瓶詰作り大好き勢 2
「どうぞ」
システィナは家の中にディグを招き入れた。
汚れたらいけないという理由で、家は土足厳禁になっている。それを伝えなければと思ったけれど、システィナが靴を脱いだのを見てディグも同じように脱いで上がってくれた。
(もしかして、あんまり悪い人じゃないのかな?)
たったそれだけの気遣いで、ついついシスティナの警戒が緩む。きっと近くにシェラードがいたら、あり得ないという目で見られていたことだろう。
ディグは部屋の中を見回し、地下へ続く階段を見つけたようだ。
「作業場は奥だったな」
「そうです。地下に倉庫と作業場はそのまま使ってるので」
階段を降りて作業場に行き、システィナは今まで作ってきた瓶詰をディグに見せる。時折手伝いに来てくれていたが、瓶詰を見せたことはなかった。
一番多いのは灯りの瓶詰。これは村で買い取ってもらってお金にすることができる。それと予備を持っておきたかったのは流水の瓶詰。綺麗な水を確保するのは大事なので、最近は出かけるときも持ち歩くようにしている。森で見つけた川の水にも使えるからだ。それから、空の瓶詰に使い魔捕獲用瓶詰、それとシスティナが癒しの瓶詰を作ろうとして失敗してしまった残骸がいくつか作業台の上に置かれている。
ディグは灯りの瓶詰を一つ手に取った。
「……見た目は、まあ普通か? いや、多少はいいか。ただ、この出来にしては込められてるマナが多いな。お前の瓶詰は、ほかの職人が作る瓶詰より効果が長いんじゃないか?」
「え……」
予想していなかった言葉を振られて、システィナは目を瞬かせた。
瓶詰は効果が永続するものではない。定期的なメンテナンスをして長期的に使うか、使えなくなったり壊れたりした際に買い直すのが一般的だ。
例えば、今システィナが使っている灯りの瓶詰は、安物の場合は一ヶ月に一度の手入れが必要になる。店で売られているような平均的なものは、だいたい半年に一度の点検でいい。さらに質がいいものは手入れの期間がぐっと伸びる。
システィナは作業場で使っている灯りの瓶詰を改めてまじまじと見た。明かりがぶれることは一切なく、煌々と部屋の中を照らしてくれている。目に優しい光は、ちょっとやそっとじゃ衰えないだろう。
「……そういえば、前にわたしが使っていた灯りの瓶詰は一ヶ月も持たずに光らなくなっていました」
「そりゃまた酷い粗悪品だ。灯りの瓶詰でそんな粗悪品を作れるなんて、逆に才能なんじゃないか?」
そう言って、ディグは軽く笑う。
(あ、笑った)
システィナは思わず目をぱちくりさせて、けれどすぐ瓶詰のことに思考を切り替える。
「粗悪品なのは、そうなんだと思います。それにあの瓶詰、灯りの光量も不安定で、たまに光が揺らいでチカチカしたんです。わたしはマナが不安定になっているのかなと思ったんですけど……そうか。あれはもともと質のいい瓶詰ではなかったってことなんですね。でも、それならそれでもうちょっと見とけばよかった」
システィナは自分ではなく他の瓶詰職人が作った灯りの瓶詰に、興味が向かう。
いや、正確には見たことがある。しかしそれはシスティナが瓶詰作りを始めてすぐだったため、その瓶詰がどういった状態で、どのくらいのクオリティのものなのかというのを正確に把握できなかったからだ。
これが一般的な灯りの瓶詰なのだろうと、システィナは思ってしまっていたのだ。ゆえに、システィナはそれ以上その瓶詰を追求することはなかった。それが普通だと思っていたからだ。
しかしよくよく考えれば、システィナが自分で作った瓶詰の方が質もいいし、灯りの持ちも長い。
そのことに気づかなかったのは、自分で灯りの瓶詰を作れるようになっていたので、城から支給されたものにあまり興味がいかなくなっていたことと、自分で瓶詰を作るのが楽しくてしかなか仕方がなかったから、気にしている余裕がなかったのだ。
そこでふと、システィナはディグは灯りの瓶詰は持っていないのだろうかと視線を向ける。
「ん?」
しかしそもそも、騎士だと思っていたディグは何者なのだろうか。さっきは夢中で瓶詰の話を聞き、さらに使わせてもらってしまったけれど……システィナと同じ瓶詰職人なのだろうか?
