高木神
「まず、神様が夢に出てくるって話は日本中に山ほどある。古事記、日本書紀、伝説や伝承、昔話、お寺の縁起。とても追いきれないくらい。で、その中には僕達のケースによく似たケースもあった」
「似たケース?」
「パターン1。神様が困っている。村人の夢に現れ助けてくれと言う」
「あー、昔話にあったかも?」
「パターン2。村に危機が迫っている。村人の夢に現れ警告をする」
「これも聞いたことがあるような気がしますね」
「他にも、直接話をするパターンや、宝物の場所を教えてくれるパターン、選ぶべき選択肢を教えてくれるパターンなんかがあるんだけど、僕達の場合、パターン1かパターン2のどちらかに絞れるんじゃないかな」
「どうせなら、宝物が良かったなー」
「まぁ、そうだよね。僕も宝物探しをみんなでやる方がずっと楽しそうだなって思う」
そう言って苦笑いするのはアサノ君。
「まぁ、それはともかく。僕達の夢の内容を考えると、神様が『助けを求めている』。あるいは、『警告している』。のどちらかじゃないかな」
「うーん、どちらとも言えない気がするなぁ。話しかけようとしても金縛りにあって話し聞けそうにないもんね」
「私はどちらかと言えば『泣いている』を『助けを求めている』と解釈することができそうな気もします」
「ごめん、もうちょっとだけ調べたことの話をさせて」
「どうぞどうぞ」
「で、神様っていうとやっぱり神社だよね。なので、次は伊良原の神社を調べてみたんだ」
「2つの高木神社?」
「そう。厳密に言えば、伊良原には4つの神社がある。2つの高木神社と鷹窟大権現、鳴滝不動尊。だけど、高木神社以外の2つは一旦置いておこう。で、2つの高木神社なんだけど、どちらの神社も同じ神様を祀ってる。神様の名前はタカミムスビノミコト」
「タカ……?」
「タカミムスビノミコト」
「オッケー」
2度、3度、口の中で名前を繰り返す。うん、すぐに忘れそう。
「日本神話って宇宙を作るところから始まるんだけど、タカミムスビノミコトは最初に登場する3人の神様の1人だね」
「てことはすごい神様?」
「という言い方も出来るのかな。ただ、その後はあまり登場しなくなるんだけど」
「そのタカミムスビノミコトが夢とどう関わってくるんでしょうか?」
「タカミムスビノミコトには別名があって。それが高木神。字にすると高い木の神なんだけど、この神様は文字通り高い木の上に降臨して、他の神様を導くんだ。でも今の高木神社っておっきな御神木は無い。これって夢と関係ないのかな?」
「でもさ、木が無いって今に始まったことじゃないんじゃない?」
「それがそうでもないんだ。近所に住んでるお爺さん。寮によく野菜を届けてくれる人だけど、街から帰った時にたまたま会ったから話を聞いたんだ。昔は……、正確には去年までは、かな。下伊良原の高木神社、上伊良原の高木神社、2つの神社にはそれはそれは立派な御神木があったんだって」
「去年まで……?」
「あ……」
何か気づいたのか、ムツキが声を上げる。
「ムツキさんは分かったみたいだけど。そう、原因はアレ」
アサノ君は教室の窓の下を指さした。窓の外には一面の緑、そして遥か下にはダム湖が広がっている。
「伊良原ダム……?」
「そう。去年、伊良原ダムが出来たことで、2つの神社はダムに沈んでしまい、移築する必要があった。そして2つの神社の御神木は、さすがに大きすぎて持っていけなかったみたい。ちなみに、さっき出てきた鷹窟大権現、鳴滝不動尊はどちらもダムの範囲外にある神社なので移設する必要がない。だから、昔のまま」
「高木神と呼ばれる神様が、社を移してみたらちっさな御神木しかないから、怒ってる。ってこと?」
「という可能性もありなんじゃないかな。あの女の子はタカミムスビノミコト、あるいはその眷属」
「眷属……って?」
「一族とか、仲間みたいな感じですね」
「で、このタカミムスビノミコトの特徴がもう一つあるんだけど」
アサノ君は一息ついて話を続けた。
「この神様は、夢に出てきてお告げをする神様としても有名なんだ」
「夢に出てくる……神様」
「推測だらけではありますが、何となく線が繋がりましたね」
「つながった……のかな?」
「高木神社の神様は高木神ですよね。そして、去年ダムが出来たことで、2つの神社は否応なしに移築されることになったわけです。ですが、何故か新しい神社には大きな御神木が無い。だから……」
「パターン1。助けを求めている?」
ムツキが切った言葉を続けたのはアサノ君だ。
「パターン2。警告、つまり『怒っている』、という可能性もありそうです」
私にはどちらも有りそうな気がした。
「うーん、どちらかは分からないかぁ」
「タクの足をへし折ったことを考えると、『怒っている』の方が合ってるのかもしれない」
「あー、確かに。んー、てことは『怒っている』神様をなだめることができれば解決ってこと? 『怒っている』神様をどうしたら宥められるのかな」
「わかりません」
ちょっとした沈黙の後、やはり話を継いだのはアサノ君だった。
「一度、大和先生に相談してみるのがいいんじゃないかな? ゴールデンウィーク明けに話そうって言ってたし。何か別のことがわかるかもしれない」
「……呪いの解き方とか?」
「完全にスピ系ですねぇ」
冗談っぽく言うと、ムツキがお茶目な返しをしてくる。こういう冗談めいた空気を把握してくれるところが実に頼もしい。
「何ていうかさ。起きてる事件がスピ系過ぎて、お巡りさんに頼っても仕方なさそうなんだよね。……これはもう、スピ系を受け入れるしかない!」
「たしかに」
「ですね」
3人しかいない広い放課後の教室に、笑い声が広がった。




