第十二話 知らないことを知っていくきっかけを
昼食を終えた昼下がり。
俺たちは庭園を離れ、王宮を歩いていた。
俺にとっては当てのない旅。
どこへ向かうかを頑なに教えようとしない二人の意図がよくわからなかった。
教えようと教えまいと行くところは変らない。
ならばなぜ隠すのだろうか?
そんな疑問を抱えながらも俺はついて行っていた。
今更ながらに不思議に思う。
こんな一人だけ彷徨う者の気分になって、さっきの銀食器のこともあって、昨日だって泣きじゃくって……
それでも俺はどうして一緒にいるんだろうか。
突き放そうと思えばいつだってできるのに。
いや、突き放さなかったわけじゃない。
でも、今一緒にいるのは俺が突き放さないことを選んだからだ。
どうしてこんなに違うのだろうか。
これまでと同じようにできない。
今までと違う自分が怖くて、なのに……
彼らから目を逸らせないのは――
ふと、視界に映っていた足がその速度を緩め、止まったことを認識する。
足元から視線を上げ、二人を見て、そしてその奥へと意識は奪われていった。
「……ッ、何、これ……本?」
その景色は見たことのないものだった。
見渡す限りの本棚にはぎっしりと本が詰められ、上を見上げれば一体、何階分なのだろうか。
三か四か、あるいは五階分だろうか。先ほどまで確かに廊下を歩いていたはずのその空間は、突如として吹き抜けの本棚へと姿を変えていた。
壁が本棚になっていて、壁に接するように螺旋状の階段が上へと伸びていく。
とにかくどこを見回してもそこには本しかなかった。
「ここが王宮の図書スペース。ここは申請さえ通せば一般人も入れるところだ。」
レオナルトがそれはそれは当たり前のように口にするものだから、夢でも見ているのかと思った。
この王宮にはたくさんの本があるって……
修正してほしい。
たくさんなんてもので収まっていれば、どれだけいいものか。
――でも、本ってこんなにあったんだ……
小さな世界にいたことを痛感してばかりで、でも大きな世界が怖くて、それなのに大きな世界の方がどうしてこんなに俺を見てるんだろう。
ちっぽけで明るい光なんて灯していない俺なんかを……
「っ!! 大丈夫ですか? 嫌でしたか?」
カイエルが驚いたように聞いてきた。
俺はしばらくその理由がわからなかった。
ただ、頬を何かが流れるような感覚があって、数秒遅れて気づく。
――な、いてる?
涙のわけはわからない。
でも、心配されるのが嫌で。
違う、そんなんじゃなくて、そうじゃなくて。
だって、悲しんでるって思われたくなくて。
嫌だったわけじゃなくて。
たったそれだけで……
――この気持ちは何?
わからないよ。
誰か教えて。
言葉にして伝えなければいけない気がするのに伝えられなくて、苦しくてでも藻掻くしかない。
そもそもどうして二人に勘違いされたくないのかも分からない。
それでも、その答えを探すことよりも否定することを選んでしまった。
「……違う。なんでかわかんない。けど、悲しいとかじゃなくて……」
二人は驚きながらもそっと微笑むとこう返してきた。
「もしかしたら、うれしかったのかもしれませんね。」
「あるいはやっと自然に息ができたのかもしれない。」
泣いてるのに?
悲しくないのに。
でも懐かしくて、暖かいものを感じられるような気がした。
「うれしい、のかな……」
――泣くって何なんだろう?
「なあ、俺は今からでも……いや、何でもない。」
口にしようとした言葉に自分が分からなくなり、最後まで言うことは叶わなかった。
そうして、二人から目を背けようとした時だった。
レオナルトは一歩踏み出し、本棚の壁を愛おしむように指先でなぞりながら言った
「知れるよ。ステリー、君が願う限り、君は変わっていけるんだよ。
ここにはそのきっかけがいくらでもあるから。」
言葉にしてないはずのことの答えが返ってきてしまって、聞きたくないと一瞬でも思ってしまったから言わなかったのに、その言葉は説得力に満ちていた。
こんな大量の本を背に言われてしまったから。
――知りたい。
いつか、本を読んでいた時の気持ちが逆流してくるようなで、でもそれとは違う何かだった。