(ううん、わからない……)
瓶詰をたくさん持っているからといって、別に瓶詰職人というわけではない。仕事で瓶詰を使う人はいるし、それこそ騎士のような戦闘職なら攻撃系の瓶詰を多く所持していてもなんら不思議ではない。
余談だが、瓶詰コレクターと呼ばれる人もいる。稀少な瓶詰を集め、自慢するために持ち歩くこともあるそうだ。
(考えてもわからないし、わたしを始末しようとしてきたし……いっそ、正直に聞いちゃおう)
もしディグがシスティナのことを快く思っていない人に雇われているのだとしたら、いっそ開き直って始末される前にいろいろ聞けばいいと考えた。そこから、自分が生きる突破口を見つけることだってできるかもしれない。
「ディグ様は、瓶詰職人……なんですか?」
「正確には瓶詰職人じゃないが、よく作る」
「つまり趣味で瓶詰を作ってしまうほど大好きっていうことですか?」
「瓶詰のことになると思考がポジティブすぎないか?」
「え? えへへ」
「別に褒めてはいない」
ディグはやれやれと肩をすくめて見せたが、システィナはディグが作る瓶詰がどんなものか知りたくてソワソワしてしまう。
「ディグ様は、灯りの瓶詰は作れますか?」
「そりゃあ作れるが?」
なぜ作れないと思ったんだと、ディグの顔に書いてある。それもそうだとシスティナは頷き、「見てみたいです!」と目を輝かせた。
「……………………まあ、いいが」
(いいんだ)
ディグは、システィナの無警戒に思うところがあったものの、わざわざ自分が忠告する必要はないと思考は放棄した。
ディグが瓶詰ホルダーから灯りの瓶詰を外し作業台の上に置くと、すぐにシスティナが食い入るように見つめてくる。
「これが灯りの瓶詰? すごい、こんなの初めて……!!」
システィナが思わず興奮してしまったのも仕方がないだろう。
ティグが見せてきた瓶詰は、システィナの作る灯りの瓶詰よりとても小さいサイズだったからだ。その大きさはだいたい五分の一くらいだろうか。ポケットにも入ってしまう大きさで、持ち運びにも便利そうだ。
「……でも、こんなに小さかったら明かりが弱いんじゃないかな? 寝るときにつけておく間接的な明かりとして使うならいいのかな? もし本を読むときに使うんなら、多分ちょっと明るさが足りないよね? どうしよう、つけるのにこんなドキドキする灯りの瓶詰ははじめて!」
システィナはそっと灯りの瓶詰を手に取った。
瓶詰の蓋の横に摘みがあって、そこを押すと瓶詰が光るようになっている。システィナが灯りの瓶詰をつけると、部屋全体を照らすほどの灯りが広がった。
「え……っ!?」
全く想定していなかった光量に、システィナは驚きを隠せない。
部屋を見回して、隅まで明かりが届いていることを確認して、また瓶詰に視線を戻す。小さいのに、システィナが作った瓶詰よりずっとずっと明るかった。
「なにこれすごすぎる……!! ティグ様、これどうやって作ってるんですか!? わたし、こんな瓶詰はじめて見ました。こんな小さいのに、たった一つで作業部屋を照らしてる。わたしが置いている瓶詰三つより明るくて、でもなんだか柔らかい光で、すごく落ち着く気がします」
「別に変わった光を使ってるわけじゃないから、落ち着くのは気のせいだと思う」
「それは……」
ディグの返事に、まず変わった光を入れることもできるのだろうか? という疑問がシスティナの頭に浮かぶ。
けれど、今はまだそこに行きついていない。小さい瓶詰の作り方と、灯りの光量を増やす。まず気にすべきことは、その二点だ。
「教えてほしいです! この瓶詰の作り方を!! わたしにもできますか? それとも、もっとマナがないとできませんか? わたし、マナの使い方も勉強はしてましたけど、まだまだ未熟で……」
自分にもっと才能があればよかったのに。システィナは悔しい気持ちから、ぎゅっと拳を握りしめた。
「瓶詰を見る限り、その年にしてはかなり出来がいい方だろう? それより、俺がもっと優秀だっただけだ」
「はい……?」
淡々としているように見せかけて、すごい自信満々な人だなとシスティナは思った。けれど、実際すごい瓶詰を作っているので全肯定するだけだ。
「灯りの瓶詰の素材はあるのか?」
