死神日記2
短く書くのにゃ。
無駄と悟った俺は激変した地上を後にして、天井に戻ることにした。
「よ、人いないだろ」
聖堂にも似た場所で、俺の隣に偶々いた死神はまるで空気のように口を動かした。彼にもまた名はない。感情も無い。自分と同じような古びた黒装束を装備しているだけである。
「これから何する?」
俺たちは何も無い。此処にはいない。
「幾ら地上から人が拭い去られたからって、どうって事はないだろう。何時かひょっこりと出てくる筈さ。そのときまで俺は少し寝るわ」
言っていることは妥当だった。彼と同じように周りを見渡せば同じように、同胞は地上で見たような産物のように静まり返っていた。彼等の寝顔はまるで路上に転がる石のようで、そのまま動かないようにも見えた。
俺はその中を暫くの間進んでいったが、誰一人起きているものはいなかった。まるで何時の日か見た地上の戦争の後のような有様。
大してやることも無い。俺は無尽蔵に建ててある柱に背を垂らした。
もう数え切れない位の現状を見てきた俺にとってこれは一日の休息みたいなもので、何千の時が経っても俺らには人間のような二十四時間は存在しないが、人間の睡眠と随分似たものだ。ただ二十四時間が過ぎるという概念が、人類滅亡の時間で、人類が進化する過程で発生する時が睡眠時間である。
聖堂は寝息にも似た静寂が広がっている。まるで時間が死んでしまったかのように此処には地上のように”変化”が現れない。其処は聖堂であって、まるで地上の砂漠か宇宙空間にも似た場所で、聖職具や長椅子、様々な彩色がある巨大で優美なステンドグラスがあちらこちらに存在するがそれらでは此処に満ちる静寂と虚無感は消える事がない。
そんな場所で俺は長い眠りつくため、何の躊躇も無く身体の力を抜こうとした。そんなときだ。
「地上には二人だけ人間がいるんだよ」
自分の寄りかかっている柱とは逆の位置に彼は気配無く其処にいた。
色は白。大空に浮かぶ雲のような白い装束を纏っていて、片方の腕には身長の何倍もある透紫の太刀を携えている。
「お前は?」
死神は決して微笑をしたりと感情的な行動が無いが、彼はまるで人間のように微笑し、くすくすと囁いていた。
白い服装を着ている死神なんて、人が生きている時間から存在する俺でもいたことが無い。死神の羽織る黒い服装は存在を示しているような物であって、それは体の一部であり、解除することは出来ないように作られている。彼は一体何者なのだろうか?
「私もあなたの様に名前は有りません」
女にも男の声にも捉えられる声色を持つそれは、一息溜めて再度口を動かす。
「最終戦争。人を壊すための兵器。それが私です」
物騒な事をニコニコと微笑しながら最終戦争という名称の白い彼は言い残し、柱に背を掛けた。
「地上に未だ人がいるのか」
死神特有の癖か、それとも死神として逃げられぬという性なのか、彼の身元よりそちらの方に自身の意思はいっていた。
「ええ。その事を此処に伝えるために神からの命令で此処に来ました、私の役目は人類を滅亡させる事、たかが二人の人間、死神に頼んだほうが効率がいいと思い此方に赴いたのですが、ほぼ全ての死神が眠りについていた所、あなたがいたという次第です」
彼の話す事の顛末は知らないが、とにかく神への伝令が此方に来ているのならば、神の端末である俺は動かなくてはならない。動き、直ちに人を見つけ観察しその魂を刈らなければいけない。
全てを話終えた彼は蛇口に付いた滴が地面に消えてゆくように、彼はその場から消滅していた。
それを見て暫くして俺は無心で聖堂から消えた。




