悩み
東京から福岡の伊良原村へ引っ越して3週間。学園の入学式も終わり、初めての寮生活にも慣れてきた。数は少ないが新しい友たちもできた。と言っても、同級生はなんと5人しかおらず、しかも中等部の2年生、3年生の先輩は1人もいない。普通なら新学期のクラス替えの後、趣味の合う子を探すのが恒例行事だが、女子は3人しかいないので、そんなことは言っていられなかった。気づけば女子3人はあっという間に仲良くなり、今では毎日一緒に登下校をしている。
伊良原村には去年できたばかりの大きなダムがあり、ダム湖を東西に横断する伊良原大橋の上は、私の通学路でもある。橋の上から眺める景色は広々としていて、どっちを向いてもビルばかりだった東京の景色と随分と違う。
「もう学園には慣れました?」
隣を歩きながらそう聞いてきたのは同級生のムツキ。ムツキも伊良原村の外からやってきた山村留学組の1人だ。整った顔立ちに大きな丸メガネ、背中まである黒髪。学生鞄を両手で前に持ち、踵から足を置くように歩く姿はいかにもお嬢様といった感じがする。本人いわく普通の家庭だと言っているが、いつか正体を暴いてみたいと思っている。
「どうかなぁ、慣れたといえば慣れたけど……」
「……何か、悩みでも?」
「うーん、まぁ、そんなところかな」
「悩み事があるなら、占いなんてどうです?」
「占い?」
「はい。実は最近タロット占いにハマってるんです。まだまだ勉強中なんですけど」
「占いかぁ。やったことないなぁ」
「興味、ありません?」
「興味……、あるかもしれません」
橋の上を歩きながら2人で笑い合う。ちょうど青のフォレスターが横の国道496号線を通って行った。多分担任の大和先生だろう。
「では、マイちゃんにも見せたいので、明日学校に持っていきますね」
「見つかったら没収されたりしない?」
「見つからなければ大丈夫ですよ」
「そういう時って大体見つかる気がするんだけど、大丈夫かなぁ」
「大和先生は優しい先生だから、多分大丈夫です」
「うん、まぁそれはそうかも」
「綺麗な夕焼けですね」
「だね、伊良原にには何も無いって聞いてたけど、案外悪くないよね」
「せめてコンビニがあれば、と思わなくもありませんが」
「ね」
「そう言えばさ、お昼休みの初等部の子たちが話してた神社の話聞いた?」
「神社ですか?」
私達が通う伊良原学園には小中一貫校で、お昼休みはみんなで給食を食べる。なので、初等部の子達の話が聞こえて来たりすることもある。
「伊良原には二つ神社があって、どちらも高木神社って名前で。街から来た子はそんなこと知らないから1人は『上伊良原の高木神社』で待ってて、もう1人は『下伊良原の高木神社』で待ってったんだって」
「どっちも同じ名前なんですか?」
「不思議だよね。すぐ近くにある神社ならせめて後から建てた神社は別の名前にすればいいのに」
「確かに。呼びづらいですね」
「ちなみに上伊良原に住んでいる人が『高木神社』と言えば、『上伊良原の高木神社』のことで、下伊良原に住んでいる人が『高木神社』って言えば『下伊良原の高木神社』のことらしいよ」
「この人、どこに住んでましたっけってならないんでしょうか」
「マイは分かるらしい。あたし絶対覚えらんない気がする」
「私も自信有りません」
「あ、私こっちだ」
「はい。また明日」




