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その少年、呪いと呼ばれし者  作者: 一ノ瀬 リマ
第一章 王都編 ~王宮へようこそ~
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第十一話 銀食器と罠と失態とあれこれ


そうして、庭園を眺めていること少し。

どうやら昼食の準備が済んだようだった。


運ばれてきたのは一段目にサンドイッチ、二段目にスコーン、

三段目にペストリー・ケーキ…

いわゆるアフタヌーンティーかと思えば、それ以外のものも机に並び始める。

湯気の立つ小ぶりのミートパイ、ローストビーフの薄切り、温かいコーンスープ。

昼食にしては豪華なそれはお腹のすいた俺にとってはありがたいもので、ガゼボになんて連れ出されたものだから、軽めのものしか食べられなさそうという俺の考えはどうやら甘かったらしい。


――おいしそう……

  ハイティー形式ってどうやって食べるんだっけ?


そんな疑問は持ちつつもやはり無駄のない洗練された所作をなんて事ないように行う。

ただ、スプーンを持ち、奥から手前へとそのスプーンをスープに潜らせ、すくい上げると、そのまま口へ運ぶ。

それだけの動きがまるで神聖な儀式のように見えるほど美しいそれは本当に不思議だとしか言いようがないらしいが、当の本人からしてみたら、小さいころからこうしているだけなので、さっぱり理解できないのである。


ふと、視線を感じ、そちらを見る。



「どうかしたのかよ。」


「いえ、聞いていたというか、知ってはいましたけど。とてもきれいな所作だなと思いまして。」


「本当にな。こうして、ちゃんとした食事を一緒にするのは初めてだろう?

改めて驚いたよ。」



どうやら二人も俺の所作が気になったらしい。



「別に両親はこうだったし。変な風に食べると怒るんだよ。ちゃんとしなさいって。」


「随分と礼儀作法に厳しかったんだな。」



そう返答はされたものの、二人は何か納得のいかない表情を浮かべていた。


そして、返答があったころにはスープはすでに飲み終えていた。


――あ、早く飲みすぎた。絶対、お腹空いてたやつって思われたじゃん。


そう考えた時ふと懐かしいことを思い出す。



『もう、優雅に食べて頂戴。それだけはやめてはいけないわ。』


『まあまあ、いいじゃないか。子どもらしさがあって。』


『そうかもしれないけど、それでもだめよ。だって――』




「何を奪われても、誇りだけは守れるわ……」



そっと記憶をなぞるように言葉が零れた。


それを聞いた二人は少し驚いたような顔をした後、静かに尋ねてきた。



「それは両親の言葉かい?」


「あ、……多分。意味は分からないけど。」


「そうかい。やはりなにか……」



レオナルトは何か言ったようだったが、よく聞き取れなかった。探ろうと思った時にはいつも通り圧倒的な余裕で隙を見せない彼に戻っていた。


――あ、おいしい。


ここの紅茶は何を飲んでも相変わらずおいしかった。

スープが飲み終わった頃にぬるくも熱くもない程よい温度に淹れられた紅茶、それが今飲んでいるもの。

ミルク入りのそれは口を整え、次のミートパイを食べるのには最適と言えるだろう。


ナイフとフォークに手を触れ、味に期待を寄せる。


パリ


食べやすいサイズに切ろうと刺したナイフとフォークが奏でた音。

そこからほのかな香りを運ぶ湯気はそのまま食べてしまいたいほどもったいないと思った。


――って俺はこんなに食事を楽しむキャラじゃないんだが……


自分の変容には驚くものであったが……

まあ、おいしいものが悪いだろう。


さすがの俺も食事の前では歳相応なのであった。


さて、お味はいかがかなと口に含んだ直後、味を噛み締める暇もなく、それは起こった。


結論から言おう。

最悪だ。


それはレオナルトのとある一言が発端だった。



「ところでステリー、毒は疑わないのかい?」



――は?


この王子はまた何を言い始めるんだか……

いや、待て。


思い当たることが一つだけあった。


それはそう。シルビー婦人との初邂逅。

彼女を煽るためという名目で紅茶を入れ替えさせたこと。


今考えてもなぜ怒られなかったのか疑問な程のその行為はどうやら筒抜けのようだった。


俺は出任せに慌ててそれっぽい返答をする。

そして、墓穴を掘った。



「いや、別に、ほら、銀食器だし……」


「ふッ……そ、そうだな、ふ」


「なんだ…よ……あ」



確かに食事の乗ったお皿もナイフやフォークも銀食器だった。


しかし、ティーカップやソーサーはどうだろうか。


お察しの通り、違ったのだ。


――磁器……


これで紅茶を飲む前にスプーンでも入れて混ぜていれば言い訳はできたがもはや時すでに遅し。

絶妙な顔で楽しげにこちらを見てくる二人の記憶を今すぐ抹消してしまいたかった。


兎も角気付かないふりを貫いた。

二人の会話とともに。



「ふっ惜しいですね。ティーカップは磁器…」


「肝心の所が、ねぇ。ハハッ」


「でも、可愛いので、ふふ」



ミートパイの味は半減だった。

その後も紅茶を味わいながら、ゆっくりと食事を取り、結果、すっかりお腹は満たされ、さっきの失態についてはとりあえず、無理やり忘れた。



「さて、そろそろ本命の場所へ移ろうか?」



その声に合わせて立ち上がった二人をとりあえず追いかけながら、これで終わりでいいと思いはしたものの言わなかったのは何故だろうか。

いつもならきっと言っていたのに……



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今後ですが、毎日投稿を続けていく予定ではありますが、次回作の用意もしたいと思っていますので、更新頻度が落ちるかもしれません。

完結までの道筋はすでに立ててありますのでご安心ください。

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