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嘘吐き少年の異世界妖怪道~異世界に来た折、出逢ったのは妖麗な狐だった~  作者: 天空宮
第四章「月光に照らされた陰鬱な館」
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35話 二つ目の妖怪道(7)

 ――終わった。

 水野がそう悟って抵抗する力を抜きながら倒れる刹那。

 水野の体が気絶して再び倒れる一瞬、この場にもう一体の妖怪が現れる。

 この気配に驚いたのは、妖気を感じ取ることのできるレンゲを含めた妖怪達のみであった。それが現れたのは、子供達がいる正門近くの屋敷の庭。それも丁度水野が居る場所だった。

 どこからか移動してきたのではなく、まるで瞬間移動ワープしたかのように突如として妖怪の気配が増えたのである。


「だ、誰だ……!?」

「ああ……そういうことか」


 納得したのはほくそ笑むレンゲのみだった。

 その気配は、水野藁――その者によるものであった。

 足を折られ、気絶し、戦闘不能となったはずの人間。しかし、その人間は人間としての生気ではなく、妖怪としての妖気を纏って立ち上がっていたのだ。

 メデューサは、突然亡霊のように力なく立ち上がってきた人間みずのおののいた。その髪に生きる何匹もの蛇達も同様に身をすくませている。

 瞳に光はなく、まるで夢遊病でも引き起こしているかのような状態。俯いているかと思えば、折れた足が独りでに元の向きに戻った。


「お前、どうして……妖怪だったのかい!?」


 吃驚するメデューサに対し、水野は反応を示さない。代わりになにかぶつぶつと独り言を言っているようだった。小さすぎて誰の耳にも届いていないが、翻訳をするようにレンゲが立ち上がる。


「僕ちゃんのスキルは《覚醒者めざめるもの》。眠り、気絶などといった意識を発った時に発動し、もう一つの人格に変わるのよ、うふん。どう、すごいでしょ」

「な、なんだその棒読み口調は……ふざけているのか」

「あいつが言ってんのさ。だあが、そういうことか……生気が二人分あったのもこれで合点がいった。あいつが面白いのは、さっきまでまるで感じられなかったオレの妖気を、普段使っているかのように使いこなしていることにある。

 おい、見せてみろチビカス――てめえの本当の力ってやつをよ!! オレの期待を裏切ったら承知しねえかんな」


 不気味に笑うレンゲに応じるかのように凛とした眼差しを動かした。

 次の瞬間、メデューサが顔面から殴り飛ばされる。


 ――な……今、何が起こった……!!? 妖力の籠った攻撃、痛い!?

 メデューサは、体勢を立て直しながら距離を取る。

 口元を拭い、鼻が折れている事に気付いた。今の一撃で顔面の骨が変わっていた。鼻が曲がり、口からも血が出ている。


「な、ななな……わ、わたしのこの綺麗な顔になんてことを……!」

「ファイア」


 魔法の詠唱が聞こえて咄嗟に避ける。

 メデューサの顔の横を丁度炎の玉が横切って行く。

 寒気が彼女の全身を包み込んでいく。

 メデューサの顔を見れば、一瞬のうちに体が石と化してしまう。その為、視界を遮らなくてはいけないので相手の位置を把握することが難しい。

 しかしだ、水野はメデューサの顔を寸分違わず狙ってみせた。

 う、嘘……この子見えているというの!? あれ、でも……おかしい。この子確かほとんど無能で、魔法なんてからっきし使えないはずじゃ……。だから、連れているのもおかしいって思ったはず。一体、この子に何が起きているの……!?


「ウィンドウカッター」

「――え!?」


 再び魔法が飛ぶ。

 水野の手に現れる風の刃が投げられ、メデューサは回避を強いられる。

 先程の炎との緩急が大きく、素早い刃に体を仰け反らせるもメデューサの後ろ髪の蛇が三匹斬られた。

 斬られた蛇は、ひらりと空中で舞うと元通りの細い黒髪に戻る。


 こ、今度は風魔法ですって……!!

 まずい……このままじゃ距離を離されて逃げられてしまう。

 あの子、さっきとはまるで別人だわ。半分瞼を開けて距離を測ってる。そこからは目測のはずなのに、全く外れない。賢くなったどころか、強く力の使い方が上手い!


