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オーバードーズ  作者: 昭島吾郎
第2章 半グレ組織 Remnant Shade
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第19話 辺理恵城の決着

ディスコホールの照明が、赤と青に明滅し続ける。

倒れた牛浜 真翔の前に、俺は静かに立っていた。


その時、ホールの横手の扉が開いた。


国立 慶悟「遅くなった。迷宮みたいな廊下で手間取ってな。」


国分寺 好美「あなたが一人で先に行ってたのよ。……無事でよかった。」


2人とも傷はない。それだけで十分だった。


そして、ホールの奥の扉が、ゆっくりと開いた。


そこから現れたのは——


エリック・シンキバだった。


ツーブロックの髪が、薄暗い照明に浮かび上がる。その瞳には、これまでと異なる深い色が宿っていた。その両脇には、ニコ・シンキバと舞浜 睡蓮が静かに佇んでいた。


中神 恋莉「……エリック。」


エリック・シンキバ「牛浜を倒すとは……よくやったな。」


俺は一瞬、エリックを見つめる。その視線は、単なる敬意ではなく、対等な者同士の眼差しだった。


エリック・シンキバ「だが、ここからが本番だ。」


エリックが背中から、長ドスを引き抜いた。通常のドスとは異なり、その刃渡りは明らかに長い。より重厚で、より危険性を増した武器。その刃は、薄暗い照明の中でも光を反射している。


ニコ・シンキバ「あ……あのドス……」


ニコの声に、かすかな不安が混じっていた。これまで見たことのない武器。これまで見たことのない兄の表情。


慶悟が一歩前に出ようとした。俺はそれを手で制した。


中神 恋莉「お前らは手を出すな。」


国立 慶悟「……わかった。」


国分寺 好美「……気をつけて。」


エリック・シンキバ「お前に一つ、聞きたいことがある。」


中神 恋莉「何だ。」


エリック・シンキバ「お前は、本当に青梅連合の部下か?」


俺は一瞬、沈黙する。


エリック・シンキバ「違う。お前は舞津直属だ。俺と同じく、あの男の駒。」


中神 恋莉「……」


返答しない。返答する必要がないからだ。その事実は、既に露わになっている。


ニコ・シンキバ「え……?」


ニコが初めて、その真実に気づく。この人も——兄さんと同じなのか。


エリック・シンキバ「米原会の時代からな。俺たちは皆、舞津の駒だ。」


中神 恋莉「それで、今日のお前の役割は何だ。」


エリック・シンキバ「査定だ。お前がどれほどの力を持つか、この目で確認する。」


中神 恋莉「なるほど。」


エリック・シンキバ「だが——」


エリックが長ドスを掲げ、その刃が光を放った。


エリック・シンキバ「本気でいくぞ。恋莉。」


静かに構えを取った。肩の力を抜き、呼吸を整える。


中神 恋莉「来い。」


―――


その瞬間、エリックが動いた。


長ドスの一撃は、牛浜の攻撃とは比較にならない重量と速度を持っていた。直感的に身を引く。長ドスが空を切る音が、鋭く響く。


エリック・シンキバ「どうだ。」


即座に反撃の一撃を繰り出す。長ドスが弧を描き、俺を狙う。肘で受け流す。衝撃が走る。牛浜より、明らかに力が大きい。


中神 恋莉「(牛浜より強い……)」


エリックが一気に間合いを詰める。長ドスが何度も振り下ろされる。防ぐ。避ける。受け流す。


だが、エリックの攻撃はまだ本気ではない。それは俺の知覚で、明確に感じ取ることができた。


エリック・シンキバ「米原会の時代……舞津は俺にRS結成を指示した。何のためか、今もわからない。」


エリックは攻撃しながら、言葉を続ける。


エリック・シンキバ「だが、強い奴が現れれば……その奴に従う。」


長ドスが頭上を掠める。


エリック・シンキバ「それがお前だったわけだ。」


反撃を試みる。左手を突き出し、エリックの腹部を狙う。しかし、エリックはその拳を長ドスで受け止めた。


エリック・シンキバ「(やはり速い……)」


―――


戦闘が激化する。


エリックの長ドスと俺の拳が何度も衝突する。その都度、空気が揺れ、ディスコホールの照明が揺らぐ。


ニコは、その戦いを黙って見守っている。兄が本気を出している。それは一目瞭然だった。


徐々に、俺が優位に立ち始めた。エリックの攻撃を正確に読み、かわし、反撃する。


エリック・シンキバ「(まずいな……)」


エリックは一呼吸置き、両手を広げた。


中神 恋莉「?」


その瞬間、エリックの周囲に光が集まり始めた。


エリック・シンキバ「では、本気をお見せしよう。」


光が、俺の視界を一瞬奪う。光が爆発的に広がる。


その光が収まった時——


そこには、3人のエリックがいた。それぞれが長ドスを構えている。


ニコ・シンキバ「え……!?」


睡蓮も、その光景に目を見開いている。


3体のエリック「さあ、来い。」


中神 恋莉「(3体……同時に……)」


3体のエリックが、それぞれ異なる方向から一気に襲いかかる。正面から上段の斬撃、右から横薙ぎ、左から下段の突き。三方向から同時に。


防ぐ。避ける。受け流す。


だが、複数を相手にすることで、反撃の機会が失われていく。一体をいなした瞬間、別の一体が間合いに入ってくる。三体の動きが連動していた。まるで一人の人間として動いているようだ。


