村
翌日の昼休み、昨日のことをマイに聞いてみようということになった。昼ごはんを食べながらする話ではないような気がして、ご飯を食べ終わり、教室に戻ってから声を掛ける。
「そう言えば、昨日の帰り、学校からちょっと下ったところで、村の人が集まってブルーシートで何か運んでたみたいなんだけど、マイ知ってる?」
「あー、うん。昨日タクんちのお爺ちゃんから聞いたんだけど、鹿が死んでたんだって。結構大騒ぎだったみたい」
「珍しいの?」
「うーん、珍しいかなぁ」
「山なので動物はたくさんいると思いますが、死体が見つかることってあまりないんでしょうか?」
「あんまり見んねぇ。道路で狸やイタチが車に引かれてたりするのは、よく見るけど。基本的にあれって人間が掃除せんのよね。集落の中なら誰か片付けたりするけど、村の外なら誰も触らんのよ。で、翌日になったら綺麗に無くなってる」
「無くなってるんだ」
「そう。山犬とかイノシシ、フクロウとかが夜のうちに運んじゃう」
一見死体を放置するのは残酷なようだが、それが自然のルールなのかもしれない。人が片付けるということは、山にいる動物の食べ物が無くなってしまうということなのは私でも分かる。
「でね、タクのお爺ちゃんって猟師さんなんだけど。お爺ちゃんがいうには、歯型から多分山犬のものだろうって。でも様子がおかしいっていいよったんよね」
「様子がおかしい?」
「うん。山犬って群れるんよ。山犬1匹で鹿1匹を運ぶのは無理やけど、5匹、10匹いたら鹿も運べるやん。だから、群れで狩りをするんだけど、狩ったあとはすぐに食べずに山に運ぶんやって。で、そこで食べる」
「それは、人に見つからないようにってこと?」
「そう。山犬の群れは滅多に村まで降りてこんのよ。早朝、それもまだ薄暗い時とかに、たまに見ることはあるけど、人に気づくとすぐに山に入っていくもん」
「そうなんだ」
「そう考えると、昨日は道のすぐ側で死んでいましたね」
「そうなんよね。しかも、お腹の部分。まぁ内臓を少し食べてそのまま放置して行ったみたいなんよ」
「どういうこと?」
「お爺ちゃん曰く『山犬が群れからはぐれ、腹が空いて1匹で鹿を狙うことはあるかもしれん。けんど、この立派な角を持った鹿を狙うのは危険やし、どうせ食べきれんから普通なら狙うこともせんやろう。いくらでもウサギやらイタチやらおるからな』って。なんでお爺ちゃんも不思議がっとったんよ」
「山犬かぁ……」
「この辺だと、山犬って神様の使いみたいな扱いなんよね」
「そうなの?」
「そう。村は人間の縄張りで、山は山犬の縄張り、みたいな考え方があるんよね」
「それだけ賢いってこと?」
「うん。まぁ、向こうは極力人間に会わないようにしてるみたいやから、会うことはまずないと思うけどね……」
「あの……、もし仮に。仮にですよ。呪いというものがあったとしてですね」
訪れた少しばかりの沈黙に、ポツリと言葉をこぼしたのはムツキだった。
「呪いは私達だけに掛かっているんでしょうか」
「どういうこと?」
「今朝、家を出る時、お母さんが隣のおばさんと話しているのを聞いたんですが。おばさんの家の庭にあるオガタマっていう木が枯れてたんだそうです」
「オガタマ?」
「何やっけ。神社によく植えられてる木?」
「よく知ってますね。私は名前を聞くの初めてだったので、朝調べてみたんですが、とても神聖な木だそうです」
「神聖な木?」
「ほら、神社で巫女さんが舞を舞う時、手に持ってる鈴ありますよね。あれはもともとオガタマの実をモチーフにして作られているんだそうです。そして日本神話に出てくる天の岩戸ってわかりますか?」
「知ってる。アメノウズメが舞を舞って、岩の中に隠れたアマテラスを誘い出す話し」
やはりと言うべきか、ムツキの話しに真っ先に反応したのはアサノ君だ。
「そうです。その時、アメノウズメが持っていたのがオガタマです。霊を招くと書いて招霊。ですが神社に植えられているというのは霊というよりも……」
「『神様を招く』みたいな意味なんかな」
「……つまり、神様を呼び出す木ってこと?」
「私もそう思いました。で、これまで起きた事件を並べると、私達の悪夢、タク君の怪我、山犬の異常行動、そして、枯れたオガタマ。これって何かでつながってたりしないんでしょうか」
「……というと?」
「呪われてるのは、私達じゃなく村全体だったりしませんか」




