ナラヒコ
あの白装束の男の子は一体何だったんだろう。先生には、明らかに見えていないようだった。先生に話してもいいものか。話したとして信じてもらえるのだろうか。窓の外を流れる村の景色を眺めながら考えているうちに、フォレスターはあっという間に学校に着いてしまった。
ふと、反対車線を見れば、黒い軽自動車が一台停まっている。その後部座席が開き、見慣れたショートヘアの女の子。マイが手を振りながら走って来るところだった。
「おーい! 今、神社の帰り?」
「うん。話を聞いて帰ってきたところ」
「あー、間に合わなかったかぁ。うちも行きたかったんやけどなぁ」
側まで駆け寄ってきたマイの横で、ピッという音がする。先生がフォレスターの鍵を閉めた音だ。
「先生はちょっと学校に寄っていくので、今日はここで解散にしましょう」
「はーい」
先生の後ろ姿が校舎に消えるのを待って、マイに聞いてみる。
「ねぇ、マイ。昔の高木神社ってどこにあったか知ってる?」
「うん? わかるよ。ジルチのすぐ先。でももうお社も、鳥居も、何もないよ。あー、でも昔の御神木はまだあるかな」
ムツキ、アサノ君と顔を見合わせる。アサノ君が小さく頷いた。
「ちょっと今から行ってみない?」
「うん。全然いいけど、何かあったん?」
「歩きながら話そ」
旧国道へ下りる細い道を歩きながら、今日のことを順にマイに話した。高木神社はもとは大行事社という修験道の施設だったこと。そして、白い服の少年のこと。
「あー、白い服を着た男の子って……、ひょっとしてナラヒコ君かな?」
「ナラヒコ君? 知ってる子?」
「伊良原じゃ結構有名な……、怪談っていうんかな? 悪い意味じゃないけん、怪談ではない気がするけど。なんて言うんやろ。都市伝説? 七不思議? みたいな」
「どんな話なんですか?」
「えっとね……。小学校に上がるくらい、もしくは中学校にあがるくらいの子供が、上伊良原の高木神社に行くと同い年くらいの男の子に会うことがあるんやけど。その子はいつも白い修験服を着とるんよ」
「ちょうど僕達くらいってこと?」
「そう、でも。不思議と5個上の先輩が会った時も、自分と同じくらいの歳やったって言うてたし、10個上の先輩が会った時も同い年くらいに見えたって。そんで名前を聞くと『ナラヒコ』って名乗るんよ」
「え……。それって、歳を取ってないってこと? 何か怖くない……?」
「どうやろう。うちも子供のころ遊んだことあるけど、全然怖い感じはなかったんよね。少し無口な子って感じやったかなぁ」
「マイ、会ったことあるの!?」
思わず大きな声が出た。
「多分……、保育園の年長さんの時やったかなぁ。それも3月とかやった気がするけど。一時期、よく一緒に神社で遊んだんよ。小学校に入学してすこし経ったころから、会えんくなって。それから少したって学校の先輩に『それはナラヒコ君やね』って。うちも驚いたんよね」
「先輩いたんだ」
「驚くポイント、そこなんや。……まぁ、そりゃおるよ。うちらの5つ上かな。女の先輩が2人。もちろん今は街の方の高校に行っとるけど」
「まぁ、そうか。いても不思議じゃないか」
確かに、驚くポイントはそこじゃなかったなとマイに言われて気づいた。
「あ、そうだ。ちょっとジルチ寄っていこ。たぶんもうオタマジャクシになっとるよ」
あー、想像してしまった。あの沼を覆っていた卵が、沼を埋め尽くすオタマジャクシになってるところを。
「うへぇ。……見たい?」
「見るだけなら、見てみたい気もしますね」
「だね」
助け舟を求めて、振り向いたムツキとアサノ君に振られてしまう。味方だと思っていたのに。
「ちょっとだけやから、ね!」
そう言って、マイに連れられ私達は沼の方に足を向けた。
今考えれば、どうして、あの時、マイを止めることが出来なかったのか。




