第六話 王族となる資格を有すとは
抱きしめられてからしばらく。俺たちは執務室の手前の方にあるソファーに腰掛け、
机をはさみ、王と向かい合っている。
――完全に流された。なんで…
家族なんて認めてない、認めたくない。
――だって…
その瞬間、少しだけわかったような気がした。
あの時、母が死んだあの日、父が死んだあの日…
ちゃんと悲しいを感じていたことを。
――ああ、もうやだ…
全部さらされていく。
この心の城壁が崩れるのはそう遅くない、そう警戒音が鳴っているのに…防衛しきれない。
それが嫌で嫌で仕方なかった。
息を吸い込んでそれに任せて、言った言葉はどんな言葉だったとしても捨て台詞のようにしか聞こえなかっただろう。
「で? 本気で言ってるのかよ。」
「冗談でいい大人が幼気な少年をからかったりはしないよ。」
俺の様子を伺いつつ、王は話を始めた。
「この国には三柱制度というものがあってね、正規の二代目だか、三代目の王が作ったと言われているのだが、その制度には王を決める際、王と共に二人選出して、その三人がともに国を担っていく立場となる。対外的には国王は一人を定めているが、内政的には三人で国王という役割を背負っているようなものなんだ。」
「ちなみにですが、正規の王というのは数え直す前の本当の二代目、三代目の王のことを示しています。我が国は歴史がありますから、途中で何代目かを見失ったらしく、そこで数え直しを図ったということがありまして。」
「もう数えるの、諦めてもいいと思うけどね。」
「レオナルト。」
「兄上。」
呆れた顔がそっくりな二人と別に間違ってはいないだろという感じが拭いきれないレオナルトたちの話は続く。
「それはさておき、その三柱制度の三つの柱のうち三つ目の柱には王族でなくても、一般の市民だったとしてもなることができる。つまり、誰でも三柱目の候補に上がれば、王族となることができるということだ。」
――へぇ。それで納得はできないけどな。
第一、その候補に挙がるのが孤児では無理だと思う。
流石にその俺の考えはお察しという形で話は続けられた。
「この国の王位継承権を争う際はこの三柱が全員決まっていて初めて正式な立候補となる、という決まりがある。その際、三柱目の者はそれ以外の二柱の者が国王らに申請を出し、それが受理されることで王族として迎え入れられることとなっている。」
――つまり、レオナルトとカイエルが俺を二人の三柱目に推薦したと。
……はあ、やたらと、名無しにこだわってるし、名無しの権威は
すごいらしいし。
結局、利用したいだけ…
そう考えようとするが、ふと馬車でのカイエルの発言が頭をよぎり、思考が止まった。
――チッ 何、かどわかされてるんだよ…
大体、なんで…そうだよ、なんでだ?
おかしかった。ここまでを見る限りとてつもなく優秀で年齢もそこそこ…
――ん? てか、こいつら、いくつだよ。
これまで、人の年齢なんて気にしたことがなかった、というか気にする対象がいなかったのだから当然ではあるが、居たとしても興味のある範囲ではなかったと思う疑問が思い浮かぶ。
「なあ、お前らいくつなんだよ?」
「私たちか? 随分と急だな。私が二十歳でカイエルが十七だ。」
――まあ、見た目通りか。
特に驚く要素ではなかった。
強いて言うなら、意外と二人の歳が離れていたことくらいしか驚く要素はなかった。
――でも…
「…その三柱目は他の誰かの席だろ?」
二人は少しばかり驚いたように表情を変える。
「いや? 確かに候補がいなかったわけでもないが、それを踏まえても私たちのその枠は誰のものでもなかったさ。」
「ええ、特に引き入れたい人がいなければ、お願いしますと約束していた者がいただけで、その方に関してはそれがあろうとなかろうと兄上の側近から外れることはありませんからね。」
それでいいわけない、とは思いつついい情報を得たとも思った。
「そんなに俺がいいの? 利用したいだけじゃねぇの、やっぱり。」
「ああ、ステリーを王族にするための口実だから、気にする必要はないよ。」
――ステリー?
「その呼び方いいですね、兄上。私もこれからそうします。」
どうやら俺のことのようで呼び間違いとかでもなかったらしい。
――愛称って…
…それ、俺に似合って、ねえよ…
あっ、違う…
口実って…
もはや、呆れるほかなかった。
「本当に気にしなくて大丈夫ですよ。ステリーがしたいようにしてくれていいので。」
じゃあ、めちゃくちゃにしてやるよ、などという気力もないほど呆れた。
重ね重ねもうわけがわからない。
もう頼みの綱で欲望があってほしいとこれを聞く。
「じゃあ、なんで俺を王族にしたいんだよ?」
答えたのは義理父(認めてない)だった。
しかし、回答までに少し間があり、それはあえてなのか、本当に詰まったのかこの三人はちっとも読み取らせてはくれない。
「君が名もなき孤児だったからというのは大きいだろう。この国の宗教はこの国の成り立ちの神話からきている。
それを無碍にするような王族であってはならないからの。
ただ、それだけとは言わないし、私的な理由であることも認めよう。だが、それが君を利用しようというものではないと断言する。」
何かあるらしい、本当の理由を教えてくれる気はないようだった。
おまけに断言とまで言われては嘘だとはつき返せなかった。
それが、この男が王である故なのか、さっきから俺のリズムが乱れてるせいなのか、どちらにせよ面倒になった。それならそれで、俺も利用するだけ…
――なんか、調子狂うな…
それから少し、一通り重要事項も話し終えたところで今日はお開きとなった。
しばらくは、先ほど着替えた部屋を使っていいらしく、俺はレオナルトのメイドたちと執務室を後にした。
二人はというと、王に話があるらしく、『またあとで行きます』とだけ言われた。
まあ、そもそも聞く限り、横領だかなんだかの調査であの村を訪れていたらしいので、それの報告でもするのだろう。
ちなみに来なくていいと思ったのは別の話。
――はあ、でもなんで『ルミステリアン』なんて…確か、『光』だったか。
それだけは聞いておけばよかったかもしれないと思った。
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