「! あります!! 灯りの瓶詰はたくさん作って売っていて、大事な収入源なんです」
システィナは素材の入った木箱から、灯りの瓶詰の制作に使う火の魔石の欠片、水の魔石の欠片、空の鉱石を取り出した。だいたい、灯りの瓶詰二〇瓶分の素材がある。
「いつもこれで作ってます」
「素材は普通か」
「最近は灯りの部分を星形にするのが好きで、最近は小さい星とちょっと大きめの星を作ったりしてて。あと瓶詰ごとに変化を出したりしてるんですけど、私の工夫はそれぐらいで……灯りの強さを自由に変えれたら、瓶詰の使い道ももっと便利になると思うんです! キッチンだったら明るい方がいいですし、寝る部屋だった少し暗めの灯りがいいかなって。夜道は暗いから、もし外に行くことがあったらとびきり明るいやつがあってもいいと思いますし。ティグ様が作ってる小さいのは狭い場所とかにも使えますし、持ち運ぶ際荷物になりづらいです。やっぱり大きいと場所も取りますからね。すごいなあ、わたしもこんな小さな瓶詰作ってみたいな。……そう考えると、灯りの瓶詰って――無限の可能性があると思いませんか!?」
「…………ん? もういいか?」
話が止まらなくなったシスティナだったが、ディグは聞いていなかったようだ。木箱から素材を取り出して、作業台に並べている。
「いえ、いいですけど……」
システィナも自分がしゃべりすぎてしまうのは自覚しているので、聞いてもらえなかったのは寂しいが仕方がないと頭を切り替える。
「この素材で、灯りの瓶詰を作る」
「え?」
ディグが提示した灯りの瓶詰の素材は、いつもシスティナが使っている半量だった。
「これで作れるんですか……?」
「なんだ、作れないのか?」
「作ります!」
挑戦的なディグの言葉に、システィナは声を張る。大好きな瓶詰作りで、できないなんて言いたくないからだ。
システィナが素材を手に取って、どのように瓶詰を作れば小さく強い光量の灯りの瓶詰を作れるのだろうと考えていく。すると、ティグも素材に手を伸ばした。
(もしかして、作ってるところを見せてくれるのかな?)
そわりとシスティナの胸が心躍る。
ティグは初めに、空の鉱石にマナを込めているようだった。それが終わると、他の素材にもマナを込めていく。ここまではシスティナがいつもしている作業と同じだ。
あとは瓶詰釜に入れてかき混ぜればできあがりなのだけれど、ディグはさらにもう一度、空の鉱石にマナを込めている。
(……そうか! わたしはいつも一回しかマナを込めてないけど、二回以上マナを込めても大丈夫なんだ!)
盲点だったと、システィナは目を瞬かせた。
(それなら、マナを三回、四回、五回……って、たくさん込めたらどうなるんだろう? もっと光量が増えるかな? それに、瓶詰のサイズを小さくしても十分な明るさになるはず!)
普段は家の中で使う灯りの瓶詰だけれど、もしかしたら街や村のシンボルの明かりにだってなるかもしれない。
灯りの瓶詰の可能性が、どんどん広がっていく。
(どうしよう、すぐにやってみたい!)
システィナはディグが作る工程から思ったことを試すべく、夢中で空の鉱石にマナを込め始めるのだった。
まっさきに取り掛かったのは、元の瓶の形をいろいろ変えてみることだ。なかでも、システィナ史上初の小ささで作った瓶詰は手のひらで握れるくらいの大きさになった。これはシスティナ史上初の小さな瓶詰だ。
「こんな小さい瓶詰も作れるなんて、大発見過ぎる。マナを何回も込められるからこそできる技だよね……すごい……。とりあえず、小さい瓶だから……限界までマナを込めておいた方がいいかな? 少ない回数で試して光量が足りなくなるよりはいいだろうし」
そんなことを考えながら小さな灯りの瓶詰を作って、その後は違うサイズの灯りの瓶詰に取り掛かる。小さい瓶詰はポケットに入れても全然気にならない大きさだったのが面白くて、とりあえずエプロンのポケットへ入れておくことにした。
「んふふ~、ディグ様がたくさんつけてる瓶詰が羨ましかったから、真似できたみたいでちょっと嬉しいな」
目指せ、瓶詰いっぱい持ってる人間だ! なんて口元をにやけさせながら、システィナはさらに瓶詰作りに没頭していった。




