離脱
翌週の月曜日、大和先生を捕まえて話をすることができた。と言ってもこの日も外部の学校の先生同士で勉強会があるらしく、あまり時間はとれないらしい。
「なるほど、そんなことがあったんですね」
私達はゴールデンウィークにあったことをすべて先生に話した。神楽の夜のこと、タク君の怪我のこと、そしてこの超常現象が『神様』に由来しているのではないかということ。
「どう、思いますか?」
「正直なところ、少し困惑しています」
「困惑、ですか」
「ええ。まず自分たちでこれを調べたという点は素晴らしい。自主性が高いことは喜ばしいと言っていいでしょう。そして、完成した推論もよく出来ていて、筋が通っているように見えます」
「……ですが、もし仮説が正しいとしても、それを解く方法は私にはわかりません。オカルトマニアであるという自負はありますが、私自身は超常現象にこれまで会ったことは無いんです」
それもそうか、オカルト研究会に所属していたからといって解決策を知っているわけではない。そういうことも有り得るのか。いや、むしろそれが普通だろう。
「それはつまり……、これ以上力は貸すことができない、ということでしょうか?」
「早合点はよくありません。困っている生徒が目の前にいて、心を砕かない教師はいません。が、今回のような問題では解決できるかは別、ということです」
正直、ホッとした。やはり大人の安心感というのは大きいのかもしれない。横を見れば、ムツキにアサノ君、マイも同じような表情をしていた。
「さて、その上でみなさんにいくつかお知らせがあります。……まずは残念なお知らせから」
先生は一息ついて話を続けた。
「初等部のタツミさんが転校しました」
「えぇー!!」
「ゴールデンウィークに入ってからですが、やはり小学1年生で怖い夢を何度も繰り返し見る、というのは精神的に負担が大きかったのかもしれません」
そう言えば、引っ越しの業者がゴールデンウィークのどこかで、寮の前に来てたかもしれない。
「ゴールデンウィークに入って実家に帰った際、ご家族に事情を訴えられたようです。ご両親から連絡があり、もともと行く予定だった小学校に転校させる、と」
何だかとても寂しい気持ちになった。あまり話したことは無いが、伊良原へやって来た仲間、そして同じ夢を見る仲間が減ってしまったのだ。
「フォローしてあげられるとしたら、同じ夢を見た私達だけだったかもしれませんね」
「……うん」
全く声をかけようとしなかったわけではない。ただ、話を聞いたときもどこか怯えた様子であったことを考えると、変に話しをして逆に怖がらせることにもなりかねないと思ったし、初等部1年生の授業の終わりが早く、私達の授業が終わった時には既に帰っていることが多かった。と言っても、今更何を言っても、言い訳にしかならないが……。
「そしてですね。ご両親から初等部の先生が話を聞いたのですが、『街に戻ってから、怖い夢を見ることもすっかり無くなったようだ』と仰っていたそうです」
「怖い夢を見ることもすっかり無くなった……」
「そうです。つまり、例の夢を見なくなる方法が、分かったかもしれません」
「……『街に戻る』ってこと?」
「どちらかと言えば、『伊良原を離れる』という方が適切かもしれませんね。幸い、と言っていいかわかりませんが、夢を見るのは外から来た生徒だけですので。と言っても、事例が一件しかないので、『伊良原を離れた』からと言って確実に『夢を見なくなる』と断言できるものではありませんが」
降って湧いた話、というのはこういうことを言うのだろうか。タツミ君のように東京に帰ってしまえば、あの怖い夢を見ることはなくなる。でも……。
「……夢は見たくないけど、そもそもお父さんとお母さんに『怖い夢を見るから、東京に帰して』って言える気がしないよ」
「だね、僕も」
「私なんて、家族で越してきてたのでもっと深刻です。伊良原に買った家を売るところからスタートです」
つまり、みんなすぐには帰らないということだ。
「……みんな帰ったら、うちとタクだけになるやん。そんなん寂しすぎる!」
「それはそうと、先生の立場で学園の生徒に『伊良原を離れろ』なんてまずいんじゃ無いですか?」
「あはは、確かに非常にまずいですね。校長先生には内緒にしておいてください」
本気なのか冗談なのか。少し困ったように笑う大和先生の姿が印象的だった。




