↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その少年、呪いと呼ばれし者  作者: 一ノ瀬 リマ
第一章 王都編 ~王宮へようこそ~
8/22

第三話 報連相はしっかりと





 あれから二日。俺はというと、やはり寝ていた。前回のようにずっと寝続けたわけではなく、何か口にしたとき以外は寝ていた。



「さて、もうすぐ王都に入る頃。長い馬車の旅も終了だ。お疲れ様。」



 ほとんど寝ていた俺にしてみれば、特段、長かったというわけではないが…


「(あれ? そういえば、どこに行くか、結局聞いてないよな?)」



 今更ながら結局、俺をどうするつもりなのか聞かされていないことに気づいた。


――というか、もはやその話題、避けられていたんじゃ…


 そんなことを思いながら、それとなく口にする。



「結局、俺なんか拾って、誇り高い王子様たちはどうするつもりなんだよ?」


「ああ、そういえば、話していなかったね。」



 話しぶりを聞くにタイミングが悪かっただけなのだろう。



「ふっ、というかそれ、皮肉を言うより、先に確認することじゃないのかい? ふふっ ふは、はっは」



――余計な暴露


 寝ている時間以外はもう少しあった。俺は目の前の二人と目が合うたびに皮肉を言い続けていた。何を言っても、微笑みながらそれっぽいことを返してくるだけだったので、よほど興味がなかったようだ、と思っていた。それが突然笑い出すものだから、俺は一瞬、処理しきれなかった。


 王子二人からしてみれば、――最初に小屋で会った時のすべてを諦めた瞳に少しだけハイライトが戻ってきた――その変化を微笑ましく見ていただけだったので、興味ないと思われているなどという俺の勘違いを知れば、普段の表情が一瞬、たれ耳の犬のようになる可能性すら孕んでいるなどというのは当然、俺のあずかり知らぬ話だった。



――そんなことより、笑っている時間あったら説明してほしい。



 確かに皮肉ばかり述べて、大事なことを確認しないなど滑稽と評されてもおかしくないと思ったが、それも一瞬のことですぐに思い直した。


――いや、そんなこともあると思う。この道中で死ねるならばどれほどよかったものか。今更、小屋を連れ出されただけではその考えを改めることはなかった。きっとまた襲われる、きっとまた失われていく。呪いというのはあながち間違いじゃない。



「大丈夫ですか?」



 深まった思考はカイエルの声で浮き上がる。とりあえず頷き、視線をずらしておく。いまだ笑いの止まらないレオナルトに変わり、不思議そうに俺を見ていたカイエルが説明を始めた。



「通常、王族が保護した孤児は王家が経営する孤児院に入れられるというのが決まりです。ただ、これは私たちのわがままで半分、君の状態的影響半分といった感じで、このまま王宮へ連れて帰ってしまおうと思いまして。」



 拍子抜けだった。


――こいつら、アホか? 「おかしなやつら」じゃなくて「アホ」だったのか?



 いや、多分どっちもなんだろうなと分析が始まりかけて、思考を何とか現実に留める。


 思い返す。確かに二日間の眠りに落ちる直前以外で一度でも自分の今後を意識したことはなかった。当然、口にもしていない。しかし、これは聞かれなかったからで済まされていい話だろうか。察するに最初に疑った『意図的に伝えられていなかった説』は案外、間違っていなかったのかもしれない。


 そんなことを思い浮かべる片隅にふっと疑問がよぎる。


 そういえば、今日の思考はいつもよりにぎわっている。――こんな騒がしかっただろうか。


 冷たい水があったなら、きっと頭からかぶった。なぜか今、というかもはや今更のほうが適切と言えるだろうか。とにかくそんな思考に陥った自分が少し嫌だった。なんとなく、今はそういうのはいらない気分みたいだ。


――外の空気がいつもよりもおいしい…


 随分と近くなった、見たことのないほど大きな門に目を向け、とりあえず、どうでもいいことに思考を切り替えた。



「王宮へ連れて帰る? ……ハッ、今度は偉い奴らのために働けって? そんなん御免だな。」



――ポカン



 王子二人は、そんな効果音を鳴らしていた。まるで君にそんな発想があるとは、とでも言いたげなくらい、唖然としていた。相変わらず、笑っているレオナルトがやっと、というように口を開く。


「君を使用人にするつもりはないよ。ふふっ ほんと君、面白いね? 流石にないだろうさ、孤児を連れて帰って来たと思ったら、わがままで本人の意志も聞かずに働かせるなんて。ふはっふふ、ああ、ダメだ。笑いが収まりそうにない。」



――なんで笑うんだよ。なんでずっと笑い続けるんだよ。俺の何が面白いんだ。



 俺の戸惑いとは裏腹にレオナルトは笑い続けていた。その空気を遮ったのはカイエルだった。



「もう、兄上、ほんとその辺にしておいてくださいよ? それで君は使用人ではなく、王族となるんですよ。」


「…バカじゃねぇの…………あっ」



 言うつもりはなかったが、ついに言葉に出てしまった。先ほど散々、おかしいだのアホだの言ったが、所詮は己の思考の中の話。声に出なければ、それでよくても声に出れば話は変わる。かと言って、何か問題があるわけでもないしいいだろう。ここは安定の興味のなさを発動させた。



「ふふ、そんなに難しいことじゃないんです。さっき言ったでしょう? 『君の状態的影響』

それがヒントですよ。王族入りして勉強することになれば、すぐ習うことの一つでしょうから。ほら、君には名前がないでしょう?」


「それがヒントなら随分と不親切なようで。」


「いえ、そんなことないですよ? なんなら、人に聞いてみるといいですよ。概要程度であれば国民は基本答えられる問ですから。もっとも、勉強するより前に聞くことになると思いますが。」



 はてさて、一般人でも言えるようなことを彼らはなぜ口にしないのか。不思議なことだと思ったがそれ以上でもなんでもなかった。



「それはそうと、これだけは話しておかなければいけないんでした。詳しいことは習った方が早いでしょうから、省きますけど、三柱制度という制度があって――」


「カイエル、着いたようだよ。」


「もう着いてしまいましたか……、まあ、私たち三人仲よくしましょうねって話です。」



 急に雑な説明になった。


――その話はここでやめていい話か? 大体なんで俺が仲良くって…


 そんな考えとは裏腹にちょっとだけあんなことを考えたからだろう。



「さあ、降りておいで。」



 そう言って、俺を手招き、そっと手を差し出したレオナルトに対して。


――まるで王子様のよう…

  あ、この男、その王子様だった…と。


 だから、それに流されるようにして無意識にその手を取ったんだと思う。



「ふ、やっと、自分から手を取ってくれたね?」



 そう微笑んだレオナルトはなぜだかこれまでよりも、そして俺が見てきた何よりも、うんと美しく映っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。