中神 恋莉「(これが本気……か)」


全力で後ろに下がり、距離を取る。しかし3体は散開して包囲する。逃げ場がない。


3方向から波動が同時に放たれた。身をひねり、二つは躱す。しかし一つが腕をかすめた。血が滲む。ヴィラルクスの自己回復が働くが、3体相手に被弾を重ねれば話が変わる。


ニコ・シンキバ「(この人……本当に……強い……)」


ニコの目に、涙が浮かんでいた。兄がここまで本気を出している。それでも、この人は——


再び3体が同時に踏み込んでくる。今度は間隔を詰めすぎず、互いの攻撃が干渉しない絶妙な距離を保っている。一体目の斬撃を躱した瞬間、二体目が俺の側面に回り込んでいた。咄嗟に腕を交差させて受ける。衝撃が走る。三体目が背後に——


体を低く落として回転し、三体目の脚を払う。しかし倒れない。分身体は本体と同等の力を持っている。


中神 恋莉「(削り切るのは難しい。ならば——一気に全部まとめて。)」


距離を取りながら、左手に力を集める。3体がそれを見て一斉に間合いを詰めてくる。


今だ。


腕から青白い波動が放たれた。今回は絞らない。これまで以上の規模で、3体全てを同時に包み込むように広げた。


中神 恋莉「全力で。」


波動が3体のエリックを一気に襲った。3体が同時に光に包まれ、消える。


そして、1人のエリックが床に倒れていた。


―――


深く呼吸をする。初めて、相応の力を使わなければならない敵と戦った。


エリック・シンキバ「ぐ……ああ……」


倒れたエリックは、重い呼吸をしている。その額からは、血が流れている。


エリック・シンキバ「参ったな……。本気でお前に敵わない。」


エリックは、ゆっくりと立ち上がろうとする。それを邪魔しない。


エリックが立ち上がるのを待ちながら、ホールを見渡した。


その時、横手の扉が開いた。


国立 慶悟「……遅くなった。」


慶悟の声は平静を装っているが、その右手の拳には血が滲んでいた。服の裾も乱れている。相当やり合ってきたのは明らかだ。


国分寺 好美「私も。」


好美の息は整っているが、その目には普段にない疲労の色があった。2人とも、それ以上は何も言わなかった。言う必要もなかった。


エリック・シンキバ「……お前の仲間たちも、城の中で相応の相手と当たったようだな。」


エリックはそれだけ言って、かすかに口元を緩めた。


中神 恋莉「……そうらしいな。」


慶悟と好美が倒れた牛浜 真翔を一瞥し、それから俺を見た。何があったかは、説明しなくても伝わったようだった。


エリック・シンキバ「恋莉。お前は立川を出ろ。」


その言葉は、静かだが確かな重みを持っていた。


中神 恋莉「……いいのか。」


エリック・シンキバ「舞津は俺にこう教えた。『強い奴には従え。その奴の邪魔をするな』と。お前は俺より強い。だから、俺はお前を解放する。」


エリック・シンキバ「舞津に報告しろ。あの男なら『行け』と言うだろう。」


中神 恋莉「分かった。」


しばらくの沈黙が、ホールに流れた。ミラーボールが赤と青の光をまき散らし続けている。


その沈黙の中で、ニコ・シンキバは兄とエリックのやり取りをじっと見ていた。その表情には、何かが滲み出かけていた。決意とも、迷いとも取れる、揺れる色だ。しかし、まだ口を開かなかった。


舞浜 睡蓮は、その隣で静かに立っている。表情は動かない。ただ、その目だけが——エリックでも恋莉でもなく、どこか別の場所を見ているようだった。何を考えているのか、何を知っているのか、まるで読めない。


エリック・シンキバ「それと……。」


中神 恋莉「何だ。」


エリック・シンキバ「この先、お前はもっと大きな敵と戦うことになるだろう。その時が来たら——」


エリックが、一瞬、ニコと睡蓮の方を見た。


エリック・シンキバ「俺も同じ方向を向いている。覚えておけ。」


中神 恋莉「……ああ。」


ディスコホールの照明が、再び赤と青に明滅する。


戦いは終わり——しかし、何かが始まろうとしていた。

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