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嘘吐き少年の異世界妖怪道~異世界に来た折、出逢ったのは妖麗な狐だった~  作者: 天空宮
第四章「月光に照らされた陰鬱な館」
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36話 邪と妖(1)

 屋敷の左館の屋根は平坦な屋上になっており、涼やかな風が吹いていた。屋敷で遮られていただろう風が上では遮るものがないのだろう。月明かりの調子がいいようだ。既にいた二人の姿を明るく照らし、まやかしをも見抜けてしまいそうである。

 俺達が来て、戦闘を一時中断したらしい。二人共息が上がっているが、距離を取ってこちらに注目している。

 やはり俺の予想は間違っていなかった。一人は狐。それも茶色の毛で褐色肌の黒パイデカねーちゃんといったところ。

 気の強そうな顔のパーツをしている。釣り目は狐お馴染みだろうが、俺を見て笑ってみせる表情がそう思わせる。

 にしても恰好が目に毒だ。奴隷と同じくらいの布しかない。おそらく拘束された際に粗方脱がされたのだろう、と妄想すると変態みたいなので以下略。

 もう一人、ずっと俺のセンサーが警笛あげてる強い奴。人相はドラキュラ伯爵といったところか。上半身は筋肉によって服がボロボロだが、名残くらいは見て取れる。

 妖力だけならスミレやビオラを上回るだろう。恐ろしいほどの威圧感だ。

 俺は、ハクの背中から降りて二人へと歩み寄る。


「お姉様じゃねえのかい。てめえ、誰だ?」


 俺の妖気感じてゼラと勘違いしたか。


「期待してたのはゼラの方らしいな。あいつは茶でも飲みながらゆっくり来るさ。

 お前、レンゲだろ? ゼラから話は聞いてる。なかなかのお茶目狐らしいじゃんか。ドライアドを守ってたのは勇ましいが、一人でここに攻め込もうとするなんてゼラの奴怒ってたぞ」

「ゼラ? 愛称呼びとは馴れ馴れしい人間だ……。だが……それは後で素直に受け取るさ」


 ゼラのことは理解しているようだな。なら、大丈夫だな。こいつはレンゲで間違いない。

 ここにレンゲをレンゲと証明できる奴がいなかったから不安だったが、このくらいでいいだろう。


「下にいる水野……人間と契約したのか」

「まあな。外に出るのに止む無しだったが、案外いい落としもんだったかもな……」


 じゃあどっかで捕まってたところを助けたのが水野だったってことか。その際に契約して生気と妖気の譲渡をしたって流れか。


「こっちも聞いていいか」

「なんだ?」

「てめえ人間だろ。なぜ人間のてめえがお姉様の妖気を持ってんだ?」


 胡乱うろんな眼差しを向けられる。

 ううむ……レンゲからしたらまだ信用ならないって感じか。無理もない。俺が信用におけるかどうか判断できる奴なんてそうそういないからな。嘘吐きだし……。

 本当のことを言ってもいいんだが、ゼラが封印されていたなんて信じるかどうか。あいつが言うには、レンゲは思い込みの激しい奴で、ゼラがこの世で一番気高く強く美しいと思っているらしいし。


「このお方は九尾様の夫となるお方です。降魔赤人にあらせられます」


 ハクは人間の姿に戻っていた。

 慎ましやかにしているが、レンゲが警戒していると踏んでこいつも警戒を露わにしているようだ。俺の従者らしい振る舞いだが、ここでハクを前に出すのは本意じゃない。

 俺は、ハクをレンゲとの間に入るのをやめさせた。


「夫ねえ……まあ信じないつもりはないぜ。下に見た顔もあったしな」


 そうは見えないが、まだ怪訝けげんな思いがあるようだ。半信半疑というところだろう。

 『見た顔』というのは、スミレとビオラのことか。あいつらのどちらかを連れてくればよかったな。乗ってたからハクにしただけで、別に二人のどちらかでもよかった。

 まあでも、師匠に俺の成長を見せるのは時期尚早だからな。特にスミレは連れてきたくなかった。


「怪我人は下がっていなよ。俺があいつのその……お、夫とかなんとか、を信じるかどうかはおいておいて……ゼラの友人をこれ以上戦わせられないからな」


 ハク! 人前で夫とか言うのやめろよな……自分の口で言って恥ずかしくなるだろ!


