出会い
寮を出る前に先生にメッセージを送った。
『マイの容態はわかりますか?』
どう聞けば良いのか分からず、結局、聞きたいことをそのまま打った。送信して、しばらく画面を見つめるが既読はつかない。悪い知らせだったら、と考えかけて、やめた。スマートフォンをポケットに押し込み、自転車にまたがる。学校に付くと既にムツキとアサノ君が校門のところで待っていた。日曜日の校門は、当たり前のように閉まっている。
「おまたせ」
「行きましょうか」
「うん」
二人とも、マイのことは口にしなかった。チャットで誰も触れなかったのは、気遣いなんかじゃなかったのかもしれない。みんな、聞くのが怖いだけなのかもしれない。私と同じように。
昨日通った道が昔の高木神社に向かうには一番近い。けれど、あの沼の横をもう一度通る気にはなれなかった。三人とも同じ考えだったらしく、誰が言い出すでもなく、上流側から回り込んで旧国道へ下りることにした。
場所は、すぐに分かった。今朝の夢で見た景色と、そっくりだったから。
古い石で形作られた境内は夢で見たままで、ひと目見て違うのはお社と鳥居。建屋は更地になっており土台だけが残っている。参道にあった鳥居も壊されたのか移動されたのかわからないが見当たらなかった。
お社を正面に左手に進むと、大きな木が見えてくる。夢でみたままの木だった。近づいて見ると、その大きさがよく分かる3人で手を繋いでもぐるりと囲うことはできないだろう。見上げれば、周囲には大きな木がたくさん生えているせいか、空はあまり見えなかった。
シャン、と澄んだ音が背後で鳴る。
振り向けば、白装束の男の子が立っていた。多分私達と同じくらいの歳だろう。ぼさぼさの髪に頭に六角形の帽子をつけている。胸元には、あのふさふさした飾り。手には、輪っかのたくさんついた杖。
「こんにちは。来てくれてよかった」
初めて、耳元ではなく、目の前から声が聞こえた。
「あ、あの……」
声が裏返りそうになるのを、どうにかこらえる。
「私達、夢にあなたがでてきて、それでここに来たんです」
「うん。うまく行ったみたいでよかった」
「うまく行った、とはどういうことですか?」
ムツキが一歩前に出る。
「僕は夢渡りが下手なんだ」
「夢渡り……?」
「誰かの夢に現れて言葉を残す力、とでも言えばいいだろうか」
アサノ君と目が合った。たぶん、同じことを考えている。大和先生がドリームウォーカーと呼んでいた力。夢に入り込んで、メッセージを残す。まさに、それだった。
「そんなに警戒しないで貰えるとありがたい。君たちに害を加える気なんてないのだから。僕の名前は楢彦、どうぞよろしく」
男の子は、少しだけ困ったように笑った。
楢彦。マイが言っていた名前だ。少し無口な子だった、とマイは言っていたけれど、目の前の彼は思っていたよりよく喋った。
「あ、えっと。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
三人でぎこちなく頭を下げる。顔を上げたとき、聞かなければいけないことが、喉元までせり上がってきていた。
「あの、私達、変な夢に悩まされていて、その原因をずっと探してたんです」
「変な夢?」
「3人とも、伊良原に来てから、神社で泣いている女の子の夢を何度も見るんです。その後、金縛りにあっていろんなところを骨折して死んでしまう夢。あれはあなたが見せた夢なんですか?」
「残念だけど、僕じゃない」
「でもさっき、夢渡りって」
「夢渡りは使える。でも、僕は苦手なんだ。頑張ればできなくもない。けど、繰り返し夢を見せることはできない」
「じゃあ……」
「だけど、誰がその夢を見せているか、僕は知っている」
「え?」
「その前に、僕の用件を話してもいいだろうか」
ムツキとアサノ君を見る。アサノ君が、小さく首を縦に振った。
「僕の用件は、村で何か悪いことが起きてないだろうか、と心配していてね。それを教えてほしい」
「悪いこと?」
「例えば、キュウリや茄子といった作物が枯れてしまったり、山犬が暴れたり、蛇が多いとか、水害にあったとか。そんな不幸な事故が起きていないだろうか」
「……蛇」
昨日の沼が、まぶたの裏に浮かんだ。水面を埋め尽くす茶色い体。マイの悲鳴。腫れ上がった腕。
「心当たりがありそうだね」
楢彦の声が、少しだけ低くなった。
「ぜひ、教えてほしい」




