ブルーシート
嫌な夢を見た。これまでに見た夢とは違うが、妙にリアルで忘れられないところが似ている。『蛇に食べられる夢』。いつものように寮を出て、ムツキと学校に向かったが、新しい夢の話はしなかった。今日から3日間は初めての中間考査で、夢のことを言うのはよくないと思ったし、それ以前に私も初めての試験で精一杯だった。みんなには試験が終わってから話そう。
「うー、やばい。数学全然わかんなかったよー」
「アオイ、終わったことは忘れて、今は次の美術のテストに集中しましょう」
何となくこれまでの授業で分かっていたことだが、ムツキとアサノ君の2人は頭がいい。試験にも充分に余裕を持って臨んでいる感じがする。対する私とマイは、2人についていくのがやっと、と言った感じである。以前、ムツキに勉強のコツを聞いたところ、「ちゃんと授業を聞いて、宿題をしっかりこなしていれば点は取れて当たり前です。もしそれでダメなら教える側の問題でしょう」と言っていた。言っていることは解るが、真似できる気はしなかった。悲しい。
そんなこんなで3日間の試験期間はあっという終わり最後の国語の試験も終わった。
「あー、やっと終わったー」
「お疲れ様でした」
「うち、ボロボロやった」
「アサノ君は?」
「まぁまぁ、かな」
「うあー、これは絶対良い点とりそうだ」
クラスメイトの最後の1人、タク君はまだ入院中。マイによれば先日やっとリハビリが開始されたのだとか。
「あ、そうやった。アオイが前に言ってたこと、タクから聞いてきたよ」
「前……?」
「神楽の夜、着地に失敗した時のこと! タクの様子を見て聞いてきてって言いよったやん」
マイはあれからも度々、タク君のお母さんの車に乗せてもらってお見舞いに行っているらしい。甲斐甲斐しいというのはこういうことなんだろうか。ちょっと違う気もする。まぁともかく様子を見て聞いてほしいと、私、ムツキ、アサノ君の3人でお願いしていたのだ。
「あー、聞いてきてくれたんだ。ありがとう」
「アオイ、まさか忘れてた?」
「んーん。そんなことはない。そんなことはないよ」
正直、初めての中間考査で一杯一杯だったというのが本音だが、忘れてはいない。
「で、タク君は何か言ってた?」
「みんなの推理通りだって。ジャンプをしてる最中に音がして、まだその時は『あれ?』くらいの感じだったらしいんだけど、着地したら、足が踏ん張れずにそのまま壁に突っ込んだんやって。背中から壁に突っ込んだ方の痛みの方が強くて、最初足が折れた時の痛みみたいなのは、一瞬のことであまり覚えてないって言いよったよ」
「あの夢と似ていますね。最初の骨折はあまり痛みが無くて『あれ?』って感じで。その後、激痛が走る」
「確かに」
ムツキの声に同意したのはアサノ君だ。
「……ねぇ、それとさ。中間考査の最初の日なんだけど……」
「どうかしましたか?」
視線が私に集まる。みんなの表情を見ると、何となく分かる。新しい夢を見たのは私だけなのだろう。
「私、別の夢を見たんだよね……」
「普通の夢じゃなく?」
そう聞いて来たのはアサノ君。
「たぶん違うと思う。酷い夢で、妙にリアル。目が覚めても忘れられないところはよく似てる、かな?」
私は見た夢の内容を、丁寧に説明した。様子のおかしな森の中にいたこと。周りを仲間が走っていたこと、人間を丸呑みするくらい巨大な蛇に飲み込まれそうになり、必死で抵抗したこと。そして、最後は丸呑みにされたこと。
「あの女の子は出てこなかったんですか?」
「出てこなかったよ、たぶん」
「アサノ君、どんな意味があるかわかる?」
「どうだろう。前の夢は骨折で、まだ現実味があったけど。人を丸呑みにするような蛇は、多分現実にはいないだろうし」
確かに。それもそうだ。
「仮に、この事件に誰か犯人がいたとして。その人物は、私達に何を伝えたいんでしょうね」
その日の帰り道、珍しく村の大人たちが7、8人集まっていた。軽トラックが一台。そして、荷台から大きなブルーシートを取り出し、広げて何かしようとしているようだ。多分、山に入ってすぐのところに何かがあるのだろう。
「こんにちはー。何かあったんですか?」
いつも通学時に挨拶するおじさんが居たので、声を掛け聞いてみた。
「あ、ああ。アオイちゃん。いや、何でもないんだ。ちょっと子供には刺激が強いから、見ずに帰ったほうがいい。そのまま帰ってくれるかい」
「え、っと。はい」
何となく言うことを聞いたほうがいいのだろう、そう察した。
「何が、あったんでしょうね」
「ね」
横を歩くムツキも、不穏な何かを感じたのだろう。
「山田。そっちを持ってくれ! 俺と尾形さんで頭を抱えるから!」
「おい! しっかり持ってくれ!こぼれて来ちまったじゃねぇか!」
そんな声が山の方から聞こえてくる。
山でブルーシートを広げ、頭を抱え、何かがこぼれる。多分、人ではない。人なら警察を呼ぶだろう。でも、何だか嫌な予感がした。