「準備運動はこのくらいだメデューサ……」

「な、なにを言っているのかしら。まさかその状態でわたしに勝つつもりじゃ――」

「もう戦い方が慣れた」


 妖気が鋭くなるのを感じる。

 それに危険信号をあげて離れようとするも、一瞬のうちに距離が詰まる。低い姿勢で開いた体の下へと潜り込む。それを涼やかな顔で熟す水野にメデューサは怯えていた。

 懐に忍ばせるように握られた拳。それが目が向いていないはずの自分の頭より上にある顎へと目掛けて突き出される。


「っ――舐めるなァア!!!」


 背中の方から出てきた蛇の大きな尻尾が水野の腹部を捕らえる。

 咄嗟に身を引いて直撃は避けられたが、大振りのせいで大きく距離が離される。

 それでも水野は体操選手並みの運動能力で空中を回転し、体勢を元に戻した。

 水野は追撃を警戒していたが、メデューサは今迄とは比にならない速度で移動していた。

 人間の姿から下半身だけ蛇となり、蛇行しながら移動している。その素早さたるや、まるで獲物を狩る蛇そのものである。

 メデューサが標的としていたのは、水野ではなかった。別の方向へ一心腐乱に進んでいる。

 移動方向を見るとそこには気絶した梶ヶ谷がいた。


「くっ――」

「あははははは!! 強くなったのは認めてあげるわお子ちゃまくん。だけど、お前達の弱点に変わりはないのよ!」


 メデューサは、徐々に上半身も蛇と化し、ただの手のある大きな白蛇となった。

 月光に鱗が反射し、髪のように頭から小さい白蛇が生えている。口からは舌が音を立てて出し戻しされていた。

 蛇は、鋭い牙を携え、口を大きく開けて梶ヶ谷を銜えようとしていた。

 蛇の毒で交渉を企てていたのだろう。しかし、梶ヶ谷の体は目の前で何者かに連れ去られる。


「な……!? イィ……今度は誰だッ!!! っ――!!?」


 いつの間にか水野の脚も止まっていた。まるで目路に入るその者に深いるするつもりがないようだった。

 月夜に映える美しい純白の毛並みに覆われた獣が庭を歩いていた。

 その獣の背中に乗る青年に梶ヶ谷は抱かれていた。

 彼は、光も打ち消すかのような漆黒の装束を身に纏い、背中に太刀を背負っている。身を隠す為か、深くフードを被りハイネックで目元しか見えないようになっていた。





 あの妖気を纏った男……水野、か。

 苗字までは思い出せるが、名前の方は忘れてしまった。影の薄い奴だったはずだが、なんというか雰囲気が全くの別人だ。どちらかというと俺と同じ非リア充で、あまり友達がいる感じがしなかった。魔物相手にたじろぐ姿は連想できるが、ああして敵の前で堂々としている姿は想像できない。一体何があったんだ……。

 ――しかし、まあ酷い。

 あの蛇――メデューサのせいだろうが、死体と同じような状態……石となった連中がそこら辺に見える。たぶん屋敷の片側にももっといるんだろう少しだけ石となった足が光の下に出ている。

 残っているのはあと五人ってところか。武蔵野はあっちのフランケンと対峙中か。三人掛かりでも無理がある。当然だ、妖怪は妖力の持たない人間には相手できない。助けが必要だ。


「ビオラ、あっちの加勢に行ってやれ」

「はっ!」


 俺が乗る白狐の下にある影よりビオラが頭から出てくる。

 全身に刀を武装した戦闘装束。まだビオラとはそれほど戦ったことはないが、スミレの姉妹だ。あのくらい片手間だろう。

 それよりも厄介そうなのは――屋上だな……。

 既に誰かと戦っているらしいが、他とは違って妖力の桁が違う。ここのボスはあいつだろう。

 もう一人は、おそらくゼラの言っていたレンゲ。ここに捕まっているのはわかっていたが、今はそうじゃないみたいだな。協力者を作って外に出たってところか。聞いていたのとは違って案外賢いのか?

 ああ……この妖気、似ていると思ったら水野のと同じじゃんか。契約したのか。漸く合点がいった。

 レンゲと契約した水野に妖気が宿った。だからあいつだけメデューサに対する力を持っているわけだ。


「――は、白馬の王子……様?」


 梶ヶ谷が目覚めたらしい。下を見ると、輝かせた眼差しを向けられていた。

 白馬の王子……今乗っているのは白い狐なんだが。

 まあこいつらがいるのはわかっていたから顔などの人相は変化の術で変えてある。俺だとわからないから別に顔を隠さなくていいんだが、今後とも使うことを思えば隠しておいて損はない。