「ふん、脆弱ぜいじゃくだな。しかし、あのチビカスよりは肝がすわっているみたいじゃねえか」


 水野のことね。やっぱりあいつ、普段は前と変わらないのか。


「要件は済んだか、人間の子供ガキ。何用でこの場に足を踏み入れたのかは計り知れないが、これ以上長居するのはおすすめできんぞ」


 容姿は二十代前半の好青年にしているはずだが、あの様子だとバレているみたいだな。

 意味が無いなら妖力の無駄だし外すか。

 術を解き、俺は容姿を元に戻してフードも外した。


「待っててもらって悪いな。挨拶は済んだよ」

「その様子だと考えは変わらんといったところか、命知らずな。貴様が私の相手をすると聞こえたが、聞き間違いか? 貴様のような人間が妖怪であり、伯爵でもある私にどう勝とうというのか。それとも、ただ命を捨てに来たのかな」

「いや、勝つよ。なんのために来たと思ってんだ。俺はゼラの友達助けに来てるんだからな。

 どうせあんたは簡単に許してくれないから、戦うんだ。でももし、戦わないで解決する方法があるなら、戦わない。俺は、本当はその方がいいと思ってるしな」

「馬鹿げたことを……。人間という矮小な種族が我々妖怪を相手に出来ると本気で思っているのか!?

 まだ三人で……いや、下にいる妖怪達を含めて全員を差し向けた方が賢いと思うがね」

「だあから言ってるだろ。お前の相手は俺なんだよ! あんまり言いたくないけど、俺だって相手になるとは思ってないよ。だけどさ、自分が今、どれだけの強さかって知りたいじゃん」

「命知らずにも程がある……後悔しても知らんぞ……!!」

「後悔? まあ……するかもしれないな。俺だって相手が妖怪でも、殺すのは気が引けるし」

「なに!?」

「もしかして勘違いしてるなら訂正するよ。相手にならないって思ってるのは、俺に”あんた”がだ!!

 ――【黒衣武装こくいぶそうまだら】!!!」


 右腕から全身に素早く妖力を展開する。黒い斑点模様が右腕から全身に現れていく。

 右脚で踏み込み、一気に距離を詰めた。

 ドラキュラは警戒して踏み留まったが、俺もそれを読んで突撃は避ける。裏を取ろうと一定の距離を保って旋回した。


「妖気が跳ね上がった!!? 速い……それにこの妖力、明らかに質が別格!!」


 まあ質はゼラ譲りだからな。他の妖怪からも妖力は得ているし、そこだけは負けるつもりはない。

 ――よし、妖力が体全身に回った……いける!!

 左足を前に出し、つま先をドラキュラへと向ける。右脚は敵へと進むために出した。

 母指球を意識し、走るというより、跳ぶ。

 背中に帯刀している――妖刀・雨堵さめがきを抜刀する。

 刀が抜けると同時にドラキュラと目が合った。吃驚する眼に俺は妖怪として映っている。

 袈裟斬けさぎりの軌道を描いて刀を振るう。

 ドラキュラは、マントを盾のようにして出した。

 衝突すると、同じ金属のような音と火花が散る。ただのマントではないのか、妖術か、ヒラヒラの衣類が鉄のように硬い。

 勢い勝って突き飛ばしたが、ダメージはゼロだろう。


「へえ……? 助けるなんざ抜かすくらいはあるじゃねえか、お姉様の夫様よお。妖力の使い方が子慣れてやがる」

「当然です!」

「変な名前付けんなよ……」


 人が戦ってんのに呑気なこと言うなよな。そこら辺妖怪だな。

 しかしこのドラキュラ……。今ので仕留めるつもりだったけど、やっぱり今迄こっちで生きてこれた妖怪だ。ただ妖力が高いだけじゃないな、奇襲でも対応しやがった。


「追撃は無しか?」

「俺はお前のこと知らないからな……下手に手を出さないってだけだ」


 奇襲した時に攻撃が防がれたら追撃はしない。そりゃケースバイケースだろうけど、お前は明らかに余裕だからな。


「フン、つまらないやつだ。私を殺すと抜かした癖に弱腰な人間め!

