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谷の祟りと高木の神々  作者: わけあり団子


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病院

 ムツキと2人でマイを運ぶ。私がマイを背負い、ムツキに押してもらう。一番足の速いアサノ君は学校まで走ってもらい、大和先生を呼んで来てもらった。


 毒蛇に噛まれるというのはどれくらい、危険なことなのか私にはわからなかったが、マイの動揺ぶりを見れば相当にやばい状況なのだろうと察しが付いた。


 一生懸命に足を前に出すが、坂道で、しかも階段は無い。焦ってマイを落とすわけにはいかなかった。息をつきながら、坂道を半分ほど上ったところで、正面から大きな足音が2つ聞こえてきた。足元ばかり見ていた顔を上げると、大和先生だった。


「代わりましょう」

 私のすぐ前に屈み、背中を差し出す。


「はぁ、はぁ。はい」

 息の上がった体からマイを降ろし、ムツキと2人で先生の背中に移した。同時に先生から車の鍵を渡される。『汚れているかもしれないから、先に行って車の中を整理しておいてほしい』とのことだった。アサノ君と一緒にフォレスターに向かい鍵を開けると、助手席にも後部座席にも荷物は何も無く、やったことと言えば、すぐにマイを寝かせられるように後部座席を倒したくらいだった。ややあって先生が現れ、倒した後部座席にマイを寝かせた。


「3人とも乗ってください。アサノさんの言う通り噛まれたのがマムシなら、救急車を待っている時間はありません。私の車で病院に運びます」

 言われるがままに車に乗り込み、病院へ向かった。

 

 車の中で、何が起きたのかを説明した。オタマジャクシを見に行こうと沼に行ったこと。沼にたくさんのマムシがいたこと。マイが足をすべらせて沼に転げ込んだこと。マムシに噛まれたこと。事情を話した後は、先生からスマートフォンを手渡され電話を掛けるよう依頼された。言われるがまま、病院とマイの家族、校長先生に連絡をした。マイの家族はすぐに病院に駆けつけるそうだ。


 やがて、病院に到着するころにはマイの腕は大きく腫れ、見ているだけで痛々しかった。意識は無いようだが呼吸は荒く、額には大粒の汗が浮かんでいる。すぐに病院の先生や看護師たちが現れ、手際よくストレッチャーでマイを運んでいった。


 それから30分ほど経って、マイのお母さんが現れ、大和先生が改めて事情を説明した。


 うろたえた様子で何度も「マイ」とつぶやくのが聞こえた。


 ややあって病院の奥の方から病院の先生が出てくるのが見えた。マイの病状を伝えているのだろう。


 ――消毒、7箇所、血清、筋肉障害、血圧低下、壊死、手術。


 いろんな単語が耳から入って来た。


 大和先生に呼ばれ、みんなで伊良原に帰る途中、車の中は静まり返っていた。


 どうしてジルチに行こうというマイを、もっと強く引き止めなかったのか。目的は旧高木神社で、行く必要なんてどこにも無かったのに。


 旧高木神社に行きたいなんて言わなければ……、私達が夢のことを調べようなんて思わなければ……、私が変な夢を見るなんて誰にも言わなければ……。


 考えても仕方の無いことだと頭では分かっていた。


 けれど、マイを呼ぶお母さんの声、うろたえた姿。そして、病院の先生が最後に発した「今日、明日がヤマです」という言葉が、頭から離れなかった。



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