 白馬の王子という言葉はロマンチック過ぎるが、ここは適当に繕させてもらおう。


「無事か。服がかなり汚れているが……」


 体を気遣ってそう言うと、夢を見ているかのような表情かおで「はい」とだけ小さく返事があった。

 俺がパジャマ姿の梶ヶおまえをお姫様抱っこしたなんて後で知られたら殺されるだろうな……。この事実はあの世まで持って行くしかなさそうだ。

 失笑していると、梶ヶ谷に首の後ろに腕を回される。

 どうしたのかとハッとしている内にハイネックをずらされ、唇を奪われた。


「むっ……!!?」

「ちょ、レッドさん!!?」


 狐となっているハクは目がいいのか、背中で起きている事に気付いたらしい。

 咄嗟のことで意味がわからなかったが、唇が離れると満足したようにして梶ヶ谷は再び夢の世界に帰って行った。


「ななな、なんですかその人! いきなりせ、接吻だなんて色々とぶっ飛んでますよ!!」

「わ、わかってる……わかってるからそれ以上言うな……」


 あの世へ持って行く秘密が増えてしまった……。これ知られたら殺されるだけじゃ絶対すまない。社会的に殺されるのがマシくらいな目に遭わされそうだ……。


「お姫様ごっこかい人間と妖怪。

 変な組み合わせで驚いたが、お前からも妖気を感じる。ここに半妖が二人もいるなんてねえ……」


 ああ、忘れてた。まだいたのかメデューサ。

 警戒して手は出してこなかったようだが、こちらも隙を与えなかった。なによりも警戒したのは、影から妖怪を出したからだろう。

 スミレとビオラは【影潜り】が使えるから、ハクの影に入って貰っている。なにかしてこようとスミレが対応できた。


「気を付けてください。顔を見たら石になってしまいます」

「わかってる、何回も聞いたっての」


 つっても、見るんだけどね。


「な……お前、今わたしを見ているな。何故石にならない!?」

「俺にはお前の石にする効果は効かないんだよ。視界がなくても殺せる蛇はただの魔物と同じだな。

 にしても醜いな。もしかしてお前、その醜い顔を見られたくなくて、顔を見た奴を石にする呪いをかけたのか? 俺には理解できないが、俺ならそんな事しないで醜い顔と共存できる方法を探すけど……生憎お前にはそんな勇気もないみたいだな。さっきもそいつにやられそうになって哀れにも人質とろうとしたんだもんな。顔だけでなく、行動まで醜いとは救いようがない」

「な、なにぉお…………人間の癖に言わせておけば!!」

「人間だよ。――人間だから、嘘をつく」


 俺は、実際にはメデューサの顔を見ていない。醜いとかは憶測というよりも、適当言っているだけだ。

 見ているように見えるのは、変化の術でそう見せているだけ。この顔も変化の術で変えているから、表情も変えられる。目を開けているかどうかも自由自在だ。

 ――案の定、挑発に乗ってきやがった。


「出番だぞ、スミレ」


 瞬く間にハクの影から出てきたスミレが一閃を描く。

 蛇から出る音が消えて、ドサリとなにかが倒れる音がした。目を開くと、メデューサの首から下が目の前で横たわっていた。

 視線をスミレに移動させると、胸に返り血を浴びていた。右手にはメデューサの頭を持っている。蛇の髪を鷲掴みにしてジャングルの先住民のような精悍せいかんさがにじみ出ている。


「いるか」

「いるわけないだろ……」


 乱雑に掲げてくる玉首に嗚咽感を感じ、飲み込みながら答えた。


「その娘……」


 梶ヶ谷が気になるらしい。目に光が帯びたかと思えば、刀を掲げて言う。


「そいつの首も出せ、落としてやろう」

「なんでだよ!?」

「なんだ、接吻をしたのだろう。証拠を残せば逆鱗げきりんに触れるぞ」

「だからって首を落とそうとするな! どこの処刑人だお前は!」

「レッドさん! スミレさんの方が正しいです。その淫猥いんわいな女は処刑されるべきです!」


 こいつら、相手が人間だからってなんでも言っていいみたいに……。


「あのなあ……さっきのはこいつも夢を見てたみたいなもんだし、不可抗力だ。ゼラも許してくれるだろ」

「本当か?」

「た、たぶん……(自信は無し)。ま、まあでも、自分からバラすことはないよな……」

「安心しろ。ここに来た時点で伝えてやる」

「お願いだからやめてくださいスミレ様! 妖怪の冗談はきつすぎますって!」


 うわあ細い目で見てくる……やだこのゼラ主義の従者ちゃん。

 やばくなったらなんとか誤魔化そう。一瞬くらいなら俺の嘘でなんとかできるだろう。その後は……お縄に就くしかないが…………。


「アカヒト様」


 ビオラが帰ってきた。あっちも済んだようで、フランケンのデカい図体が正門前に倒れている。

 今のスミレより話を聞いてくれそうなビオラに任せるか。


「ビオラ、かじが――この子をあそこにいる人間達に渡して来てくれ。きっと心配しているはずだ」

「…………殺さなくていいのですか?」


 梶ヶ谷を下ろして渡すと、ビオラは首を傾げて悪気無く訊いてくる。


「いや、もういいって……。

 スミレとビオラには怪我人の手当を頼む。メデューサに石にされていた奴等も元に戻っているはずだ」


 水野は…………いつの間にか倒れてる。メデューサを倒してから気配が消えたと思ったら気絶してたのか。

 少し気になりはするけど、そこはあっちの狐に任せるか。


「あっちに行くつもりか」


 スミレは、『あっち』というのは屋上のことだと視線で語る。

 当然そうだが、なにかあるのかと深読みして答えなかった。


「……そういうのを我々に命じればよいのだ」


 溜息まじりに言われたが、命令を変えるつもりはない。しかし、心配して言ってくれているのはわかるから相好を崩してしまった。


「くれぐれも殺すなよ。

 ハク、屋上に行ってくれ」


 ハクは頷き、大きな体を動かして屋上までひとっ跳びした。

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