息をついて、瓶詰ホルダーから瓶詰を一つ取り出した。
「!! それ、新しい瓶詰ですか!? 気になります!!」
「はいはい、黙って見てろお子ちゃま」
システィナが目を輝かせて一気に近づいても、ディグは気にせずマイペースに作業を続けていく。
「……これは、看破の瓶詰だ。使用者の一定範囲内にある、マナ的要素を含む異物に反応するよう作ってある」
「初めて見る瓶詰です」
「俺のオリジナルだからな」
「え」
ディグのオリジナル瓶詰という言葉に、システィナは目を見開いた。今まで、誰か一人しか作れないような、そんな瓶詰を見たことがなかったからだ。
瓶詰は共有されるべきもので、仮に新しい瓶詰が開発されたら国に登録して広く伝えられる――というのを、システィナは本で読んだことがある。
「でもでも、オリジナルの瓶詰って……作るのがすっごく大変なんだよね? 確か本には、最後にできたオリジナルの瓶詰は七〇年くらい前って書いてあった気がするのに……。ということは、ディグ様の瓶詰は国に申し出てないっていうこと……? それとも、使い道があんまりなさそうだから国から却下されちゃったってこと? だから本にも載ってなかったんだ」
いつものようにシスティナが止まらなくなると、ディグに頭を掴まれた。
「そのまま喋ってたら朝になる」
「ハイ」
ディグは看破の瓶詰の蓋に触れながら、「なあ」とシスティナに声をかける。
「……|看破の瓶詰〈この瓶詰〉を、お前は国に届けろと言うか? 確かにこれは、国に申請していない俺のオリジナル瓶詰だ。登録していないことに、違反だと声をあげ訴えるか?」
「え、わたしがですか……?」
突然の問いかけに、システィナはどうすべきか悩む。
国に届け出るというのは、塔があってシスティナが暮らしていた場所――つまり王城に届け出るということだろう。ただ、システィナにはあまりいい思い出はない。それに、国に届け出をしたあと、どのような流れや扱いになるかまではシスティナも知らないのだ。
システィナは瓶詰職人と名乗ってはいるけれど、生粋の職人ではない。
元々瓶詰を作り始めたのは、塔から出られず、一人きりの時間を紛らわすために始めたことだった。瓶詰を作っている間だけは、嫌なことを考えず、その作業だけに没頭することができたからだ。
だからシスティナは、ほかの瓶詰職人というものを知らない。
「正直に言うと、よくわからないです。国がどうとか、わたしには関係もないですし。だから別に届けなくてもいいです。でも、オリジナル瓶詰があることは、わたしには教えてほしいです」
「………………ふは、正直すぎるだろ」
珍しくディグが笑ったのを見て、システィナもつられて笑った。
「さてと、ちゃちゃっと済ませて帰るぞ」
ディグは看破の瓶詰の蓋を開けて、それを地面に置く。すると、瓶詰の中からもくもくっと透明に近い白煙が立ち上り始めた。
「おおっ!」
システィナは思わず声をあげて、もくもくただよう煙に目を奪われる。意思を持って動いているのかと思ったけれど、無作為に、けれど均等に広がっていっているようだ。
すると、とある一点で煙の色が黒に変わった。
そこは何の変哲もない洞窟の壁で、システィナが見ても何かあるようには思えない。こてりと首を傾げて、壁に手を触れてみると――まるでまやかしとばかりに、手が壁をすり抜けた。
「ぴゃあっ!」
システィナは前のめりになるかたちで、洞窟の隠された通路に転び入った。
「不用意すぎる」
「うう、ごめんなさい……」
追ってきたディグは呆れた様子だけれど、別にシスティナを責めるようなことはしなかった。責めたところでこの性格が改善されないと思っているのかもしれないが。
転んだシスティナが起き上がると、そこは奥行き五メートルほどの空間だった。わずかな光が差していて、天井を見上げると穴が開いていて夜空が見える。
「わ、本当にあった!」
システィナは驚いて、上を見ながら空間の中心に歩いて行く。そして地面を見れば、月の光を受けた石が微かに輝いているのがわかる。
「家の前に落ちてる石は、夜でも光ってなかったのに……」
「これが月の光を多く溜め込んだ、上質な月光石だ」
「綺麗……」
石を一つ手に取って、システィナは月の光に照らす。キラキラ光る様子は美しく、これで瓶詰を作れるなんて夢みたいだ。
「あとは、蝶々の鱗粉と、花の蜜と、梟の羽ですね!」
「鱗粉と羽はこれだ」
「!」
ディグが持っていろと、取り出したものをシスティナに渡してきた。てっきりこれから採取に行くのだと思っていたので、目をぱちくりさせる。
「え、いつの間に!?」
「昼間のうちに。だが、夜に咲く花の蜜はまだだ」
システィナが寝ている間に素材を揃えてくれていたようだ。素直に「ありがとうございます」とお礼を言い、花の蜜について考える。
「夜に咲く花、ですよね? でも、花が咲くのって日中……ですよね?」
根本的な疑問に、システィナが首を傾げた。
「種類は多くないが、別に珍しくはない」
「そうなんですね。夜に咲く花……瓶詰作りに使えると思うので、頑張って覚えます!」
システィナはふんすと気合を入れて、「早く行きましょう!」とディグの服の袖を引っ張った。