 ならば、今度は私の番だ。ヴァンパイアの力の前に跪かせてやる!!

 【不気味な夜会ナイト・バッズ】!!」


 意気揚々とマントを羽根のように広げると、そのマントの下から黒いコウモリが数え切れないほど出てきた。

 まるで魔法の連射撃のように俺へ向けて飛んでくる。

 クソ厄介……!

 俺は回避すべく移動するが、コウモリはただの魔法と違って生き物だ。追跡してくる。


「フハハハハ!!! そのコウモリは貴様の血を欲している。食わせてやれ!」

「面倒だな……でも、やるか。これまだ好きじゃないんだけど」


 俺は、コウモリ達に向かい合うようにしてブレーキをかける。そして、全身に巡らせた妖力を右腕に集束していった。

 コウモリが俺の血を渇望して突進してくる。小さな口に映る溢れんばかりの涎が食欲を表していた。


「【黒衣武装・しょう】!!」


 右腕による高速での剣戟けんげき。次々と向かってくるコウモリを一体と逃さずに斬り捨てる。

 右腕に集中して妖力を放流することで、しなやかな筋肉を模倣し洗練された剣戟を可能とする。妖力さえあればイメージ通りの動きが出来る。これくらい難しくはない。

 最後尾のコウモリ達は慄いて引き返していった。命令や食欲よりもまず自らの命を優先する彼等の本能は生物じみていた。

 しかし、俺を狙いドラキュラのいいなりである者達を逃がすと後々厄介になる。


「逃がすかよ!」


 最後に雨堵の斬撃で残ったコウモリを消滅させる。


「人間が……私の手を煩わせようというのか……!!」


 不機嫌になったみたいだな。顔に皺ができてる。

 この際更にイラつかせて隙を作ってもらおうか。


「こんなんでよく妖怪全員かかってこいとか言えたもんだな。この程度ならスミレにやらせたら一瞬だっただろう。相手が俺で良かったなあ、コウモリ飼育委員さん?」

「な、なん……だと!? ふ、ふふふ……フハハハハ! この程度お遊びに過ぎんのだよ。勘違いしてもらっては困る……!!」

「その割には表情がぎこちないぞ。相当余裕がなくなったみたいだな!」

「き、貴様……よもや私を愚弄するとは嘆かわしい……!!」


 表情がどうなってるかなんて鏡でも見ないと気づかないだろ。嘘もイラつかせるのには大活躍だ。

 俺は嘲笑を浮かべ、更にドラキュラの焦燥を煽った。


「言わせておけば……人間の分際で、私を……私の前で笑うなあ!!!」


 妖気が増した……!

 妖気が圧になって風に影響出してる。あいつから風が出てるようなもんだ、容易に近づけそうにない。

 やっべ……言いすぎたかね。いや、こいつの沸点が低いだけだな。プライドが高いと怒らせるのも簡単だ。

 ドラキュラは、全身に力を入れ始める。筋肉が震え、血管が浮き出ていた。

 やがて体毛が生えたかと思うと、マントがコウモリの羽となる。衣類を引き裂き、巨大なコウモリへと姿を変えた。

 体長は二メートルほどだろうが、正直それよりも大きく見える。


「なんだそれ!!?」

「気色悪いな……」

「れ、レッドさん頑張ってください! こっちに近づかせないように……」

「おいハク今なんつった! 主人が戦ってるんだから私情は出さなくていいんだよ! 素直に応援しろ!」

「うぅぅ……だってあんなコウモリ、ただのコウモリじゃないですか!」


 なにしおらしくしてんだ。たく、ハクは後でお仕置だな。


「会話とは余裕がある。いちいち癪に障る人間のガキだ」

「まあな。別に姿変えたところで怖くもなんともないからな。結局はコウモリだろ、コウモリ飼育委員がコウモリ好きすぎて着ぐるみを着だしただけじゃねえか」

「ならば貴様に恐怖というものを教えてやる。この私の前こそ地獄よりも恐ろしい幽世かくりよそのものだということをな!!」


 ――来る!!

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