悪夢
タロットカードの死神は何かの終わりを表す啓示で、死というワードと必ず直結するものではないという説明をムツキが改めて行う。
「と言っても、なかなかめずらしいんじゃない?」
「そうですね、偶然だとしても結構低い確率かもしれません」
そう言いながら、タロットカードを片付けようとするムツキ。
「あれ? ムツキは占わないの?」
「えっと、私は自分を占わないことにしているんです」
「どして?」
「何となくですが、占いってカードの意味を解釈して、相手に説明するんですね。言ってしまえば、同じカードの内容でも、伝える内容は結構違ったりするんです。で、自分を占おうとすると、どうしても自分の望むように解釈してしまう気がして」
「つまり、あまり意味がない?」
「そういう事になりますね」
そう言いながらムツキがタロットカードを鞄の中にしまう。
「それにしても、占いが出来るなんてかっこいいねぇ。タロット以外にも占いに詳しかったりするん?」
「どうでしょうか、あまり自信はありませんが」
「夢占いってあるやん?」
「夢……ですか?」
「そう。私初等部に友達がいるっちゅうか、みんな小さい時から一緒やから自然と仲良くなってるんやけどね。なんか今年外部から来た初等部の一年生が、繰り返し怖い夢を見るんやって。しかも家で寝ている時だけじゃなくて、学校でお昼寝したときも見ちゃったらしいんよ。それで本人は『もう伊良原やだ、帰りたい』って言ってるんやとか」
「怖い夢で、どうして伊良原がやだってなるの?」
「や、それがさ。伊良原に来てしばらくしてから怖い夢を見るようになったらしいんよね……」
「……確かに、繰り返し同じ夢を見るというのは、示唆的ですね」
「示唆的って何やっけ?」
「何か意味がありそう、ってことだよね」
「そうですね」
「で、ムツキなら何か分かるんやないかって、今思ったんやけど」
「確かに夢占いという占いはあります。見た夢の内容で今後のことを占うんですが、噛じった程度なのでその子が見た夢がどんな意味があるのか私に分かるかわかりませんが……。どんな夢を見たのかわかりますか?」
「えっとね。確か……、神社で女の子が泣いていて、声をかけようとすると金縛りに合うんよ。んで、誰かに後ろから押し倒されて。そしたら今度は背中の辺りにズンって何かが乗ってくるのを感じるらしくって、そのまま少しずつ重くなっていって最後は重みに耐えられなくなって肋骨が……ってところで目が覚めるって言ってたかな」
神社、泣いている女の子、金縛り、そして――。
あの日、入学式の前日だったか。私が見た夢とそっくりだと思った。普通、と言っても私の場合だけど、夢は数時間もすれば忘れてしまい、どんな夢だったかわからなくなる。でも不思議とあの夢は覚えていた。妙にリアルな感触、音、振動、痛み、味や触覚までが忘れようとしても忘れられない何かがあった。
「……二人とも、どうかしたん?」
――二人?
横を見れば、ムツキも何だか、目を見開くような、そんな顔をしていた。
「ご、ごめんなさい。なんでもありません」
「う、うん」
「ムツキ。この夢の内容だと、どんな占いになるか分かる?」
少しだけ、考え込む風のムツキ。
「まず、繰り返し見る夢ですが、これは心の中にある何かが夢で形になったものと言われています。そして、夢の中に出てくる神社は『救済』や『神聖的な何か』を。境内はいわゆる神域のことですので『非日常』を表します。泣いている女の子は『助けを求める存在』がどこかに居るというような意味でしょうか。金縛りや圧迫感は『ストレス』や『プレッシャー』、骨折は何かが『壊れる』ことを表していると思いますが……」
「えーと。まとめると、『救いを求める誰か』がいて、『何かが壊れる』って感じ?」
「そうですね。そんなところでしょうか。でもまぁ、所詮は占いなので」
「これまでと全然違う生活になれんで、それが夢にでてきとんかなぁ。にしてもムツキすごい。夢占いに詳しくない、とか言いよったけど、めっちゃ詳しいやん」
「……実は、ちょっと前に同じ夢のことを調べたんです」
「同じ夢?」
「私が変なことを言っても、変な子だと思いませんか?」
「思わんよ」
「うん」
「つまり、その……。その子がみた夢とほぼ同じ夢を……、私も見たんです」
「ムツキも?」
思わず声がでた。
「も?」
2人の視線がこちらに向く。
「あ……と。私も、よく似た夢を見たの。ただ、最後のシーンは違ったけど……。私は頭の両側から手のひらで『ぐっ』って力を込められたような感覚があって、段々力が強くなって。最後は頭蓋骨が割れる音がして目が覚めた」
「私は息ができなくなってすぐ、誰かに頭をつかまれて頭を右に倒されるんです。すこしずつ首が傾いていって、やがてこれ以上曲がらない、そう思う限界まで来てるのに力は止まらなくて。もうこれ以上は無理ってなった時、ゴキって音がして……」
「普通、夢って数時間もすれば忘れるけど、何でかあの夢だけはよく覚えてるんだよね」
「わかります。忘れようと思っても、不思議とリアルな感触が残っている、そんな感じです」
「そう、そんな感じ」
私とムツキが同じ夢を見ている。ということは、マイはどうなんだろう。自然と二人の視線がマイに集まる。
「う、うちは見てないよ」
「見てないんだ」
「でもそうなっと、夢を見たんは外から来た子ばっかりやね」
「確かに、そうですね」
「慣れない生活環境でストレスが溜まったり?」
「二人はどうなん?」
「私はもう慣れたよ」
「そうですね、さすがに引っ越してきて数日は少し緊張しましたが……」
「ってことは、どうなるん?」
「うーん」
「……実はすこし、『繰り返し見る夢』について調べたときに出てきた検索結果で、気になっていることがあるんです」
「気になっていること?」
「繰り返し見る怖い夢って、占い以外ではどんな意味があるんだろうって調べてみたんですが……」
「うん」
「心理学、脳科学的には繰り返し見る夢というのは『無意識の警戒』や『未解決のメッセージ』ではないかと言われるようなんですけど」
「あー。つまり、あまり意識してなくても視界の端に映った何かが危ないなーって頭が勝手に思ったりしてるってことだよね。何となく分かる」
「やね。未解決の方も、何となく分かるよ。やっぱこう、何か解決してないことがあるともやもやするもん」
「ですね。そして、気になっているのはもう一つの方で……。突拍子も無いことを言っているな、と自分でも思うのですが。いわゆる超心理学、オカルトと言ってもいいのかもしれませんが。そういう界隈では『繰り返し見る怖い夢』は近い未来、危険なことが起こるということ警告しているのではないか。と」
「つまり……」
「……予知夢?」
「です」




