調査
ゴールデンウィークも明け、久しぶりのホームルーム。教室にはタク君の姿はもちろんなかった。大和先生が言うにはタク君は右大腿骨完全骨折で手術を行い、骨がくっつくまでの間、しばらくは入院。リハビリが終わるまで1、2ヶ月学校を休むとのことだった。
「あのさ、僕、ゴールデンウィークにいろいろと調べてみたんだ。タクのことも知りたいし、放課後、集まらない?」
お昼休み、そう言い出したのはアサノ君だった。アサノ君はゴールデンウィークを実家で過ごしたが、やはりあの夢のことが気になり、インターネットや図書館に行っていろいろと調べてみたのだそう。先生にも声を掛けたが、マイと大和先生はタク君のお見舞いにいくらしく、放課後の教室に集まったのは私とムツキ、アサノ君の3人だった。
「……とりあえず、こんなところかな」
「……ですね」
ゴールデンウィークにあったこと、というよりも神楽の日にあったことを私とムツキでアサノ君に説明した。タク君が怪我をしたこと、怪我の場所がおかしいと感じたこと、怪我した時の音、白い服の少年、話したのはこんなところだ。
「ごめん。いろいろ有りすぎて、なんて言えばいいかわからないけど……」
「うん。とりあえず、タクの怪我はちゃんと治るって言ってたし、不幸中の幸いってところ、なのかな?」
「そう、ですねぇ」
「で、お昼にアサノ君が言ってたことって?」
「ああ、うん。簡単に説明するよ。まず、僕達が全員予知能力者であるという可能性は、確率から言って一旦否定するとして、先生が言ってた『夢を見せている存在』を調べようと思ったんだ」
「『テレパシー』、『ドリームウォーカー』、『神様』ですね」
「そう」
「まずは、『テレパシー』から。これは意外と調べやすかった。超能力の中でも一番有名だし、真面目に研究されてた時期があるみたい」
アサノ君は鞄からノートを取り出し、開く。覗き込むと几帳面な小さい文字がびっしり書き込まれていた。
「ライン博士って人が、アメリカの大学で何十年も実験してるんだ。ゼナーカードっていう、丸とか十字とか星とかの記号が描かれた5種類のカードを使って、送り手が見たカードを受け手が当てられるかどうか、ってやつ」
「5種類なら、適当に答えても5回に1回は当たりますよね」
「そう。だから何千回、何万回と試行して、20%より有意に高い正解率が出るかを見る。で、結論から言うと、ライン博士は『出た』って発表してる」
「じゃあ、テレパシーはあるってこと?」
「……そこなんだけど」
少しだけ、言いにくそうにアサノ君が続ける。
「同じ手順で他の研究者がやると、出なかったらしい。何度やっても出ない。今は、実験の手続きに問題があったんじゃないかって言われてる。カードの裏が透けてたとか、記録を付ける人が期待を持って見てたとか」
「あー……インチキだ」
「そう、でも結局のところ、結論は出ていないみたい」
「サブリミナルと同じ流れですね」
ムツキが少しだけ肩を落とす。
「うん。似てる。それでね、僕が言いたいのはここからなんだけど」
「うん?」
「テレパシーの実験って、何十年もかけて何万回もやって、それでも出るか出ないか揉めてるレベルなんだよ。5種類のカードを当てるだけで」
「……あ」
「僕達が見てる夢は、神社の景色があって、女の子がいて、着物の色まで一緒で、最後は骨が折れて終わる。骨が折れるところはそれぞれ別々だけど、他は全部一緒。カード1枚も送れないのに、あんなものが4人に送れるのかな」
言われてみれば、そうだった。
「つまり、今の現象はテレパシーでは説明できない?」
「少なくとも、僕が調べた範囲の『テレパシー』とは、スケールが違いすぎると思う」
「じゃあ、『ドリームウォーカー』の方は?」
「こっちは逆だった。全然、調べられなかった」
「調べられなかった?」
「出てくるのは映画とかゲームとか小説とか、あとは個人のブログばっかりで。書いてあることがそれぞれ全部違う。夢に入れる、夢を書き換えられる、先天性、訓練すれば誰でも使える。唯一、それらしいものといえばインディアンのシャーマニズムに由来しているっじゃないかってこと。多分シャーマニズムを元に誰かが物語を作り広がっていった創造物に近いんじゃないかな、たぶん」
「……確かに。私も『繰り返し見る夢』を調べていて、同じことを思いました。書いた人が何を根拠にしているのか、書いていないんです」
「そうそう。図書館にも行ってみたんだけど、そもそも『ドリームウォーカー』って項目が無いから、調べようがないんだ」
「先生、どこでその言葉を知ったんだろう」
「オカルト研究会の内容にもよりますが、いわゆる創作物に準拠するものも多いのかもしれませんね」
ふと口に出たが、誰も答えなかった。
「で、最後が『神様』」
アサノ君がノートを一枚めくる。今度のページは、次のページにまたがっているようで、他の二つより明らかに文字が多かった。
「神様については少し、いや結構かな。面白いことがわかったよ」




