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その少年、呪いと呼ばれし者  作者: 一ノ瀬 リマ
第一章 王都編 ~王宮へようこそ~
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第五話 ヴァルネア王国 幾万代を継ぐ王 アレクサヴェル

第一章 第五話をお開き下さりありがとうございます。


 着替えを終え、歩いて数分。

前を行く二人は一つの扉の前で足を止めた。


コンコンコン


レオナルトは部屋の主に、カイエルは俺に声をかける。


「父上、先ぶれを出した通り、少年を連れてまいりました。」


「さあ、おいで。」


――ついに…


先ほどよりも広いはずの部屋は不思議と広さを感じさせず、意識は徐々に正面、一番奥の机へと流れていく。意識なのか、視界なのかはわからないものが画角を定めていき、やがて一人の人物が露わになる。


一目で圧倒されるような荘厳さがありながら、不思議と恐怖を感じるわけでもない。

まるで、そこに完成された玉座があるかのよう、しかし至って普通の椅子、間違いなく執務室と呼ばれるであろう部屋のはずだった。

ここでは流れる空気すら、かの人物の者なのだろうか。数秒たりとも経った気はしない。しかし、確かに十数秒、俺がそこに視線が合い、それを理解する、そのための時間が用意されていたと思う。


やがて、かの人物の口元が開き、ゆっくりと息を吸いだすのに合わせ、忘れられていたような気がする呼吸をする。



「よく来てくれたね。

私がヴァルネア王国 第11,984代目国王 アレクサヴェル・エルディオス・ヴァルネアスだ。

君に会えてうれしいよ、まだ名もなき少年。」



恵みの水、零れ落ちるしずくのようにして落とされたような気がするほど、確かな威厳があれど、何も縛らない声だった。


レオナルトに背中を押されなければ、俺がこの場で口を開くことはなかったかもしれない。



「っ―… 初め、まして…」



やっと口にした言葉が言葉と言っていいものかは微妙だったが。


王は口にする。



「我が国は神話の時代より続きし国。その歴史は実に約270万年と言われている。そんなこの国の神話、宗教観において君のような『名もなき子ども』は神聖なものとされている。この国では大概、生まれたその子どもを見て名前を付けるのもみな最初は神聖な存在であることを時に刻むためだ。」



重みのあるはずの事柄が不思議と重くないにもかかわらず、耳を逸らすことは一瞬たりとも許されない。

そして、王は立ち上がりこちらへ向けて歩みを進めてくる。



「名もなき少年よ、君が八歳という年齢まで神聖なままであったことに感謝しよう。我が国が平和であったのもきっと、君のおかげだ。」



理解が追い付かない。


――何が…


しかし、話は続けられる。



「一方でね、これから先は君の人生を歩むべきだと思うよ。」



一瞬のことだった。まったくもって、速足などではなかったはずの歩みが俺の目の前で止まったのは。



「とある申請が出されているんだ。今の君を守ってくれるいい手段だと思うし、何より『名もなき孤児』の君ほど資格を有した人などいないだろう。

ルミステリアン・セラフィオン・ヴァルネアス、今日より君をヴァルネア王国 第七王子とする。」



――資格? それに今なんて? 

  ルミ、ルミ、ルミステリアン?


冗談などではなかった。王族になるなんて言うのは本当に話半分だと思っていた。

申請というのはおそらく、レオナルトとカイエルがやったんだろう。

それでも、王は資格があるからと言った。


――名もなき孤児


理解できずに王を見つめる。すると、王は少し口元を緩ませた。



「なに、難しく考える必要はない。君は今日から私の息子だよ、ルミステリアン。

ようこそ、我が家へ。新しい家族を心から歓迎しよう。」



気づいた時には腕の中だった。抱き寄せられて初めて王を人だと認識できたような気がした。

ただ、そのぬくもりが歓迎を示しているのだけは伝わってきたものだから、拒むこともせず、受け取るしかなかった。



「な、まえ…」



      

     『ねえ、どうして僕には名前がないの?』


     『―――――。

             ただ今は――――。』


     『でもそうね。

     あなたが大きくなれば、――――――の

     ――――――ときが来るかもしれない。

     そうしたら、――――――――――――。

     だけど、これだけは忘れないで。

     ――――――――が――ことを。』





――なんだろうか。


いつも思い出す、苦しいものとは違った。

しかし、それと同時に思ったのは確かいい思い出だったということだった。


――いつか思い出せるだろうか。

  今は思い出せなくても、いつか…


()()()、なんてことを思い浮かべた自分に驚きは拒絶を試みようとした。

でも、それをしきれず、残ったのは包んで隠しっていたはずの俺の一部なような気がした。

そのまま、零れたのは本心であるはずない言葉だった。



「…よろしく…お願い、しま、す…、おと、うさま…」



でも、それを聞いた目の前の人物はそれが俺の本心とでもいうように喜びを浮かべた顔をしていた。



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