救急車
ムツキの話を聞いて、ことの重大さに気づくが考えても答えが出るような問題ではない気がした。
「ねぇ、そう言えば、帰りがけに鳥居のところにいた男の子、見た?」
「真っ白な服を着た子、ですよね」
「うん、『気をつけたほうがいい』ってどういうことだろう」
「……わかりません」
「だよねー。すれ違い様に声を掛けられて、思わず振り返った時、いなかった……」
「階段をダッシュで駆け上がり、灯籠の後ろに隠れた……なんて時間はありませんでしたよね」
「あれ、幽霊なのかな」
「どうでしょう。不思議とそんなに怖くありませんでしたが……」
「ムツキは幽霊平気?」
「まぁ、それ相応に……、苦手です。アオイは?」
「うーん、いたらいいなぁって思ってる」
「スピ系ですね」
「うあ。違うけどまぁ、でもいないとは思ってるよ。いたらいいなってだけ」
橋の上に小さな笑い声が広がる。あんな光景を目の当たりにしたせいか、何でもいいから少しだけ笑いたい、そう思っていた。ムツキも同じように思っているのかもしれなかった。まだ遠くから祭囃子が響いている。マイの話では、神楽は日付を跨ぐくらいまで続くらしい。言ってみればまだまだ中盤ということだろう。
「でもさ、不思議だよね」
「はい?」
「骨折する夢を見た私やムツキじゃなくて、夢を見てないタク君が骨折しちゃうなんて」
「確かに……。そう言えば、私、今朝また例の夢を見たんです」
「まじかー、私もまた見るのかなぁ。嫌だなぁ」
「それで今気づいたんですが……。骨の折れる音って夢と随分違う気がしませんか?」
「え? ああ、うん。どうだろう」
「夢で骨が折れる時に聞いた音と、今日タク君の骨が折れた時に聞いた音。今日聞いた音の方が、随分はっきり聞こえた気がするんです」
「そういえば、そうかも。夢の方はもっと曇った音というか」
「ですよね。私、夢の細かいことは伝えてませんでしたが、首の前に足の、それも太ももの骨が最初に折れるんです。その時の音って、今日のあの音より随分小さくて。『あれ?折れてたんだ?』って感じなんです」
「私もそうかも、最初は手の指がポキポキパキって感じで折れるんだけど、痛みもそんなに無くて……、でもさ、自分が骨折した時の音と、他の人が骨折した時の音って、やっぱり違うんじゃない?」
「それは……、そうかもしれないですね」
ダムの下流の方から救急車の音が聞こえてくる。伊良原はかなりの田舎、救急車を呼んでもすぐにはやってこない。あの時、誰かが呼んだ救急車なのだろう。やがてけたたましいサイレンの音が、私達のすぐ横を走り抜けていく。
少ししてスマートフォンが震えた。見ればマイからメッセージだった。タク君の家族がすぐに来れないらしく、マイも付き添いで病院に行くらしい。最後に『祭りの案内、ちゃんと出来なくてごめん』と謝罪するメッセージが添えられていた。




