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その少年、呪いと呼ばれし者  作者: 一ノ瀬 リマ
第一章 王都編 ~王宮へようこそ~
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第二話 雪解けの始まり

第一章 第二話を開いていただきありがとうございます。

どうぞ、お楽しみください。


 「……。

   ――。……うっぅ」


ゆっくりと意識を取り戻す感覚の中で、また今日も無事に起きてしまったんだ

と思う。


身じろぎ、体を伸ばそうとして何かから落ちそうになる。

というか、このままでは落ちていた。

そっと触れ、俺の体を支えた手へ視線を向け、

徐々に腕をのぼり、やがて首へと到達する。

最後の一息、すんでのところで覚醒し始めた意識がそれより上を見る前に

身体を動かした。


ガタン


 「うっぅ、ィっ」


後ろに引こうとしてぶつかる。


そもそも普段ならば、床で寝ているため、

落ちるなんてことにはならない。

だから、一瞬混乱した。

それも一瞬のことだったが。


 ――誰、だ? …あっ…



 「すみません、驚かせてしまいましたか?

  でも、良かったです。二日も目覚めないなんて、本当に心配しました」



 ――二日…


そんなに長く寝続けたのは初めてだった。

疲れていたのだろうか。


それに…


 ――心配…


久しく言われた記憶のないことに思わず、小声で言い返す。



 「……死んでしまえばいいと思ってるくせに…」


 「っ、…… 少し、お話をしましょうか。」



小さな声を拾い、返ってきた言葉は俺が想定していたどんな言葉とも

違うものだった。

その顔は少し歪められていて、その声は先ほどまでのものとは明らかに

異なっていたが、それをどう形容すればいいか、俺には分からなかった。


ただ、それは昔、母親が死んだそのときに俺自身が感じたものに酷く近いような気がした。


――そもそも、あのときの俺は何かを感じていただろうか?


そんな考えに俺はなんとなく不快感を味わった。



 「まずは自己紹介といこう。

  私の名前はレオナルト・アリステオン・ヴァルネアス、

  ここヴァルネア王国の第一王子だ。そして、」


 「弟のカイエル・ナイアス・ヴァルネアスです。

  ヴァルネアの第二王子です。

  その…、一応、聞きますが、君の名前は?」


 「…そんなものねーよ。」



俺は問いに雑に答え、すぐに黙った。


 ――「名前」なんて言葉、いい事ないよ。


    「ごめんね、ごめんね。

     あなたの名前は呼んであげられないの。

     でも、それでも私たちは本当に愛してるわ。」


「名前」結びついた古い記憶は俺の中に鮮明に残っているもののひとつだった。


そんなことを考えていると、沈黙の末にようやくカイエルと名乗った男が

話を続け始めた。



 「先ほど、君は『死んでしまえばいいと思っているくせに』と言ったでしょう。

  でも、私たちはそんなこと思っていませんよ。

  二日前、君を助けた理由を話したことを覚えていますか?」



頷くことなく、その真意を探るように、カイエルを見続ける。

カイエルは少しだけ苦笑をこぼしながら、話を続けた。



 「あの話を聞いただけでは義務感や正義感と言ったものが理由で助けたと

  思われるかもしれませんが、そういうわけではないんです。

  私たちはただ、小屋で出会った君を「助けたい」と思ったから助けた、

  それだけなんです。」



俺の反応を待っているようだったが、これにも返さなかった。



 「その人となりすら知らない相手を助けるのは打算あってのことか、

  義務感や正義感など、と言った可能性が高いでしょう。

  しかし、最初は「だから助けようと思った」、だったとしても、

  実際に対面したとき、感情が揺さぶられたから、

  それは打算や義務感などではなくなった。

  そこに残ったのは私たちが最終的に君を「助けたい」と思った、

  という事実だけ。」



一度言葉を切り、俺の様子を窺うように少しだけ間を置いた。



 「ではなぜ、私たちは対面した君を見て、心を揺さぶられたのか。

  その問いに対して、証明するなにかはありません。

  だから、君がどう思うかはわかりませんが、

  それでも知っていてほしいことがあるんです。」


少しだけ、空気が変わったような気がした。


 「それは、君が眠ってからの二日間、

  私たちは確かに君のことを心配していましたし、

  君が今日、目覚めてくれたことを心の底からうれしく思っている、

  ということですよ。」



この五年まともに人と会話をした記憶などありはしない。

一方で自分に向けられた強い視線とともに届く、

感情をまっすぐに表した言葉は何度でも聞いてきた。

しかし、カイエルから向けられた視線はそれらというよりかは、

そうした視線を向けてきた「やつら」が家族に対してするような、そんな何か……


 ――こんな感覚知らない。


それなのに懐かしくて、目の前が今までのモノクロではない何かに見えたような気がした。


視線だけではない。

その声までもがいつもの俺を少しだけ瓦解させにきていた。


それは少なからず、さっきの言い表せなかった声の影響もあるのだと思う。

というか、あってくれなくては困ってしまう。

先ほどの言葉を詰まらせた時とは、まったく反対だったからなんだと。

とにかく、うんと甘さの増した声だった。



 「わけわからない。」



せめて、こう返すのが精いっぱいだった。


なんだか流されたような気がして、そんなことはあってほしくないと思った。

だから、

それでも今の言葉を忘れないようにしよう、と思う自分がいることからは

目をそらした。

次にレオナルトが言葉にしたそれと共に



 「今はわからなくとも、時の流れがその時を運んでくるだろう、きっとね。」



その日の俺はどこかいつもより軽やかだった。



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